日本人の海外旅行促進で旅行会社は何ができるのか? 最新トレンドから業界のリーダーが提言

日本の海外旅行市場は2016年に燃油サーチャージの下落、円高が後押しとなり、2013年以来3年ぶりの1700万人台に回復、2017年はそれを上回る勢いで推移している。その一方で、旅行形態が多様化し、ネット経由や直販が台頭するなど環境が激変しているのも現状だ。既存戦略にとらわれず新たな顧客を開発するために、旅行会社は何をすべきだろうか。

2017年9月に開催された「ツーリズムEXPOジャパン フォーラム2017」の海外旅行シンポジウムでは、「顧客のニーズはどこにあるのか?」をテーマに、日本で長く観光業に携わる外国人、海外旅行販売のトップリーダーたちが集まり、国内外の最新動向から今後の戦略を示唆するプレゼンテーションが行われた。

パネリストはメキシコ政府観光局のギジェルモ・エギアルテ駐日代表、クオニイジャパンのビクトー・ロペス代表取締役社長、ワールド航空サービスの松本佳晴代表取締役社長。モデレーターはJTBワールドバケーションズの生田亨代表取締役が務めた。

「ミレニアル世代へのアプローチが不可欠」――メキシコ観光局・エギアルテ氏

海外旅行シンポジウムでは、まずメキシコ観光局のエギアルテ氏が基調講演。観光局からみた日本の旅行市場について、21世紀に入り、グループから個人への変化、スマートフォンによるデジタルレボリューション、ジェネレーションギャップなどが生まれていると指摘したうえで、「定番ツアー、オールドマーケットは淘汰されるターニングポイントにきている。日本は今こそチャレンジする時だ」と提言した。

エギアルテ氏は具体的なチャレンジとして3つの方法を提案。一つ目はクラシックデスティネーションに文化的な価値を加えて新ルートを生み出すことで、パリと近郊地域のサイクリング、ワインツーリズムの組み合わせ、ジャズや新しい美術館めぐりといったディープニューヨークなどのルートを紹介した。

また、2つ目は東京以外の地方発のモチベーションアップ、3つ目はニュートレンドの担い手として現在の20~30代にあたるミレニアル世代の重要性にふれ、「ニューマーケット、ニューチャレンジ、ニュープロダクトの3つに挑戦していこう」と会場に呼びかけた。

「ONE SIZE FITS ALL時代は終わった」――クオニイジャパン・ロペス氏

続くパネルディスカッションでは、クオニイジャパンのロペス氏とワールド航空サービスの松本氏がそれぞれプレゼンテーション。ヨーロッパを中心に全世界を取り扱うツアーオペレーターであり、日本に来て23年になるというロペス氏は「グループの少人数化、サプライヤーのイールドマネジメント強化、世代交代、ウェブの浸透など、これだけ環境変化が起きているにもかかわらず、日本のパッケージの形は私が来日した90年代とほとんど変わっていない。日本の海外市場は今でも“ONE SIZE FITS ALL”でいいのか。これからの旅行業は顧客のニーズを知るマーケティングの力と企画の力にかかっている」と訴えた。

とりわけロペス氏が強調したのが、ダイバーシティに着目したマーケティングとデジタルへの対応だ。

「世代別マーケティングだけでなく、女性の社会進出、LGBT、富裕層、在日外国人など多様性(ダイバーシティ)に伴うビジネスの機会を日本の旅行会社は世界の潮流に比べ逸している。このままでは彼らは直接、海外のサプライヤーやOTAを利用するようになる。また、ウェブなしにこれからのビジネスはなく、個人が興味あるものだけにアクセスできるスマートフォンの応用がさらに重要になる」などと指摘した。

「旅行会社の協業が新市場を開拓する」――ワールド航空サービス・松本佳晴氏

大局的な視点から日本の旅行業界の課題と挑戦を指摘した外国人両氏に対し、商品を造成する側から直近の成功事例としてウズベキスタン・サマルカンドへの直行チャーター便ツアーの取り組みを紹介したのが、ワールド航空サービスの松本氏だ。

15年には約6500人だったウズベキスタンへの日本人旅行者は、16年に約7500人、17年には約9000人に躍進する見込み。きっかけは15年10月に安倍晋三首相が中央アジアを歴訪するとともに、JATA(日本旅行業協会)ミッションがウズベキスタンに派遣。両国の経済関係を強化する第一歩が観光になるとの考えで一致し、商品化に向けて動き出したことだった。

もっとも、ワールド航空サービスではすでに70年代からシルクロードをテーマとした中央アジアへの商品を扱っており、興味がある顧客はすでに参加していた。そこで、日本からの定期便が就航している首都タシュケントではなく、シルクロードへの要衝であるサマルカンドに直行チャーターを就航することで新たな顧客を創造できないと考え、業界最大手のJTBワールドバケーションズに話を持ちかけて複数社によるチャーターを実現したのである。

松本氏は「もはや呉越同舟と言っている時代ではないと思った。中小企業でもアイデアを出して他社と協力することで、新たな市場を開拓することができた」と述べた。

日本の海外旅行市場をリードする3氏のプレゼンテーションを受けた生田氏は、「今日は大きなヒントをいただいた」と評価。「私たちはニューマーケット、ニューチャレンジ、ニュープロダクトの3つに挑戦していかなければならない。クラシックデスティネーションに文化的価値を付加するとともに、シルバーから若い世代へ、特にミレニアル世代へのアプローチも重要だ。FITに合った商品開発、世代別マーケティングをさらに細分化したダイバーシティにも着目したマーケティングが求められている。ウズベキスタン・サマルカンドへの直行チャーターの実現は、新しいルートを開発することで市場を開発できた事例だ。JATAでも『ヨーロッパの美しい村30選』などの旅行会社の枠を超えた共同プロモーションに取り組んでいる」などとまとめた。

取材・記事 野間麻衣子

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