世界から見た「日本の空港」の可能性と未来とは? 成田空港に暗雲の予測、転換期に明暗を分けるポイントを航空専門家に聞いてきた

世界の航空データを取り扱うOAG社は、日本の空港における需要予測で冷徹な数値をはじき出した。このほど、OAG社のアソシエイト・コンサルタント、ジョン・グラント氏が来日。「長らく成熟期にあった日本の空港を取り巻く環境が、大きく変わり始めた。これから面白い展開が増えていく」と語る。

太平洋アジア観光協会(PATA)や国際空港協会(ACI)の会議に登壇し、英国では、BBCの航空・空港担当コメンテーターとしても活躍するグラント氏に、世界から見た日本の空港の可能性と未来予測を聞いた。

空港の未来で明暗を分けるのは何か? 同氏は、「データとインテリジェンス。そこから導き出される戦略だ」と力をこめる。世界の中でも、最も成長著しいアジア新興国マーケットに囲まれている日本は、「非常に明るい未来に恵まれている。ただし、変動期のダイナミクスと無縁ではいられないことを覚悟するべきだ」とグラント氏は指摘する。空港運営についても同じだ。

「国民の10%がパスポートを持っている中国はもちろん、インドネシア、フィリピンなど、旅行需要の成長著しい周辺国からそれほど遠くない旅行デスティネーションとして、日本には無限大の可能性がある」(グラント氏)。だがコスト効率に厳しいLCCの台頭や、民営化され、サービス拡充に力を入れる空港間の競争もますます激しさを増していく。

日本では、空港といえば、公共施設としての側面が重視されてきた。乗り入れる航空会社も、かつては国営企業が珍しくなかった。しかし航空会社の現状は、「利幅(マージン)5%ほどと収益率は決して高くない。空港選びで採算を度外視するわけにはいかない。そこで世界の空港は、より多くの路線誘致につながるよう、効率よいサービスやプロダクト開発にしのぎを削っている。こうした動きにあまりにも疎い人が多いことが、今の日本のリスクだ」と警鐘を鳴らす。

羽田と日本には明るい未来、成田には暗雲

2020年までにインバウンド4000万人達成の目標を掲げる日本政府は、目下、羽田空港と成田空港、両方の運用拡大により、首都圏発着枠の大幅増に向けて動きだしているが、実際の需要はどう動くのか。

OAGでは、世界各地を運航する航空データをもとに、様々な分析を行っているが、同社がこのほどまとめた成田空港と羽田空港の需要予測には、冷徹な数字が並ぶ。

OAG予測データによると、羽田空港では、2020年からのスロット大幅拡大に伴い、供給座席数(国内・国際線合計)は前年比1119万席ほど増加し、翌2021年以降も順調に増え続ける。ところが逆に、成田空港の供給座席数は2019年の2623万3780席がピークで、2020年は前年比765万席のマイナスに転じる。理由は、成田から羽田への路線シフトが始まること、成田には、これを埋めるほどの新規需要が見込めないことだ。

勝ち組は、羽田空港そして訪日需要全体。成田空港は、少なくとも短期的には厳しい状況に陥る。

グラント氏は「世界各国の航空各社と話せば、誰もが日本路線に関しては、成田より羽田空港を利用したいと言う。これから成田に乗り入れたいという航空会社が果たしてあるのか疑問だ。例外は貨物ぐらいだろう」。

最大の理由は周知の通りロケーションだ。成田空港から都心へのアクセスが遠すぎるという問題は、抜本的な改善がないまま現在に至る。「羽田空港の方が都心に近いため、航空運賃が高く設定できる。航空会社が一番、欲しい旅客セグメントは法人客だが、法人需要は圧倒的に羽田支持だ」(グラント氏)。

こうした事情から、羽田空港のスロットが拡大すれば、今までは成田に乗り入れていた航空各社も、一斉に羽田空港への路線統合へと動き出すというのが同氏の見方だ。これは米系キャリアに限った話ではなく、例えばエールフランスはすでに今夏からの羽田/パリ増便を申請している。これが世界の本音だ。

両空港の座席数予測(OAGの資料に基づきトラベルボイスが作成)

中国の地方都市からの直行便がもたらすインパクト

過去20年ほどの間に、航空機材の改良がめざましく進んだことも影響している。かつては運航距離が長いため、成田経由が多かった北米/アジア路線がノンストップ運航へと切り替わっていった。さらに札幌や福岡など、インバウンド需要が拡大する地域のゲートウェイ空港では、組織の民営化が動き出し、独自の路線誘致策が活発化していることも、成田の一極集中が崩れていった要因としてグラント氏は挙げる。

例えばフィンエアーは、2019年冬からヘルシンキ/新千歳に直行便を開設する予定だ。冬季に北海道路線を就航する狙いは、ニセコへのスキー需要。オーストラリアに続き、欧州からのスキー需要が果たして定着するのか、様々な意味から注目を集めている動きだ。

首都のハブ空港を経由しない、地方空港から地方空港への路線による旅客誘致の成功事例もある。「タイのプーケットは、中国の地方空港からの直行便を増やすことで、旅客需要を爆発的に増やした。オーバーツーリズムという副作用は問題だが、適切なマネジメントにより、双方地域に恩恵ある形での成長を実現することはできる」(同氏)。

同じような展開は、首都圏から離れた日本のリゾートエリアでも今後、想定できると話す。例えば、沖縄は英語が通じるうえ通年で温暖な気候があり、富裕層向け宿泊施設も充実していることから「海外からの直行便需要が十分にある」と注目している。

では、成田空港はどうなるのか。グラント氏は、成田と羽田の関係に似た事例の一つとして、ロンドンのヒースロー空港とガトウィック空港を挙げる。ロンドン中心部から離れたガトウィック空港が盛況な理由の一つは、国内線への乗り継ぎが便利なこと。だが、これも成田空港の場合、弱点の一つだ。

もう一つのカギは、LCC路線の充実だ。グラント氏は、最も可能性がある成田空港の将来像として、レジャー需要中心のLCC路線の誘致と、インターネットで予約できる便利な乗り継ぎサービスや、宿泊を伴うプロダクト開発に活路があると話す。ピンチはチャンス。新しい形の移動手段や、トランジットの楽しみ方が生まれていくことを期待したい。

空港運営が面白い時代になってきた

「世界的には、公共施設というより、事業主体である空港施設が増えている。そうしたなか、例えば欧州では、一人10ドルほどで、空港ラウンジ利用や、セキュリティ検査などの手続きがもっと迅速かつ快適に受けられるファスト・トラックのサービスを有料で提供する空港が増えている。空港の収益アップやサービス差別化につながっている」(グラント氏)。

日本の空港でも民営化の動きが始まり、面白い取り組みがどんどん登場する楽しい時代になっていくだろう、とグラント氏は予想する。その際、重要なのは、まず利用客像をデータから正確に把握することだと説く。「どこの国・都市から来ているのか、旅の目的は買い物か、文化体験か?予算は?すべてデータから読み取ることができる。また自社空港だけでなく、国内外のライバル空港など、周辺の動きも把握する必要がある」。

例えば日本の地方都市発の旅客は、成田や羽田だけでなく、韓国・仁川空港を経由して、海外デスティネーションへと乗り継いでいく需要が目立つという。こうした動きをデータから知り、本当の需要がどこにあるのか、正確に見極めることが、空港や地域活性化のカギと説く。

またインバウンド誘致においては、アクセスとなる航空座席や交通手段のキャパシティーの確保が大前提と強調する。「南米ペルーでは、大規模な予算を投下して、ナショナル・ジオグラフィック誌でゴージャスな写真や広告を展開したが、航空座席がすでに足りない状況だったので、注目度はアップしても旅客数は増えず、投資額に見合う効果は得られなかった。PRしても、アクセス手段がなければ話にならない」とグラント氏。

東京五輪の開催で、日本が注目されることは間違いないが、これを実効性のあるインバウンド市場拡大につなげるためには、「航空路線をもっと誘致する必要がある。その際、空港に求められている役割は、航空会社へのサポートと、効率的でスムーズなオペレーション」と話した。

最後に、ラグビー・ワールドカップや東京五輪の開催を控えた日本へ、旅行全般に関するアドバイスを求めると「大至急、電車や買い物などの決済キャッシュレス化を進めること。日本はテクノロジー先進国というイメージがあったが、実際に旅してみると不便だった、と感想をもらす外国人旅行者もいる」とグラント氏。厳しいが、率直な本音にしっかり向き合うことが、次への競争力につながる。

取材・記事 谷山明子

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