米政府、ビザ申請でSNSアカウントの記載義務化へ、観光需要への影響やプライバシー保護はどうなる?【外電】

米国を訪れる国外からの観光客市場は、かつてはもっと盛況だった――。おそらくこう言って差支えないだろう。

米商務省全米旅行観光局(NTTO)がまとめた統計(暫定値)によると、2019年上半期の訪米外国人旅行者数は、前年同期比1.9%減。加えて市場シェアも縮小している。旅行業界団体の米国旅行協会(USTA)によると、2016年以来4年連続でマイナス成長となり、今年は11.3%。2016年は13.0%だったが2022年には10.9%まで落ち込むことが予想されている。これは米国経済にとって、外国人客による消費額1800億ドル(約約19.8兆円)の損失となることを意味する。

このようななか、同国の状況に追い打ちをかけるように国土安全保障省(DHS)がこのほど打ち出したのが、ビザ申請のオンラインシステム(ESTA)の必須入力事項に「ソーシャルメディアのプロフィール情報」を追加する方針だ。これが、米国の旅行関係者の間で新たな懸念材料となっている。具体的には、ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどで投稿する際に使うアカウントすべてが対象となる。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

現在、38カ国が米国のビザ免除プログラムの対象で、このオンライン申請システムを利用している。DHSでは、過去5年間に主なSNSで使用した「ソーシャルメディア上のユーザーアカウント情報(ユーザーネームやID、ハンドルネームなどと呼ばれるもの)」の申告を義務化する方針。これまでは、こうした情報の開示は任意となっていた。

個人アカウント情報は、フォロワーや友人などでなくても把握できるような、公開されているものに限定される。DHSでは、こうした情報があればビザ申請者が「問題ない人物であると確認する」のに役立つ一方、「虚偽や詐欺、過去には確認できなかった安全保障上の問題や法令違反を特定する」助けにもなると説明している。今回の要求事項の見直しは、ビザ免除プログラムだけでなく、移民受け入れ制度やその他のビザ手続きも対象となり、影響を受ける人は3300万人にのぼる見込みだ。

USTAで政治・公共問題を担当するトーリー・バーンズ取締役副代表は、制度の変更により、訪米旅行者の主要送客市場が冷え込むことを心配している。

「もちろん安全保障は重要だと常に考えているし、旅行にも不可欠なことだ。しかし今回のプログラム見直しが、セキュリティ対策上どこまで効果的なのかは疑問だ、というのが我々の見方だ。犯罪者が正直に自分のソーシャルメディアでの言動を申告するはずがない」とバーンズ氏。「結局、法を順守して暮らしている人ばかりが影響を受け、米国に行きたいという気分を削がれてしまうのではないかと心配している。ただでさえ訪米需要はスローダウン気味で、我々は世界中の旅行者に、訪米を呼び掛けて努力しているというのに」。

バーンズ氏によると、USTAでは国務省とDHSの上層部に対し、こうした懸念をすでに伝えている。米・ケイトー研究所の調査によれば、1975年から2017年までにビザ免除プログラムで米国に入国した人物が関わったテロで、犠牲となったアメリカ人は一人だけだという。

「特になし」「その他」の選択肢を選んだ場合

DHSが今回の見直しを発表したのは2019年9月4日。各方面からの意見を公募する期間が3カ月設けられている。これは小さな変更のようにも見えるが、重大な変化となる可能性もある。米国では2016年12月以降、ビザ免除プログラム申請者に対し、ソーシャルメディアのアカウント情報をESTAフォームの任意欄に記入することを推奨していた。しかし、2020年から新方針が施行されると、オンラインでビザを申請する際、必ず記入しなければならない欄という扱いになるという。

申請フォームのソーシャルメディア欄には、「特になし」「その他」といった選択肢も設けられる見込みだが、ソーシャルメディアにアカウントを持っている人が、自身の哲学やプライバシーを理由に情報開示を拒否した場合、ビザ申請が承認されるのかどうかは不明だ。当局によると「ESTAを管理管轄する米国税関・国境警備局(CBP)では、ソーシャルメディア情報を提供しない申請者についても審査は行うが、必要事項が未記入の場合、手続きの遅延や、申請者の審査が不可能という判断もありうる」。

スキフトではDHSに対し、申請者がソーシャルメディアにアカウントを持っており、それがグーグル検索などで入手できる公開情報ではあるものの、申請フォームでは情報の非開示を選択、「特になし」「その他」にチェックを入れた場合、どうなるのかについて、詳細な見解を問い合わせた。DHSには、数回に渡って「この場合、申請は却下されるのか?」という問いに対するコメントを求めたが、いまも回答はない。

DHSでは以前から、訪米申請者のソーシャルメディア・アカウントを手作業で検索することが認められていた。ニューヨーク大学法科大学院のブレナン司法センター(Brennan Center for Justice)では、政府当局が「国家の安全保障」を名目に、ソーシャルメディアなど各種データを収集・利用している状況について調査しており、最近そのレポートを公表。「担当官は“懸念すべき情報”や“さらに詳細な確認作業の必要性”が見つかった場合のみ、追加の情報収集に着手するわけではないようだ」と指摘している。この点についてもDHSに確認を求めたが、回答はなかった。

どこまで情報収集すれば十分なのか

旅行者の感情や、旅を思い立つ動機は常に変化している。海外からの訪米インバウンド市場を左右する要因は様々で、例えば貿易摩擦、グローバル経済の失速、強いドルなど。USTAではこれについて、「トランプ政権を取り巻く不透明感」と、当たり障りのない言葉で表現している。トランプ政権が移民に厳しく、米国第一主義を掲げているせいで、米国に行ってみたいという旅行者が減っている、とはっきり批判する人もいる。ただし、旅行者が米国のソーシャルメディアに関する方針についてどう感じているかを示すデータは、今のところないとバーンズ氏は話す。

「もし影響が出ているなら、それを測定する手法、データがないかと模索している。だが、マイナス影響を裏付けるようなデータは見つかっていない」(同氏)。

それでも、今回の新方針をめぐっては、プライバシーに関わる多くの問題点がある。ブレナン司法センターのレポートの共同執筆者、ラヤ・コレー氏は、DHSによるソーシャルメディア情報の収集はオバマ政権時代に始まったが、「トランプ政権になって以降、データをもっと集めろという欲求がどんどん肥大している」と指摘する。

さらにコレー氏は、2016年にDHSが実施したプライバシーへの影響調査に言及。同調査によると、ビザ免除プログラム申請者から集めたソーシャルメディア情報は、申請者の投稿だけでなく、誰と交流しているのか、誰からフォローされているのかといった交友関係のチェックにも活用されていた。

「CBPは、申請者本人の投稿だけでなく、その交流相手のソーシャルメディア投稿もチェックできるのが実情で、これに対する規制はない。ESTA審査に必要であるなら問題なしという考えだ。あまりにも大雑把なスタンダードで驚愕する」とコレー氏。「規制は緩いままで、情報はもっとすくい上げていこうという。これでは需要は冷え込む。政府が発言をチェックようになれば、多くの人々がコメントを自制するだろう」。

スキフトでは、現状の「大雑把な」ルール下でのプライバシー保護についてもDHSにコメントを求めたが、回答はなかった。

2019年9月10日、ロンドンではブランドUSAが「トラベル・ウィーク」を開催していた。スキフトではNTTOディレクターのイザベル・ヒル氏に、新方針が訪米外国人旅行者に及ぼすインパクトについて質問した。ヒル氏はコメントを控えたが、同イベントに関連して開かれたヨーロッパの旅行関係者向け会合では、商務省による観光産業へのコミットメントを強調した。

「米国では、我々は外国人旅行者にぜひ来てほしいと思っていますし、心から歓迎いたします。観光産業は我が国の経済にとって重要であり、その拡大によって雇用機会も増えます。お集まりのみなさまは、旅行者のために仕事をし、利益を出していますが、すばらしいことです。商務省では、みなさまの活躍を心強く思っています」。

とはいうものの、新しい方針通りにビザ免除プログラムやその他のビザ手続きが変更された場合、「米国へ旅行しようと思っている人は、ほぼ例外なく、ソーシャルメディアでの個人情報を求められることになる」とコレー氏は話す。

旅行者がこれを不愉快に感じるなら、訪米外客数のマイナス成長が続くことになりそうだ。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

※オリジナル記事:Social Media Requirement for Visa Waivers May Have Chilling Effect on U.S. Tourism


著者:ロージー・スピンクス(Rosie Spinks)氏


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