農泊とは? その動きを取材した、地域と多分野事業者のマッチングで新たな化学反応は起きるのか?

JTBは、農林水産省が推進する「農山漁村振興交付金(農泊推進対策)」における「農泊多分野連携推進事業」として、農泊地域と地域外の多分野の事業者を結びつけるマッチング会を東京で開催した。このマッチング会は、農泊地域が抱える様々な課題を解決するため、連携機会を模索する取り組み。北海道、大阪、福岡でも開催され、東京会場では農泊地域から24団体、事業者23社が参加した。JTBとしては、2020年1月から3月にかけてこのマッチング会の成果を検証し、新たなビジネスモデルの機会を創出。農泊事業の自走化を促すことで、最終的には交流人口拡大による地方創生を目指す。

観光による地方創生として国も支援する農泊

農泊とは、「農山漁村滞在型旅行」の略で、農山漁村に存在する豊かな地域資源を活用した宿泊・食事・体験を提供すること。農林水産省が旗振り役となり、従来の農家民泊や農業体験という狭い定義ではなく、地域の多様な関係者が連携することで創出される持続可能なビジネスを目指している。地域の実施体制の整備、観光コンテンツの磨き上げ、滞在施設の整備などを一体的に支援する。主なターゲットとして訪日外国人も視野に入れる。

2017年度(平成29年度)に単独予算で新設し、4年目を迎える2020年度(令和2年度)でも約50億円の予算が決定。地域の関係者が組織する地域協議会、NPO、民間企業などを対象に、たとえば、インバウンド対応としての多言語化、古民家の宿泊施設への再生などソフトとハード両面で支援する。政策目標として、都市と農山漁村の交流人口を1450万人(2020年度まで)に増やし、農泊ビジネス地域を500地域創出(2020年まで)することを掲げている。すでに平成29年度から農泊推進対策で全国515地域を採択したが、来年度も公募する計画だ。

農林水産省によると、当初はグリーンツーリズムの流れから農泊推進対策に手を挙げる地域が多かったが、最近では新しい取り組みとして着手する地域も出てきたという。今後は、観光庁や日本政府観光局(JNTO)とも連携し、日本の農泊の魅力を海外に発信していく方針だ。

マッチング現場で化学反応の可能性を聞いてみた

マッチング会では、20分の事前予約商談と15分の自由商談が行われた。事業者には、観光事業にビジネスチャンスを求める異業種からの参加も多く、農泊での新しい化学反応が期待された。商談のなかからいくつかをピックアップ。同席して化学反応の可能性を聞いてみた。

とやま遊水会地域協議会 × アクトインディ「いこーよ」

富山県富山市のとやま遊水会地域協議会は地元漁師が中心となって設立。北前船、ホタルイカ漁、富山湾クルーズ、水橋花火大会などを観光コンテンツとして訴求している。また、魚家レストランのオープンを準備するなど、富山の食と漁業をフックとした地域活性化と観光客誘致に力を入れている。

アクトインディは、子どもとおでかけ情報サイト「いこーよ」を運営。2008年12月にサービス開始以降、家族旅行や子育て情報、家庭生活情報を発信。年間ユニークユーザー数が最大1115万(2018年8月)にまで成長した。親が子どもに伝えたい本質的な価値体験と地域の魅力とのマッチングを重視し、ファミリー層に地域を「知る」「訪れる」きっかけを提供する。そのなかで農泊に注目。農泊地域とともに価値を創出し、その地域のファンを増やしていくことを目指している。

とやま遊水会地域協議会が提供する漁業体験は、「いこーよ」にとっても魅力的に映ったようだ。ただ、農業体験以上に漁業体験は危険が伴う。また、ユーザーを送客するうえで、本業である漁との兼ね合いも大切であるとともに漁業ならではの法的規制もある。「いこーよ」では、本質的な価値としての現地体験を提供する姿勢だが、深夜2時の出航に親子連れが同船するのは現実的ではない。そのうえで原則的には「地元の意向を尊重する」との考えを示した。

一方、協議会では、漁業体験以外にも、魚の捌き体験、富山湾で取れる魚の水槽展示、夏の地引網体験、定置網ダイビングなどのアクティビティを企画している段階だと紹介した。「いこーよ」が提供したい価値と協議会が訴求したいコンテンツは親和性が高いことから、今回のマッチングの場で次のアポイントメントが決まった。

佐久酒蔵アグリツーリズム推進協議会 × スタンプの「シャチハタ」

長野県佐久市の佐久酒蔵アグリツーリズム推進協議会は市内にある13ヶ所の酒蔵を観光資源として、インバウンド誘致に力を入れている。酒蔵めぐりや地元の食や農の体験コンテンツのほか、来年3月には酒蔵を宿泊施設に改修した「Kurabito Stay(蔵人ステイ)」をオープン予定。テイスティングや仕込み見学といったどこにでもあるツアーではなく、そこに宿泊しながら蔵人の生活を実体験してもらうコンテンツを提供していく。

カートリッジ式印鑑、スタンパー、ゴム印などでおなじみのシャチハタは、新たに「重ね捺しスタンプ」を開発した。いくつかのスタンプを順番に台紙に捺すと最後にはカラフルな一枚の絵になる。スタンプが設置された場所すべてを訪れなければ、絵は完成しないため、回遊性の高いスタンプラリーが可能。地域内の周遊を促すツールとして期待されている。デジタルトラベル全盛のなか、そのアナログな質感と鮮やかなカラーリングは、日本の質の高いお土産として訪日外国人にも人気だという。

佐久酒蔵アグリツーリズム推進協議会は、「重ね捺しスタンプ」について、蔵人ステイの宿泊者に周辺のレストランや観光施設を巡ってもらい、完成した絵を日本酒のラベルに使うことを提案。シャチハタは、基本的には絵葉書を想定しているため、紙の選定に工夫が必要との見解を示したが、新たなアイデアとして高い関心を示した。協議会も、スタンプは耐久性が高く、インクの補充で長期間利用することが可能な点や、制作費も予算内に収まる見込みから、今後のマッチングに積極的な姿勢を見せた。

西植田地区活性化協議会 × 食関連サービス「ABCスタイル」

香川県高松市の西植田地区活性化協議会は、地元特産の最高品質オリーブオイルを観光素材として、それを使用した料理を通じた地元活性化を展開している。

ABCスタイルは、国内外で料理教室を展開するABCクッキングスタジオのグループ会社で、食に関する人材サービスや料理教室を活用したプロモーションサービスを展開している。地域の特産食材を取り入れたレシピやメニューの開発、地域での料理イベントへの料理講師派遣を行うほか、地域の農泊PRのためにアジアのKOL招聘、アジアの料理教室での地域食材のPRなどを通じて、インバウンド需要取り込みのサポートを行っている。

西植田地区活性化協議会のターゲットは国内。購入者に地域を訪れてもらうことで地域活性化につなげていきたい考えだ。最高品質のオリーブオイルは値段も高価なため、料理教室の生徒というよりも講師への紹介と料理への活用を希望。意識の高い人を最初に啓蒙していきたいとする。一方、ABCスタイルは、料理教室はテストマーケティングの場にもなると紹介したほか、講師と生産者とのパイプ役になることも可能と説明した。

取材協力 株式会社JTB

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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