ツーリズム復興に必要な4つの改革とは? 新時代への運営モデルの転換や官民横断組織の構築など、マッキンゼーが提言

コンサルティング会社のマッキンゼーは2020年8月初め、観光産業の回復にむけた提言レポートを作成した。そこでは、コロナ危機による未曾有の打撃に打ち克つためには、かつてない規模とやり方で、時にはライバル企業どうしが手を組み、横断的な協力体制を構築することが必要だと指摘。こうした枠組みを公平かつ効率的に進めていく上で、政府当局や自治体による支援が不可欠との考え方を示した。

コロナ危機により、2020年は世界の海外旅行者数が前年比60~80%減となり、観光消費額が以前のレベルに戻るには2024年までかかると予測されるなか、世界全体で1億2000人が雇用を失うリスクにさらされている。ツーリズムは、2019年実績でGDPの10%、9兆ドル規模を創出する巨大な産業だが、一方で担い手となる業種が非常に多岐に渡り、中小事業者が多数を占めているという複雑な産業構造にある。

そのため、今回のような危機下において、ツーリズム関連各社が個々に復興に向けて努力するだけでは限界があり、各国政府が前例のないレベルで産業全体をサポートし、企業や業種間の連携を後押しする必要があるとマッキンゼー・レポートは提言。コロナ危機からの回復に向けて実施するべき4つの改革を挙げた。

1:官民による「ツーリズム中枢センター」を組織化

危機管理と復興に向けた協力体制の司令塔とする組織を編制。政府側からは、運輸・観光に加え、公衆衛生や財務当局、国が運営する関連施設など、省庁の枠組みを超えて、コロナ危機に対し、実効性ある体制を組む。

なお、マッキンゼーではコロナ危機後、世界24カ国・地域(注・日本含まず)で実施されたツーリズムを対象とした需要刺激策(総額1000億ドル)とツーリズムを含む複数業種向け支援パッケージ(同3000億ドル)について調査を実施した。それによると、ツーリズム事業者の3分の2は、政府が講じた施策自体を知らなかったり、自社への効果は不十分と感じていた。需要回復の見通しが難しい現状下で、最大限の効果をもたらすためには、迅速な効果測定と、支援の再配分が必要だとしている。

2:新しい財務支援のメカニズム

マッキンゼーの試算では、観光需要が2019年レベルに戻るまで4~7年。その間は供給過多が続くことになるが、これを公的に支援し続けることは難しい。一方、OECDによる観光に従事する中小事業者の調査によると、半分以上はあと数か月で経営が続かなくなる。この厳しい状況を乗り切るためには、政府も民間事業者も、今までにない工夫と革新的な手法を考える必要がある。

前述の各国政府から中小事業者への支援は、主に助成金、債務救済策、補助金などだが、同レポートでは、需給関係が好転しない限りこうした方法では限界があるため、例えば同じビーチ沿いに並ぶ複数のホテルが連携し、限られた収益をシェアする形を提案。公的な立場にある第三者機関が、平時はライバルである各社の間で調整を行う「エスクロー制度」を一時的に導入したり、中小事業者向けの共同投資ファンドを立ち上げることを検討するべきだとしている。

3:透明性ある不断のコミュニケーションによる防疫対策

IATA(国際航空運送協会)やWTTC(世界旅行ツーリズム協議会)では、安全・安心な旅行のガイドラインをまとめており、これをもとに各地の自治体などが独自の施策を打ち出している。しかしマッキンゼーが米国で実施した調査では、消費者の不安感はまだ高いことが明らかになっている。同様に、中国での調査結果でも、消費者の旅に対する安心感は、理想的な状況をはるかに下回るレベルにとどまっていた。

その理由の一つとして、マッキンゼー・レポートでは、様々な対応策に統一感がなく、かえって混乱を招いていることが原因と指摘。安心感を呼び起こし、需要喚起につなげるカギは「コミュニケーション」であり、透明性と一貫性のある見解や説明を、迅速に発表していく公的機関の役割が重要だと説明している。また、これがうまく機能しているギリシアでは、今夏の欧州域内からの旅客数が順調に回復していることに言及した。

4:ツーリズム産業におけるデジタル活用とデータ解析の強化

大きな危機に見舞われ、昨年までの予測データは無意味になり、今後の回復スピードや需要動向に悩むデスティネーションは多い。

これまでは数年単位で策定していたマーケティング予算やセグメンテーションを、数か月単位でアップデートする必要が生じており、的確なタイミングで、的確な対象マーケットに訴求するためには、データ解析体制の大変革が求められている。そこで政府は今こそ、ツーリズム関連データのインフラや機能を提供する役割を再構想し、新しい時代に合った運営モデルへと転換するべきだと同レポートは提言している。

その事例として、すでにコロナ危機前から、シンガポール政府が手掛けている「シンガポール観光解析ネットワーク(STAN)」やオーストラリア政府による旅行プラットフォーム「ツーリズム・エクスチェンジ・オーストラリア」を紹介。特にコロナ危機下では、リアルタイムの旅行指標データや翌週・翌月の予測値や、消費者と中小事業者をつなぐ機能が必要だとしている。政府が主導してデジタル改革を進めることは、以前から指摘されていたツーリズムにおけるデジタル格差問題の解消にも役立つとしている。

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