世界で急ピッチで進む「ワクチン・パスポート」導入への動き、その期待と疑問をまとめてみた【外電】

用意するのは搭乗券にパスポート、スーツケース、それからワクチン接種のデジタル証明――?

夏の海外旅行需要を2年連続で失うことにならないよう、EUやアジア各国、航空業界では、新型コロナウイルスのワクチン・パスポートを導入する動きが急ピッチで進んでいる。こうした中、AP通信がワクチンパスポートへの世界の期待と疑問をまとめて報じている。

いわゆるワクチン・パスポートとは、旅行者がモバイル端末のアプリを使い、ワクチン接種済みであることを証明する仕組みで、証明されれば渡航先での隔離期間も不要とする国が多くなるものと考えられている。だが世界共通の認証システムがない上、プライバシー侵害、ワクチン接種機会の格差などの懸念もある。

パンデミック下では、人との接触をチェックするアプリなど、様々な感染対策テクノロジーが登場しており、ワクチン・パスポートもその一つだ。コンサートやイベント入場の条件として、ワクチン接種を義務化することには反対意見が多いが、国境をまたぐ海外旅行での活用には肯定的な方針を打ち出すところが増えている。

アイスランドではワクチン接種済みの旅行者の受け入れを開始。サウジアラビアでは、ワクチン接種済みの国民の海外旅行を認めている。さらにEUがこのほどワクチン接種完了した旅行者の受け入れを決めたことで、同様の動きはさらに加速しそうだ。

現在、EU、中国、日本などで、海外渡航を念頭に、それぞれ独自のワクチン接種のデジタル証明を開発中だ。一方、英国では5月中旬、国民保険サービス(NHS)のアプリをアップデートし、海外渡航の際、同アプリでワクチン接種を完了していることを証明できるようにした。

EUのデジタル証明は、2021年6月末の導入を目指しており、域内30カ国間の移動で活用する。EU域内には国境管理のチェックポイントがないため、具体的な手法は加盟国それぞれに任せるが、ワクチン証明の確認は必須。例えば空港や鉄道駅などで、旅行者が携帯電話のQRコードをかざしてスキャンし、各国のデータベースと照合する流れだ。

なおWHO(世界保健機関)では、ワクチン流通格差を理由に、海外渡航で接種証明を義務付けることを推奨していないが、「スマートワクチン認証」に関する暫定的な協議には前向きだ。

一方、IATA(国際航空運送協会)が推進するスマートフォン対応のIATAトラベルパスには、カンタス航空、日本航空(JAL)、エミレーツ航空、ブリティッシュエアウェイズ、ヴァージンアトランティック航空らが参画。これに対し、キャセイパシフィック航空、ジェットブルー、ユナイテッド航空、ルフトハンザ航空などが支持しているのが、非営利組織コモンズ・プロジェクトが開発する世界共通のデジタル健康照明「コモンパス」だ。

どちらのパスも、今のところ、ユーザーは各航空会社を利用する旅客のみに限定。航空各社の既存のアプリと統合し、搭乗前のオンライン・チェックイン時に、ワクチン接種証明として提示する仕組みだ。EUが導入するワクチン証明とも連携する。

旅行者は何を求めているのか

海外出張が多い広報ビジネスを手掛ける英国のリチャード・フォグ氏は、ワクチン・パスポート導入の動きを歓迎する一人。

来月、バルセロナで開催されるテレコム見本市に行く予定だが、参加計画は当初より縮小した。理由は、英国に戻った後の自粛期間だ。「10日間の自宅待機はビジネス面でマイナス。だが回避する方法がない」とフォグ氏。とはいえワクチン・パスポートと引き換えにデータ・プライバシーが犠牲になるリスクは認識している。

この問題について、スイス・ジュネーブを拠点とするプライベートジェット手配会社、ルナジェッツのCEO、エイメリック・セガード氏は、旅行者はこれまでもパスポートという個人データ満載の書類を到着時に提示してきたではないか、と一蹴する。

「あくまで私個人の場合だが、ワクチン接種済みかどうかを他人に開示することに全く抵抗感はない」とセガード氏。特にEUの場合、加盟各国を移動するたびに、何度もコロナ検査を受ける方が悪夢であり、ワクチン・パスポートがこうした面倒を解決してくれるとの考えだ。

偽造リスクへの対応は

世界では、すでにワクチン接種証明書を偽造する事件が起きているが、デジタル版の方が偽造のハードルは高くなる、というのが技術者の見解だ。

一方、IATAによると、トラベルパスはワクチン接種状況や検査結果を確認している訳ではなく、当局による承認データを、セキュリティに配慮した形で取り出すパイプのような役割を担う。そして旅行者の個人情報と、ワクチンや検査を受けた人の情報が一致するか照合したり、携帯電話のカメラ機能を使って旅行者の顔をスキャンし、パスポート上の生体認証データと照合したりする。他人のなりすましを防ぐチェック機能も複数ある。

セキュリティとプライバシー

ワクチン・パスポートを巡る議論は、意見が真っ二つに分かれている。

ネット上では、未確認のリスクへの懸念が多く、収集データを使って人々をコントロールしたり、自由の制限やプライバシー侵害に悪用されることを危惧している。これに対し技術者たちは、携帯電話から外部に送信されるデータはすべて暗号化するなどの情報セキュリティ対策を強調している。

ワクチン・カード技術に携わるIDサービス会社、Onfidoの最高プロダクト責任者、ケビン・トゥリリ氏は「正しく運用されている限り、プライバシーへのリスクが今まで以上に高まることはない。認証ステータスに関する質問が一つ増えるだけ」と話す。

問題は他にも色々ある。様々なワクチン証明のシステムが登場するなかで、相互のスムーズな連携は可能なのか、また各国当局が相手国の認証制度を承認するようになるのかどうかだ。英国政府は公式サイトで、旅行者のワクチン接種証明を受理してくれる国は、現段階ではまだ多くないと注意喚起している。

「システム稼働と同時に、他との相互運用までこなすのは不可能だ」(トゥリリー氏)が、徐々に体制は整っていくだろうと話し、それが次のパンデミック勃発への備えにもつながると指摘する。

それではスマートフォンがない人はどうなるのか? 家族全員が一人一台、持ってない場合は? IATA やEUでは、紙ベースの書類もオプションとして用意するなど、様々な対応策を練っているところだ。

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