Z世代が生み出す新たな関係人口のカタチ、空き家を予算ゼロで改修、長野県辰野町で生まれるムーブメントを取材した

古民家民宿「おおたき」。ホストの大瀧さん夫妻も東京からも移住者。

民泊サイトのエアビーアンドビー(Airbnb Japan)は2021年9月、長野県辰野町とパートナーシップを締結。両者は、人口減少という町の課題解決に向けて、空き家バンクと連携した「空き家・古民家リノベーション事業」による宿泊施設の開業、同町が進める「たつのWORK TRIP」との協業による企業移転やワーケーションの誘致を進めている。双方で補助金を設定。空き家再生による宿泊施設開業では3件、企業移転などでは4件が採択され、それぞれ人口1万8000人あまりの辰野町で本格的な活動を始めた。

築120年の古民家を改修、敷居の低い移住体験の場に

辰野町小野地区に立つ築約120年の古民家。北埜航太・実紗夫妻は、空き家バンクを通じて元ギャラリーとして使われていたこの趣のある古民家を購入し、エアビーの宿泊施設開業事業としてリノベーションを進め、ゲストハウス「おいと間」としてリスティングに登録した。

二人とも関東出身。4年前に辰野町の町おこし学生インターンシップ・プログラムに参加したことがきっかけで、この町とのつながりが生まれ、2019年6月に移住した。

開業にあたっては、周辺の民家を一軒ずつ回って、宿泊施設としての活用について説明した。実紗さんは「以前は、前オーナーが居住していなかったので、私たちが住むことで、『人と人とのつながりができる』と、大変喜んでいただけました。小野地区は過疎化が進み、空き家も増えています。私たちのような年齢の若い人たちの移住者は喜ばれるようです」と明かす。

二人ともエアビーのヘビーユーザーで、欧州への新婚旅行でもエアビーをホッピングしたという。実紗さんは「イタリアの田舎で、エアビーの『体験』に参加して、地元の青年に商店街を案内してもらいました。その時の地元のパッションがいまだに忘れられません」とその時の思い出を教えてくれた。今度は自身がホストとして、辰野町でも地域の文化を体験できる機会も提供していきたいと先を見据える。

実紗さんによると、同年代の地方への関心は高まっているようだ。特にコロナ禍での環境の変化が後押ししているという。「東京にいる必要性を感じなくなってきているのでは。『おいと間』が一番敷居の低い移住体験の場となればと思っています」と話す。

辰野町で地元商店街の活性化にも取り組んでいる北埜夫妻は、辰野町のエアビーホスト同士が連携する考え方にも共感している。「ゲストを奪い合うのではなく、人と人とのつながりが連続した体験として楽しめるところになれば」。実紗さんは、ゲストとホストだけでなく、ホストとホストとの横のつながりにも地域を元気にしていく可能性があると感じている。

山下実紗さんは、辰野町の商店街を「再編集」する活動にも参加している。

ホストの横のつながりが生む、新たな旅の思い出

辰野町のエアビーリスティングのひとつで、辰野駅に程近い古民家「ゆいまーる」の矢ヶ崎芳恵さんは、ホスト同士の関係性のなかで、ゲストが異なるゲストハウスにホッピングすれば、ゲストにとっては「辰野町で親戚が増えていくような感じになる」と話す。矢ヶ崎さんたちが、「まちまるごとゲストハウス」というコンセプトで、数軒のゲストハウス間の無料送迎を行なっているのも、これまでの経験から、そうした実感があるからだ。

矢ヶ崎さんは、ゲストハウスをホッピングしたあるゲストからのレビューを教えてくたれた。「辰野町での体験を思い出すと、心がポカポカしています」というものだ。矢ヶ崎さんは「そのレビューが忘れられない」という。「一人のホストではなく、複数のホストと交流したからこそ、そういう感覚を覚えたのでしょう」。ポカポカを感じた人は、また戻ってきたいと思うはずだ。

「観光の目玉がなくても人は呼べます。大事なのは、地域が外に対してウェルカムの空気を出すことだと思います。特にアフターコロナではそれが大事になってくる気がします」。

Airbnb Japanホームシェアリング事業統括本部の谷口紀泰さんは、ホスト同士でパートナーを組むところに価値があると話す。「できる人ができるときにやる緩い関係性のコミュニティは、新しい風をつくると思います。辰野町の事例を他の地域にも広げていきたい」と意欲を示す。

辰野町には、昔から「結(ゆい)」という考え方が根付く残っているという。集落など共同体での共助の仕組み。できる人ができるときに助ける。作為的ではない、長い時間の経過とともに自然発生的に出来上がってきたコミュニティの強さが、エアビーのビジネスとの親和性を高めている。

落ち着いた空気感が心地いい「ゆいまーる」のリビング。

辰野町にサテライトオフィス、アートで町おこしを

「たつのWORK TRIP」として、辰野町へのお試し移転に採択されたうちの1社が、東京調布市に本社を置く空間デザイン会社「ファーストアイデアジャパン」だ。アートによる地域創生に関心が高い代表取締役の内山敏琪さんは、さまざまな自治体から話を聞いてきたが、最終的に辰野町を地方拠点の場所に決め、そのタイミングで辰野町とエアビーとの協業プログラムを知ったという。

辰野町に決めた一番の理由は「辰野町役場の野澤さんの熱意」と内山さんは明かす。辰野町産業振興課の野澤隆生さんは、これまで関係人口の創出に向けてさまざまな取り組みを仕掛けてきた。エアビーとの協業や地域のコミュニティづくりでハブ的存在になっている。

「野澤さんは、こちらに響くような具体的な話をしてくれました」(ファーストアイデアジャパン営業部長の小川英郎さん)。一方、野澤さんは、「ミスマッチが起こると、お互いに不幸になります。必ず本音で話をして、ありのままの姿を見せることが大切だと思っています」と話す。

内山さんの辰野町の第一印象は「シャッター街となっている商店街」。しかし、何度か通ううちに、「都会にはない魅力を感じました。心が通じ合える仲間に出会えそうな気がして、どんどん発展していきそうな勢いを感じました」と振り返り、「結局、決め手は『人』なんでしょう」と続けた。

「辰野町をサテライトオフィスとして、空間デザインと空き家とアートを組み合わせる企画をどんどんやっていきたい」。

アーティストに空き家をアトリエとして提供し、町全体でアーティストを応援する仕組みを作り、ここで制作されたアートを世界に発信していくというのが内山さんの夢だ。

(左から)辰野町の野澤さん、ファーストアイデアジャパンの小川さん、ファーストアイデアジャパンの内山さん、Airbnb Japanの谷口さん。

Z世代が生み出す新たな関係人口のムーブメント

辰野町はこれまでも関係人口の創出や移住の促進に努めてきたが、このエアビーとのパートナーシップは、地域にまた新たな化学反応を起こしている。特にZ世代の新鮮な考え方や精力的な活動は、「共創人口」という新たな概念を生み出し、地方創生の可能性を広げている。

全国の地域活性化に興味のある若者が集まるコミュニティ「Rural Labo」も、「たつのWORK TRIP」に採択された。長野県の関係人口創出実験事業に参加し、辰野町で「お困りごとtrip」のモニターツアーを催行したことで、この町とのつながりができ、今回リノベーションを手がけることになった空き家を紹介してもらった。

リノベーションにあたっては、辰野町の「空き家DIY改修イベント」を組み合わせた。このイベントは、辰野町の野澤さんが仕掛けたもの。辰野町を「DIYの町」として打ち出し、SNSなどを活用して、DIYに興味のある人を集め、空き家を改修する。野澤さんは「予算ゼロでできる取り組みです」と笑う。

第1号目として2017年4月にオープンした「農民家ふぇ あずかぼ」のDIY改修イベントには、地元住民をはじめとした延べ250人が参加者し、築約130年の古民家を通常の5分の1の改修費でリノベーションを実現させたという。

今回の3日間のイベントには、全国からRural Laboのメンバーを中心に延べ20人が集まった。3日間で、土壁を剥がして、漆喰に塗り替え、床を剥がして断熱材を入れた。イベント終了後も改修を続け、完成後は民泊新法を取得してエアビーに登録する。

Rural Labo副代表で都内の大学に在学中の西村優一さんは、「ここ数年でZ世代の地方への関心は高まっています。特にコロナ禍でそれが顕在化したように思えます」と同世代の気持ちを代弁したうえで、「この古民家を若者に田舎暮らしを体験してもらう場所にしていきたい。都会の若者の自己実現の場にすれば、その活動が辰野町の活性化にもつながるのではないでしょうか」と意気込む。

Rural Laboは2020年6月に発足。約250人のコミュニティメンバーのうち7割ほどが学生、いわゆるデジタルネイティブだ。コロナ禍のなか、彼らはオンラインで地域活性について語り合い、つながりを深めてきた。それでも、Rural Labo代表で都内の大学を休学中の小菅勇太郎さんは「ふるさと感が欲しい都会の若者は多く、地方にリアルな『居場所』を求めている人も増えていると思います」と明かす。

「多拠点で生きたいと思う若者は多いと思います。ただ、やり方やイメージがわからず、憧れだけで終わっている。この辰野町の古民家宿を拠点として、多拠点生活のロールモデルを作っていきたい」。

古民家改装中のRural Laboの小菅さん(左)と西村さん

デジタルでつながり、リアルでもつながる。Z世代がつくるコミュニティは重層的でオープンだ。そのネットワークが辰野町で関係人口あるいは共創人口の新しいムーブメントを生み出そうとしている。

辰野町の野澤さんはこう話す。

「辰野町には、観光資源は何もありません。でも、余白はある。余白があるから、若者でも入りやすい。地域に入ると内には協力者がいっぱいいる。これが辰野町の地域資源なんだと思います」。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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