米国の観光振興機関であるブランドUSAが、新たなグローバルマーケティングキャンペーン「America the Beautiful」を発表した。シカゴで開催している「IPW2025」の記者会見でスローガンの刷新とともに、今後10年を見据えた米国インバウンド観光戦略全体の方向性を示した。アメリカの観光を「景色を見に行く旅行」ではなく「体験し、感じる旅」としての再定義したものだ。
ブランド USAのフレッド・ディクソンCEOは、「旅行者はアメリカに景色を“見に”来るのではない。人々や文化に触れ、地域社会と交わり、記憶に残る経験を幾多にもするために訪れる」と語った。今後のアメリカ観光は「感情価値」を中心として新たなステージに入る象徴として米国の象徴的な愛唱歌「America the Beautiful」に着想を得た。
新キャンペーンは、アメリカが持つ圧倒的な地域多様性や文化的な奥深さを横断的に描く。ニューヨーク、ロサンゼルスなど代表的な国際都市だけでなく、小さな地方都市や雄大な自然景観、歴史遺産、音楽、食文化、人々のホスピタリティ精神まで一つの統一感をもって語られていく予定。ディクソンCEOは、新しいアプローチを「米国という目的地を感情的に理解し直す機会」と位置付けた。
ブランド USAのフレッド・ディクソンCEO
AI活用で個人に最適化した旅程提案も
新キャンペーンの本格展開は、2025年8月から。主要な国際市場に順次投入され、日本でも展開される。内容は、各国・地域の市場ごとの特性に合わせてサブテーマも設定し、多様な市場ニーズに対応する。例えば、冒険心旺盛な若年層向けには「America the Bold」、ヘルス&ウェルネス志向のシニア層向けには「America the Balanced」などの切り口が想定されているという。
また、今回のキャンペーンではデジタル活用も大きく進化させる。新たに開設されたウェブサイト「AmericaTheBeautiful.com」では、AIを活用した旅程提案エンジン「MindTrip」を導入。これにより、旅行者にそれぞれの興味関心や閲覧履歴に基づいてリアルタイムにカスタマイズされた旅程を提案する。これによって、ユーザー参加型・体験設計型のマーケティングを可能とする。同サイト、日本語を含む多言語で展開がはじまっている。
米国運輸省(DOT)との官民連携もおこなう。両者は「Great American Road Trip」プロジェクトを共同で推進し、ルート66を含む全米250カ所以上の周遊観光素材を統合。これにより、地方都市への誘客促進も強化する。特に日本市場においては、都市偏重から地方分散型素材へのシフトが進みつつあり、商材造成で活用が期待されている。
ブランドUSAの果たす役割
現在、米国旅行産業の市場規模は年間約2.9兆ドル(約418兆円)。約1500万人の雇用を支えている。中でも国際観光の収益性は高く、海外からの訪米旅行者の消費額は、1日あたり約7億ドル(約1兆円)。
ブランドUSAは、2011年の設立以来、こうした訪米インバウンド需要を創出してきた。直近のブランドUSAのデータによると、2024年度にはマーケティング活動によって約60万人の訪米者が増加し、直接経済効果は約60億ドル(約8640億円)、経済全体への波及効果は130億ドル(約1.9兆円)に達している。累積では過去12年間で約1000万人の訪米者を生み出し、760億ドル超(約11兆円)の経済波及効果を記録した。
ブランド USAが、今回のキャンペーンの発表で強調したのは、単なるキャンペーン刷新ではなく、「国家的観光戦略の次世代型転換」だ。戦略の転換により、米国経済全体を支える成長ドライバーとしての役割を拡大させる。
※ドル円換算は1ドル144円でトラベルボイス編集部が算出