国連世界観光機関、次期事務局長にノワイス氏、女性初・史上最年少で就任へ ―UNツーリズム総会

サウジアラビア・リヤドで開催された国連世界観光機関(UNツーリズム)総会は、創設50周年という節目の年を迎え、観光を「平和、繁栄、革新、持続可能性の推進力」と位置づけ、次の半世紀に向けた明確なビジョンを提示した。

今回の総会は、160カ国以上、90人の観光担当大臣、70人の大使、17人の副大臣らが参加し、史上最大規模での開催となった。サウジアラビアが議長国を務め、人工知能(AI)と観光の関係に関する特別セッション、そして「リヤド宣言(Riyadh Declaration on the Future of Tourism)」の採択など、今後を左右する複数の重要決定がなされた。

女性初・最年少の国連機関トップが誕生

この総会では、2026年からの新事務局長にアラブ首長国連邦(UAE)のシャイカ・ナセル・アル・ノワイス(Shaikha Nasser Al Nowais)氏が選出された。同氏はUNツーリズム史上初の女性事務局長であり、国連諸機関全体でも最年少のリーダーとなる。

会見でノワイス氏は、「多くの女性を代表してこの役職を務めることは光栄であり、情熱と努力、そして自らの信念を貫くことで道は開ける」と語ったうえで、「観光は“生命”そのものであり、文化をつなぎ、平和をもたらす力がある」と強調した。さらに若い世代に向けて「観光は自己表現の手段であり、愛すべき産業だ」と呼びかけた。

同氏は、女性リーダーシップに関しても「男女は互いに補完し合う存在であり、どちらか一方では成り立たない」と述べ、平等と協働の重要性を説いた。

UNツーリズムの新事務局長 アラブ首長国連邦(UAE)のシャイカ・ナセル・アル・ノワイス氏

ノワイス氏は就任後の重点課題として、「デジタル変革、スマートツーリズム、経済的繁栄の推進」を掲げた。「AI(人工知能)やデジタル技術を活用しても、人間的な要素を失ってはならない」との立場を示し、「観光は人と人との文化的コミュニケーションであり、テクノロジーはその価値を補完するものだ」と述べた。

また、同氏は入国手続きの自動化や顔認証技術の導入など、観光の利便性を高めるデジタル化の進展に触れつつも、「人の温かみを感じる接客、ガイド、交流が観光の本質である」と語り、テクノロジー偏重ではない観光のあり方を提示した。

オーバーツーリズムと地域分散、観光を通じた平和への貢献

欧州を中心に高まるオーバーツーリズム(観光過剰)の課題解決に向けて、ノワイス氏は「UNツーリズムが進めてきた『ベスト・ツーリズム・ビレッジ(Best Tourism Villages)』の取り組みは、小規模地域を支援し、地域経済に貢献する好例」と評価。続けて、「テクノロジーとイノベーションの力で、旅行者の流れを予測し、混雑を回避できるよう支援する」と述べ、AIやデータ分析を活用した分散化の推進を提案した。「観光客を新たな地域や新興デスティネーションへ誘導する仕組みを整え、地域間の観光の均衡を図る」とも語った。

会見の後半では、記者から「紛争や緊張が世界各地で続く中、観光が果たすべき役割」について問われた。ノワイス氏は、「観光は人々をつなぎ、文化を理解し合う手段であり、平和の礎になる」と強調。「信念と価値を持ち、学び続ける姿勢こそが観光の原点である」と語った。

さらに、「次世代の観光人材がAI分野でも力を発揮できるよう、教育と機会の提供を重視したい」と述べ、観光産業の未来に向けた人材育成にも意欲を示した。

取材・文:鶴本浩司

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