世界大手ホテルチェーンのアコーが日本でのビジネスを拡大させている。2024年4月1日には、大和リゾートから運営を受託する形で、全国各地で「グランドメルキュール」と「メルキュール」のブランドで22軒を一斉開業。2025年7月に日本初のフェアモントホテルとして「フェアモント東京」が開業した。さらに、2028年には最高級ブランド「ラッフルズ東京」の開業を控える。
日本市場の現状と今後の戦略について、同社チーフ・デベロップメント・オフィサー(アジア) のアンドリュー・ラングドン氏とアコー日本代表取締役のディーン・ダニエルズ氏が語った。
アコーは現在のところ、世界110カ国で5700軒以上のホテルを運営。今後5年間で1400軒の開業を控えている。アジアでは14カ国で約500軒、2030年までに230軒以上の開業が予定されている。
日本では、現在、10ブランド46軒、約1万室を運営。主要都市に加えて、大和リゾートとの協業によって、別府、伊勢志摩、琵琶湖、蔵王、那須高原、和歌山など訪日外国人にはまだ知られていない日本の地方への展開も進んでいる。
ラングドン氏は「アジアだけでなくグローバルでも、日本は成長戦略として最も大事な市場と見ている。インバウンド観光客の増加に大きな成長ポテンシャルを感じている」と話す。
今後、「ラッフルズ東京」のほかに、2026年5月には東急ステイとのダブルブランドで「東急ステイ・メルキュール・広島」が開業予定。また、2027年には長野県「斑尾高原ホテル」と新潟県の「ライムリゾート妙高」の2施設をMギャラリーコレクションとして開業する。
日本市場で注力する3つのポイント
日本市場で積極的な事業戦略を進めていくなかで、ラングドン氏はホテル開発に向けて3つの注力ポイントを挙げた。
まず、主要都市以外でのホテル開発。ラングドン氏は「世界では本物の日本を見たい、日本を探検したいという気持ちが強くなっている。また、最近ではスキーやスノーボードなどのウィンタースポーツの目的地としても日本が検討されている」と話す。
次に、地方都市を中心としたフランチャイズモデルを拡大。現在のところ、46軒中フランチャイズ契約は3軒。残りはマネージメント契約になっている。東急ステイとのパートナーシップもその戦略の一つだという。「フランチャイズでも、アコーのシステムからの予約やロイヤルティプログラム『ALL』の特典などでメリットは大きい」と自信を示す。
3つ目が、既存ホテルのブランド変更だ。ラングドン氏は「日本では建築費用や土地コストが非常に上がっている。今後も、新たなホテルを建築するよりは、既存のホテルを改修し、アコーのブランドにコンバージョンしていくことに注力していく」と説明した。現在、日本で新築したホテルは「フェアモント東京」「プルマン東京田町」「ノボテル奈良」「メルキュール東京羽田」「メルキュール京都ステーション」「メルキュール飛騨高山」「東急ステイ・メルキュール・大阪なんば」「イビススタイルズ東京ベイ」「イビススタイルズ名古屋」の9軒。残りは全てコンバージョンだという。
日本市場について説明するダニエルズ氏(左)とラングドン氏
日本でもサブスクリプションサービスの展開に意欲
また、ダニエルズ氏は日本市場の現状について説明した。中国からの宿泊者が2019年水準には戻りきっていないとしながらも、一斉開業した「グランドメルキュール」と「メルキュール」には台湾や韓国からの宿泊者が増えていると明かした。国内旅行市場では「大阪関西万博の影響は大きく、近畿地方のホテルが好調だった」と振り返るとともに、「円安が続く状況で、国内旅行はまだ強いと見込んでいる」と話した。
大和リゾートとの協業は、ロイヤルティプログラム「ALL」の日本人会員数の増加にもつながっているという。新規会員の獲得は、協業前は年間3万人ほどだったが、22軒がアコーブランドになったことで年間15万人から20万人に拡大した。
ダニエルズ氏は、サブスクリプションサービス「ALL Accor+ Explorer」についても言及。そもそもオーストラリアでスタートしたサービスであることからアジア太平洋での会員数は増加傾向にあるという。日本ではまだ運営会社が立ち上がっていない段階だが、ダニエルズ氏は「特典は、とてもよい。日本人旅行者にとってもお得感は高い。今後日本でも強化していきたい」と意欲を示した。
このほか、日中関係の悪化による中国人団体の訪日控えについても触れ、「中国人シェアが10%以上のホテルもある。特に団体を受け入れているホテルの影響はゼロではない。今後、年末年始、来年2月の旧正月に向けて、どれほどのインパクトがあるのか見極めていきたい」と説明した。

