日本観光振興協会の最明です。
最近、議論が進む関係人口の創出・拡大について、トラベルボイスでも多くの識者が意見を述べています。「関係人口(その地域や行事、産業などに興味を持ち、何度も訪問する人)」を増やすことは、さらに先にある「二拠点居住」や「移住」にもつながると考えられる地方創生の大切な施策(人口政策)のひとつです。今回は、この関係人口について考えました。
※写真:京都に誕生した観光レストラン「FUTURE TRAIN」(提供:京都駅ビル開発)
かつて、鉄道や航空といった交通機関や旅行会社は、主に観光客や短期訪問者、つまり「交流人口」を増やすことに力を入れてきました。訪問のきっかけをつくり、旅行につなげ、例えばパッケージツアーや手配旅行の利益とともに地域に経済波及効果をもたらす。顧客からリクエストがあれば、別の目的地に送客すればよいのです。旅館やホテルも食事やお土産販売も館内で囲い込み、受け入れる地域も一期一会を繰り返す。観光は「来て、帰る」モデルが中心でした。
2026年3月9日付けでトラベルボイスに掲載された総務省地域力創造審議官へのインタビュー記事によると、「ふるさと住民登録制度」の立ち上げの狙いは、地域経済の活性化と地域の担い手の確保です。人口減少が進むなか、「東京圏の一極集中を是正するとともに、地方への人の流れを創出し、地域での経済を循環させる環境を整える。地域の暮らしを守る取り組み」と説明しています。
総務省は、これまで「地域おこし協力隊」など住民票を移したうえで地域への貢献や移住・定住を促す取り組みを進めてきていました。しかし、「ふるさと住民登録制度」では、その必要はなく、住環境を変えずに、まずは自分が好きになった地域を応援することからスタートします。そして、その活動が高まれば、制度を利用して副業的に地域に入り、地域のために仕事をする人を増やしていきたいという思惑が示されています。
おそらく、総務省では「地方創生2.0」や「ふるさと納税」制度をヒントにこの施策を立案したのではないかと考えます。観光で創出された交流人口を関係人口に取り込もうとする考え方は、あとから追記されたのではないかと思うほど弱い印象を受けました。観光政策と人口政策をきちんと接続させて一体で論じられれば、よりわかりやすくなるはずです。「瀬戸内国際芸術祭」や「大地の芸術祭」のように、観光による交流人口が関係人口を生み、二拠点居住や移住に結びついた好事例があるだけに少し残念に思いました。
京都市の実践
先日、JRグループと京都市、京都市観光協会などが主催するデスティネーションキャンペーン「京の冬の旅」(2027年1~3月)販売促進会議に参加しました。「京の冬の旅」は日本の観光史の中でも象徴的な取り組みで、観光政策・鉄道との共同マーケティング・文化資源活用を組み合わせたモデルとして知られています。来年で61回目を迎えます。
今ではにわかに信じられないことですが、キャンペーンが始まる60年以上前の京都は、春の桜、秋の紅葉時期だけに観光客が集中し、冬は本当の閑散期でした。「京の冬の旅」では京都の観光の需要を生み出すため、冬に訪れる理由をつくることがテーマとなりました。
京都には非公開文化財や立ち入り不可の寺社仏閣、庭園などが多数あります。閑散期の冬は、比較的余裕があるため「特別公開」という形で公開することにしました。これは、「京都に何度も来る人を増やすために新しい魅力をつくり続ける仕組み」といえます。
昨年、梅小路の京都鉄道博物館前の廃線高架上に、引退した特急電車を改装した観光レストラン「FUTURE TRAIN」が誕生しました。これをはじめ、京都市内では地域分散や夜の新しいコンテンツ作りにも余念がありません。観光ではリピーター戦略と呼ばれますが、実はこれが関係人口の創出、拡大に結びついています。「京の冬の旅」もスタート当初の交流人口拡大やリピーター戦略が中心でしたが、現在では関係人口の拡大を意識した取り組みが柱となっています。
観光客を市民として捉える
京都市では「観光と暮らしの調和」を図るための政策として、京都観光行動基準(京都観光モラル)が制定されています。これは観光客増加による市民との摩擦(オーバーツーリズム)への対応として、観光客・事業者・市民が守るべき行動を共有したものです。
観光を持続的に発展させるため、観光客には京都を深く味わい、楽しむために、地域のルールや習慣を尊重する行動、環境に配慮した観光、京都の人々とのふれあい・交流などが求められています。つまり、観光客に対して「ただの消費者ではなく地域の一員として振る舞ってほしい」という考え方です。
さらに、2025年12月に京都市は、2050年までの都市のあり方を示した最上位政策コンセプト「京都基本構想」を決定しました。その中の「めざすまちの実現に向けて」を述べた章では、京都のまちの特長は人との連なりで形づくられていると定義しています。そして、市民はもちろん、京都に通勤・通学している人、観光客、転出後も京都に愛着を抱いている人、一度でも訪問した経験のある人、京都にあこがれを抱いている人、すべてを広く「京都市民」と捉えるとしました。
市長は説明の中で、京都の価値を享受する観光客など、さまざまな関わり方を有する人々を都市の担い手として「0.1市民」と位置づけるとしています。「0.1市民」という考え方は、よくありがちな「観光客 vs. 住民」の対立構造の解消にもつながることが期待されます。
同じコミュニティの構成員として捉える、「0.1市民」の概念を具現化したものの一つが京都観光モラルといえます。京都基本構想(理念)は京都観光モラル(実践)よりも後にでき上ったものですが、京都基本構想ができて位置づけがわかりやすくなりました。
海外での観光を関係人口や二拠点居住につなげる政策
海外には、観光政策を単なる旅行消費ではなく、旅行者と地域が長期の関係を生むきっかけとして扱う事例があります。
北欧では、観光からセカンドホーム、そして半定住につながるモデルが多く見られます。フィンランド、ノルウェー、スウェーデンなどで多く、例えばフィンランドでは約50万戸、人口1000人あたり約90戸のセカンドホームがあるそうです。
都市住民が週末・長期休暇に地方へ滞在、地域のコミュニティにも参加し、将来的に移住するケースも多いと言われています。観光から別荘での滞在、二拠点居住、移住という人口循環が成立しているのです。
フランスやスペイン、オーストラリアでも観光客が長期滞在者へと変化していくモデルが古くから存在します。ただし、欧州ではスペインのようにオーバーツーリズムから住宅価格の上昇や地域住民の減少が問題となり、観光への嫌悪感が広がったことから、「観光客数」より「地域との関係」を重視する政策に移行する国が増えてきています。
人口減少社会では、観光客を地域の関係人口へ転換する視点が必要です。地域経済・文化維持には「継続的に関わる人」が重要になります。交流人口(観光客)の関係人口化を進めることは観光が人口政策の入口になり、さらに二拠点居住や移住に結びつく可能性を広げます。
観光政策は人口政策の裾野を広く担う役割として、交流人口から関係人口、二拠点居住、移住に至る流れを、観光からの視点で再設計してみるのもよいかもしれません。



