日本を代表するスポーツアパレルメーカーの「ゴールドウイン(Goldwin)」は、スポーツとツーリズムとの親和性に着目し、長期ビジョン「PLAY EARTH(地球と遊ぶ)」のもと、新たな事業を展開している。ゴールドウィンが描くスポーツツーリズムの世界観とは、どういったものか? 2026年6月に開催された旅行とテクノロジーの国際会議「WiT Japan 2026」で、同社の取締役専務執行役員CSO 総合企画本部長の金田武郎氏に聞いた。
メーカーから「ライフスタイル・クリエイティブ・カンパニー」へ
Goldwinは、自社オリジナル商品に加えて、ザ・ノース・フェイス、ヘリーハンセン、カンタベリー、スピードなど海外の有名ブランドを国内で展開している。ライセンス契約や商標権取得によるものまで多岐にわたる。例えば、ザ・ノース・フェイスとは日本と韓国での商標権(ブランド権)を取得し、独自の製品企画・販売をおこなう。単なる輸入ではなく、多くのブランドで日本の高い縫製・開発技術やファッショントレンドを落とし込んだ商品を販売しているのが特徴だ。
金田氏によると、売上の8割がザ・ノース・フェイスによるもので、ライフスタイル商品が売れ筋だという。一方で、アウトドアアクティビティでは、トレッキングやトレイルランニング向けの商品展開にも力を入れている。
スポーツアパレルのリーディングカンパニーである同社は、メーカーという枠組みを超えた存在として進化しつつあり、自らを「ライフスタイル・クリエイティブ・カンパニー」と位置付けている。創業70周年を迎えた2020年には「PLAY EARTH」という長期ビジョンを打ち出した。「アパレルを売るメーカー」から「地球との関わり方を提案する企業」へと進化するための最重要プロジェクトとして、現在さまざまな事業に着手している。
金田氏は、その背景について「アパレル業は世界第2位の環境負荷が大きな産業になってしまっている。アウトドア商品を展開するゴールドウィンには、それを解決しなければいけない命題がある。このままでは、『PLAY EARTH』、つまり『地球と遊ぶ』ことができなくなってしまう。企業として、物を売って終わりではなく、そこから環境へのインパクトを少しずつでも改善していくことが求められている」と説明する。
「このままだと地球と遊べなくなってしまう」と金田氏自然と遊び、自然から学び、自然を守る
「PLAY EARTH」のもとで推進しているプロジェクトの一つが「PLAY EARTH ADVENTURE」だ。スポーツの起源である遊びを通じて自然や環境との新しい関わりを生み出すというもので、なかでも注目しているのがアドベンチャートラベル。アドベンチャートラベルは「自然」「文化」「アクティビティ」の3要素のうち、2要素を含む旅行スタイルとされている。
金田氏は「ゴールドウィンにとっては、観戦するスポーツツーリズムよりも、体験としてのアドベンチャートラベルの方が親和性が高い」と話したうえで、「日本のそのポテンシャルは非常に高い」と評価する。
また、「所有することがステータスだった時代から、経験として、どのように時間を過ごすのかに興味の対象が移っている」と指摘。いわゆるコト消費への価値観の移行もゴールドウィンがアドベンチャートラベルに取り組む理由の一つとして挙げた。
さらに、ゴールドウィンは、富山県南砺市で自社開発の公園「Play Earth Park Naturing Forest」の整備を進めている。「PLAY EARTH」を体現するネイチャープレイグラウンドとして、桜ヶ池周辺の一部都市公園を含む40ヘクタールの広大な土地を人間と自然の新たな交わりや関わりが生まれる場所として開発。「衣・食・住・遊び、学び、美」をテーマに、キャンプサイトやヴィラなどの宿泊施設、地産地消レストラン、農園などを備える。
金田氏は「地球で遊ぶためには地球を守らなければいけない。子どもたちにその考えを伝えるような活動を展開していきたい」と意欲を示す。オープンは2027年夏の予定だ。
このほか、同社は2020年10月に環境省と「国立公園オフィシャルパートナーシップ」を締結した。さらに、国立公園エリアを抱える地方自治体とも個別に包括連携協定を結び、登山道の整備、環境保全活動、地域産業支援、自然体験プログラムなどを提供している。
アルパインツアーサービスを子会社化
こうした旅に関わるプロジェクトを推進する目的で、ゴールドウィンは2025年4月に、アウトドア専門旅行会社「アルパインツアーサービス」を買収した。
ゴールドウィンは以前から同社商品と顧客との接点を旅行ツアーで創り出す取り組みでアルパインツアーサービスと協業してきた。その旅行会社を子会社化した背景には、ゴールドウィンのビジョンを具現化していくだけでなく、国内外の旅行者をターゲットとしたアドベンチャートラベルの推進もある。
金田氏は「(旅行業界の)外から見ていて、日本のスポーツと自然との組み合わせは非常にポテンシャルが高いと思っていた」と話す。
アルパインツアーサービスは現在、「PLAY EARTH ADVENTURE」として、「Goldwin National Parks Adventure」のブランドのもと、各地の国立公園でさまざまな自然文化体験ツアーを企画・実施している。いずれも、少人数グループで地域の自然や文化を深く知る内容になっている。
例えば、2026年8月には磐梯朝日国立公園の出羽三山で女性限定のリトリートツアーを実施。また、富士箱根伊豆国立公園での日帰りハイキングツアーなど誰でも気軽に参加できるプログラムも企画する。
全てのツアーには、ゴールドウィンのスタッフがガイドとして同行する。金田氏は、ガイドについて「アドベンチャートラベルでは非常に大切な存在」と位置付ける。日本のガイドの仕組みや能力には課題が多いとしながらも、特にインバウンド向けアドベンチャートラベル市場について、「観光立国を目指すなかで、日本の自然や文化をきちんと外国の方々に紹介できるガイドの仕事はものすごく大事になってくる」と強調した。
金田氏は、そのインバウンド市場に向けた今後の取り組みについても言及。「国が訪日6000万人を目指すなかで、勝者がすべてを独占するような状況を目指しているわけではない。市場のほんの一部を担うことができれば、それで十分。小粒でも、我々の会社の規模として十分にビジネスが成り立つ取り組みを進めていきたい」と明かした。
その一つのアイデアとして、ゴールドウィン会員を顧客基盤としたインバウンド旅行の推進を挙げた。ゴールドウィンの国内会員制度を海外にも拡大し、その海外の会員が訪日した際には、国内約160店舗を旅行サービスの基点として、ガイドの手配などを行えば、日本のアドベンチャートラベル市場のマーケット拡大につながるとともに「ゴールドウィンのコミュニティが広がる」と先を見据えた。
「日本の自然には秘められた物語がある」
WiT Japan 2026のセッションに登壇した金田氏は、ニセコに多く訪れるオーストラリア人について触れた。
「彼らは単にスキーをするためだけではなく、特別な体験を求めてやってくる。彼らにとって金銭的なことは二の次であり、充実した一日を過ごすことが大切になっている」と話したうえで、「日本の森や湖といった自然の舞台そのものが、ある種の秘められた物語を持っている。その『ユニークさ』や『希少性』の価値を高めていくことが非常に重要なこと」と続けた。
日本独自に開発されたスポーツアパレルのデザイン性や機能性、アクティビティとしてのスポーツ、そしてトラベル。金田氏は「すべて掛け算できるもの」と力を込めた。
金田氏はWiT Japan 2026で「The Experience Economy」のセッションに登壇取材・記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

