グーグル(Google)は、インバウンドメディア「訪日ラボ」を運営するmov社が主催した「THE INBOUND DAY 2026」で、「Making AI the Power of Japan」をテーマに、最新AIモデル「Gemini」が日本のインバウンド市場や旅行業界にもたらす変化と可能性についてのセッションを実施した。
訪日客数が年間4000万人を超えるようになったなか、一部の人気観光地に旅行者が集中するオーバーツーリズムや、多言語対応などを背景とした旅行業界の深刻な人手不足が課題となっている。同社は、これらを解決する鍵は「AI」にあるとし、検索やマップの劇的な進化と、観光事業者や自治体がAI時代にどう向き合うべきかについて具体的なヒントを示した。
旅行者の検索行動が変化、「エージェントの時代」へ
グーグルのGeoパートナーシップ 日本・中華圏統括の大沼利広氏は、AIの進化がこれまでの「予測」や「コンテンツ生成」の段階から、自律的に提案し実行を促す「エージェンティック(Agentic)の時代」に差し掛かっていると指摘した。
旅行者の動向を見ると、物価高などを背景に旅行のプレミアム化が進み、予約までの期間が長期化(フライトは80日以上前、宿泊は2ヶ月前)している。さらに、検索行動も従来の短い単語ではなく、文章かつ詳細で複雑な検索(クエリ)が1.5倍の速さで増加しているという。
大沼氏は「これまでの情報収集・比較・予約という段階的な動線から、AIエージェントが一連の動線として統合していく可能性がある」と説明。AIが会話を通じて選択肢を提案し、旅行者が決断する流れになるため、事業者にとって「正しく情報を整備して、AIに発見されやすくするということ」がますます重要になると強調した。
「旅行検索」を大幅削減、事業者に求められる対応とは
続いて、Strategic Partnerships Development Manager, Search & Geminiの櫻井美季氏が、Google 検索の進化とビジネスへの影響について解説した。
一般的に旅行の計画は出発の49日前から始まり、かなりの数の検索が実行されるという。しかし、「もし検索が旅行中だけでなく、前後のスケジュールを把握し、さらにユーザーの好みの食べ物や場所、ロイヤルティプログラムなどの情報を理解したうえで、観光先、宿泊、ホテル、レストランの旅程を提案してくれるならば、 Google検索での旅行の計画における検索にかかる時間を削減できることになる」と話す。
Google検索での最新AI機能やGeminiを活用すれば、ユーザーの好みや前提条件、スケジュールをAIが理解し、最適なフライト、宿泊施設、現地の移動手段などを一括して旅程表として提案することが可能になる。
ユーザーがより複雑な検索をするなかで「事業者はどのように発見されればよいのか」という疑問に対し、櫻井氏は「特別なAI対策(AIフレンドリーなサイト作りなど)よりも、従来通りの他社にはない『独自性のある有用なコンテンツ』の発信と、コンテンツが豊富なページを優先してクロールおよびインデックス登録を行うことが重要」だとした。
また、情報発信の基盤として「Google ビジネスプロフィール」の重要性を強調。「情報を定期的に発信し、ユーザーからのクチコミに対しては必ず返信をすること。ビジネスプロフィールは単なる店舗情報の登録先ではない。事業をユーザーに見つけやすくし、さらにユーザーが持つ様々な疑問に的確に応えるための最も重要なデータ基盤」と付け加えた。
さらに、IT操作や管理に手が回らない小規模事業者に向けては、Geminiアプリとビジネスプロフィールを連携させ、クチコミ返信のドラフト作成や、周辺イベントに合わせたクーポン発行の相談など、AIをアシスタントとして活用することを推奨した。
Google マップが「コンシェルジュ」に、B2B向けデータ活用も推進
最後に、Strategic Partnerships Development Manager, Geoのジャオ・トン氏が、Google マップの進化と事業者向けソリューションについて語った。
Geminiが統合された新しいGoogle マップでは、キーワード検索ではなく「雨の日でもゆっくり作業できる、電源がある静かなカフェ」といった、人間に相談するような自然言語での検索が可能になる。これにより、バズっている場所に一斉に人が集まる課題が緩和され、ユーザーの細かなこだわりに合致した「隠れた名店」への送客(分散化)が期待できるという。
さらにジャオ氏は、事業者や自治体が自社サービスに組み込める「Google マップのB2B活用」として以下の3点を挙げた。
まず、AIのハルシネーション(事実に基づかない情報を生成する現象)を防ぐ「グラウンディング」。自社で導入するAIチャットボットにGoogle マップの場所データを紐付けることで、事実に基づいた回答を担保する。「(架空の旅館の例で)高齢の母のため、浴室の床は滑りにくいか?」といった細かな質問にも、過去の膨大なクチコミデータをAIがスキャンし、顧客が本当に求めているきめ細かな情報をコンシェルジュのように提供することが実現できる。
次に、Google マップが蓄積した店舗属性情報を匿名化・統計データとして外部開放していることから、新店舗の出店や広告を出稿する場合、「市場調査をデスクトップの上で一瞬で行える」。また、自社顧客データと掛け合わせて、例えば「ペットと泊まれる宿周辺の公園やカフェの充実度」などをスコア化することで、顧客一人ひとりに合わせた最適な提案(ロケーションスコア)に活用することができる。ジャオ氏は「地域のまだ知られていないポテンシャルを可視化することで、明確にターゲットを絞ってプロモーションを仕掛ける観光戦略が可能になる」と話した。
3点目が、旅行者に親しみのあるUIの提案。 Google マップの使い慣れたUIを、事業者自身のアプリやウェブサイトに組み込むことで、開発コストを抑えつつ、ユーザーがサイトから離脱することなく周辺の観光情報を確認できるという。
正確な情報発信がAI時代の生命線
今回のセッションを通じて一貫して語られたのは、どんなにAIが進化しても、その提案のベースとなるのは「事業者自身が発信する正確な情報」であるという点だ。
AIが世界中の旅行者の意図を汲み取り、日本の隠れた魅力とマッチングさせる「エージェントの時代」。旅行業に関わるすべての事業者は、自社の情報を常に最新かつ詳細に保つことが、AIに選ばれ、インバウンドの恩恵を最大化するための第一歩となりそうだ。




