異業種から学ぶ観光の未来とは? 成長のキーワードは「農」「林」「水」と「観光」

千葉千枝子の観光ビジネス解説(5)

「JATA経営フォーラム2014」特別講演

コマツ相談役・坂根正弘氏に学ぶ


 



▼キーワードは農林水と観光、東京一極集中の是正に向けて

去る2月26日、ロイヤルパークホテル(東京・中央区)で開催されたJATA経営フォーラム2014で、コマツ(小松製作所)相談役の坂根正弘氏が「世界の基本的変化と日本の構造改革」と題して特別講演を行った。講演の冒頭、「私たちは本来、失わなくてよい自信まで失った」と、近年の日本経済が置かれた厳しい状況を振り返った。企業経営に、共通価値の創造が叫ばれて久しい。世界経済のなかで生き残りをかける企業の“生き様”が、今回の講演で浮彫になった。

観光産業が、製造業はじめグローバル展開する異業種から学ぶことは多い。地方が元気であってこその国家経済であり、地方の特性を生かすべき知恵が、観光産業のこれからに求められている。坂根氏は、政策提言などで発言力をもつ経団連の副会長、産業競争力会議や国家戦略特別区域諮問会議の議員なども務め、米国ハーバードビジネスレビュー誌の「在任中に実績をあげた実行力のあるCEO(2009年)」で日本人上位に選ばれた実力派である。

コマツ(小松製作所)相談役の坂根正弘氏

その同氏が、厳しい状況の要因の一つとして挙げたのが、東京一極集中だ。戦後、都市化率の割合は年々、上昇を遂げた。だが、無策のままに時代は流れたようである。首都・東京だけが肥大化して、地方に疲弊をもたらした。地方を活性化するためには公共投資はもとより、観光で惹きだす努力が求められる。

自らが視察したスウェーデンやドイツでは、「森林組合の人たちが自分の仕事に誇りを持ち、いきいきと働いている姿を目の当たりにした」という。日本の林業もまた、大きな観光資源であることに気づきを与える内容だった。

ちなみに創業の地を社名に、グローバル展開するコマツは、生まれ故郷の石川県から本社を東京に移した今でも、地元に大きく貢献する。世界有数の積出港である釜山港に近い地の利を活かして貿易の拠点にすえ、世界各都市と友好関係を築くきっかけもつくる。

観光庁が2014年1月、農林水産省と「農観連携の推進協定」を結んだのは記憶に新しい。東日本大震災では、三陸沿岸の水産業の復興に観光が一役買った。しかし林業にあっては、議論のテーブルにのぼることすらなかった。

また、都会に暮らす人たちの故郷を想う気持ちを、一つのエネルギーに転化させる方策も編み出さねばならない。自治体の首長が、都会に暮らす人たちや海外に移住した人たちの同郷の会(県人会等)を大切にしている姿を、よく目にする。旅行会社やNPO法人等が、これら同郷の会の事務局をつかさどるビジネスなど、事業機会は少なくない。

ふるさと納税が脚光を浴びたように観光も、地方と都市とのリレーションに確かな道筋をつける役を、きっちり担いたいところだ。


▼「20世紀で日米欧の成長は終わった」

 世界の変化の潮流を的確に捉え、アジアを日本の成長エンジンに

重要なのは、世界の基本的変化を的確に捉えることだ。

コマツ(小松製作所)相談役の坂根正弘氏

過去一世紀、世界人口は爆発的に増加した。今では約70億人もの人々が地球上で暮らすが、一方で世界経済には、成長と衰退という変化の潮流がはっきりとみてとれる。「20世紀で日米欧の成長は終わった」と断言する坂根氏は、「今後、経済成長著しいアジアの勢いを、どう生かすかが問われている」と続けた。高齢化が進む日本とは対照的に、アジアでは中間層の増大もめざましい。観光立国をめざす日本においても、アジアは重要なキーワードになっている。

また坂根氏は、こうした世界経済の変化の潮流に、「今、日本は成長に一番よい状態を迎えている」と語った。さすれば“失われた20年”のリバウンドへ向かっている状態で、「2013年5月ごろから好転の兆しを感じ始めた」という。

世界経済は、シャドーバンキング(影の銀行)と呼ばれる特殊な運用形態が裏を牛耳る。グローバル企業の最前線で、バブルが世界を変遷するさまを目の当たりにしつつ、企業リスクに備えてきた経営者だけに、変化を捉えるのもいち早い。


▼観光産業に好影響も間近の予感

もうひとつの成長のキーワードは、「アジア」

景気の実影響は、業界によってタイムラグがある。一般に金融や製造業が先んじ、観光産業への波及は遅れる。さかのぼること1989年、筆者の職場だった銀行では、それまで右肩上がりだった業績に異変がおきていた。不良債権が目立ち始めたのである。その年の暮れには日経平均が、もう少しで4万円台へと手が届く、市況の極みにあった。そしてバブルの崩壊である。

ところが旅行業は、金融業界に一足遅れてバブルに沸いていた。1990年、旅行会社に転じた筆者が、その波及の遅れを肌で感じたときである。なぜなら旅行業は、決済時期よりも早くに契約(予約)が行われる預り金ビジネスであるからだ。アウトバウンド一辺倒だった当時は、空前の円高に支えられたが、1997年をピークに下降線をたどり、旅行業は長らく不遇の時代を経験した。

今では構造改革が進み、旅行業外事業で骨太経営をめざす企業、海外現地法人に拠点を移して訪日に備える動きもある。今、製造業が景気上昇を感じているとしたならば、観光産業に好影響が及ぶときが遠からず訪れることを予感する。その商機をみいだすキーワードは、アジアだ。

千葉 千枝子(ちば ちえこ)

千葉 千枝子(ちば ちえこ)

観光ジャーナリスト・横浜商科大学講師。中央大学卒業後、富士銀行、シティバンクを経て、JTBに入社。1996年有限会社千葉千枝子事務所設立。運輸・観光全般に関する執筆、講演活動を行い、テレビ、ラジオにも多数出演。日本観光研究学会、日本旅行業女性の会、日本旅行作家協会等に所属。沖縄県、神奈川県、釜石市など地方自治体の観光審議委員等も務める。著書に「JTB 旅をみがく現場力」、「観光ビジネスの新潮流」(学芸出版社)など多数。2014年度から中央大学経済学部 国際観光コースの客員講師に着任予定。

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