旅行ビジネスのVR活用に新展開、HISの店頭販売やタビナカ回遊機能付きアプリが示す可能性

ディスプレイの低廉化やゲーム機器との連動などで、今後ますます普及が進むVR(ヴァーチャルリアリティ)。先日のツーリズムEXPOジャパン2016でもVRを活用した出展が目立ち、旅行・観光分野でVRが積極的に利用される時代の到来を印象付けた。

これまで旅行・観光分野では、VRの疑似体験による観光地や観光施設のピーアール、案内での利用が多かった。ツーリズムEXPOジャパンでも、その目的での展示がほとんどだったが、今年はVRを従来より一歩、旅行実務や旅行シーンに近づけた新たな取り組みも見られた。そんな2社の活用状況をまとめてみた。

カウンターでホテル販売 -エイチ・アイ・エス(HIS)

エイチ・アイ・エス(HIS)では、ハワイパンフレットに掲載する全ホテルの販売時にVRを活用する。ブースでは店舗への導入に先駆け、一部体験を行なった。

既にハワイ専門店「H.I.S. Hawaii新宿三丁目店」で、ハワイ旅行の疑似体験を自由に試せるVRコーナーを設置しているが、今回はカウンターで旅行を検討する来店客にホテルの客室や施設をVRで見せ、旅行販売中の商品説明で利用するのがポイント。

スタッフは別画面で同じ映像を見ながら説明するため、より具体的な提案が可能となる。来店客はで現実に近い感覚で確認し、より趣向にあった客室を選ぶことができるようになるため、満足度の向上とともにアップグレードなど単価アップも期待できそうだ。まずはH.I.S. Hawaii新宿三丁目店で11月から開始し、その後、他の店舗にも順次広げていく予定だ。

店頭販売時は、スタッフは別画面で来店客が見ている映像を確認できる

このほかツーリズムEXPOジャパンでは、一般日に開催したツアー説明会でもVRを活用。参加者にVRを見るためのヘッドマウントディスプレイを配布し、実際のツアーに同行して撮影した映像を見せながらおすすめポイントを説明した。「右を見ると…」などと案内の声に促されて、参加者が一斉に上下左右に顔の向きを変えて映像を見る。より現実に近い感覚でツアーを疑似体験し、納得して申し込みしてもらうのが目的だ。

今回、VRの案内を行なったのは、HISが特別貸切をしている「バチカン美術館・システィーナ礼拝堂」とスペインの「アルハンブラ宮殿の夜間特別入場」の添乗員付きツアーの様子とハウステンボスの3か所。今後も説明会でVRでの案内を行なう予定だという。

VRでハウステンボスを疑似体験中

店舗展開にテクノロジーを積極活用

HISはVR以外にも11月から、パンフレットをPDFデータで来店客のモバイルに取り込めるデジタル情報スタンド「PONTANA」の店頭への設置を順次開始する。これは旅行業界で初の取り組みだという。

なぜHISが店頭販売にテクノロジーを導入するのか。担当する関東販売事業部店舗戦略開発チーム・チームリーダーの岡本敦氏は、「弊社は店舗スタッフのカウンター販売が主力」と強調した上で、「テクノロジーの導入は店舗に来店する楽しみを増やすため」と説明する。

特に今回のハワイ・ホテル販売のVR映像は、販売スタッフの意見を踏まえて制作した。HISでは今後、店舗展開においてテクノロジーを販売支援として位置付け、店舗での体験が実際の旅行に繋がるようなコンテンツを揃えていく考え。国内に約300店舗を有するHISでの展開が進めば、旅行販売でのVRおよびテクノロジーの活用は一気に加速していきそうだ。

来店客のデバイスにPDFデータを送るためのWi-Fiは同スタンドから発信。タッチしたパンフレットデータはアプリ内の本棚に収納される

VRで再現する史跡コンテンツを体験アプリに集約 -凸版印刷

もう一つ、注目したのが凸版印刷の観光アプリ「ストリートミュージアム」。これは、現存しない城郭などの史跡の往時の姿をVRで再現し、位置情報と連動させてスマートフォンやタブレットで見られるアプリ。観光地の魅力付けや新たな観光スポットの創出を目的にVRコンテンツ制作に取り組む自治体が増えているが、今回のアプリはこれまで凸版印刷が受注し、制作してきたVRコンテンツを1つのアプリに集約したのがポイントだ。

史跡に近づくとGPSと連動してVR映像や音声ガイドなどをプッシュ配信し、周辺マップには観光スポットや飲食・土産店などの情報を表示する回遊型ナビ機能も用意。VRの鑑賞で終わらず、街散策をしたくなるような情報や機能を用意した。現在、江戸城や福岡城、熊本城など6か所のみだが、2017年には約50コンテンツ、10万ユーザーの獲得を目指している。各地の史跡観光のキモであるタビナカ要素が集まるので、今後、掲載する史跡コンテンツが増えるにつれ、歴史探訪を目的とするFIT観光はこのVRアプリ1つで網羅できる可能性もありそうだ。

散策ガイドのマップは古地図を利用。史跡に近づくとコンテンツをプッシュ配信。ルート表示はせず、場所にまつわるエピソードなど街の歴史巡りをしたくなる工夫を盛り込んだ

さらに、同アプリを担当する情報コミュニケーション事業本部トッパンアイデアセンター先端表現技術開発本部ビジネス開発部企画推進チーム係長の永見卓也氏によると、アプリのさらなる機能向上には他社との連携も視野に入れている。個人観光向けのコンテンツであることを踏まえると、旅行分野ではFITの利用の多いOTA(オンライン旅行会社)なども考えられるという。

凸版印刷では現在、観光分野で訪日外国人のタビマエからタビアトまで、快適で魅力的な旅をサポートする「旅道」プロジェクトを行なっており、各タッチポイントに関わる様々な企業との取り組みを進めている。他業種との連携に長けた手腕も、旅行でのVR活用の浸透に大きく作用しそうである。

今は存在しない福岡城からの眺めをVRで再現。凸版印刷の専用VRビューアーで、往時の世界に没入できる体験が楽しめる

VRは“コト売り”を体現するもの

着実に旅行ビジネスに入りこんできているVR。もし、まだピンときていない人には、VRクラウドサービスのナーブ社・代表取締役の多田英起氏が語ったメッセージを紹介したい。それは「物売りからコト売りへ進化すべき」ということ。人の受ける情報は視覚からが7割と言われていることから、「感動を売るためには視覚から攻めるべき」と旅行販売のキモとVRの親和性の高さを強調する。

「疑似体験したら旅行に行かなくなるのでは」という懸念はよく聞かれることが、多田氏によると経験者の4~6割の人が以前より興味を持つようになる。事前にその体験の良さが分かっていれば、ホテルなどのアップセルの可能性も高まるという。

すでに同社では賃貸業向けにVRで内見できるサービスを、1店舗あたり月額1万8000円~の価格で提供。観光分野では自治体向けパッケージのほか、旅行会社の来上期の商品販売でVRコンテンツの提供も予定している。旅行ビジネスでも収益に直結するツールとなることを期待したい。

記事:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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