世界の富裕層向け旅行で日本の可能性と課題とは? ILTM Japanフォーラムで「美食と芸術」の識者が提言

ラグジュアリートラベル(富裕層旅行)に特化した商談会「ILTM Japan」が今年も東京で開催された。5回目となる今年のテーマはガストロノミーとアート(美食と芸術)。初日に行われたオープニングフォーラムでは、専門家による日本のラグジュアリートラベルの可能性と課題について講演が行われた。

登壇者は、美食の分野からは「世界のベストレストラン50」の日本評議委員長でコラムニストの中村孝則氏。芸術の分野からはオークション会社クリスティーズ・ニューヨーク日本・韓国美術部門インターナショナル・ディレクターの山口桂氏だ。

地域活性化にスターシェフの出張店舗を活用

中村氏は「ガストロノミー、観光を魅力的なものにするもの」をテーマに講演。世界のベストレストラン50は食のアカデミー賞的存在と表したうえで、「フーディーズ(Foodies)と呼ばれる世界の食通たちを動かし、観光にも大きな影響力を持っている」と話す。1位に輝くとそのレストランだけでなく、その街を訪れる観光客が急増する現象が起きるという。

過去に、ベストレストランに輝いたことのあるデンマークのレストラン「ノーマ」が2015年1月〜2月にかけてマンダリンオリエンタル東京でポップアップレストラン(出張店舗)を開いた。その際には、1人7万円の高額なコースにもかかわらず、トータル2000席に対して6万2000件の予約が集まったという。そのほとんどが日本以外のフーディーズ(世界の食通)たちだった。

最近ではフーディーズを超えて「世界のベストレスラン50」に注目する人々の裾野が広がりつつある。昨年1位となったイタリアのモデナにある「オステリア・フランチェスカーナ」には受賞以降、世界中から予約が殺到。レストランの知名度とともにモデナの認知度も上がったことから、レストラン目当て以外でモデナを訪れる観光客も増えたという。

コラムニストの中村孝則氏

中村氏は、人気が高まっているレストランの出張店舗を日本の地方が観光促進に活用する「Dining Out」という取り組みも紹介した。これまで、有田、尾道、佐渡、八重山、竹田、祖谷、日本平などで開催。スターシェフが各地でレストランを臨時に開き、地元の食材を使った料理を振る舞うイベントには毎回多くの旅行者が集まることから、地域活性化策としても注目を集めている。

中村氏はこの取り組みとともにポイントとして「ラグジュアリーな環境を作ること」を指摘。レストランはテロワール(気候風土)を味わう場所とし、「食文化を通じて、その土地の魅力や生産者の想いを伝えること。そうした知的な体験をラグジュアリートラベラーは求めている」と強調した。

政府も欧米豪を主要ターゲットとしてラグジュアリートラベラーの誘致に力を入れているなかで、「日本のレストランは素晴らしいコンテンツ」と太鼓判を押した。一方で、オーストラリア政府観光局が展開している「美食大陸オーストラリア」キャンペーンと対比させるかたちで、発信力と受け入れ体制が日本の大きな課題と指摘した。

大切なのは日本の“本物”のアートを発信して見せること

クリスティーズの山口氏は「蘇るジパング」と題して講演。「日本の文化芸術は長い歴史のなかで海外の人たちを魅了し続けている」と話し、その最大の特長が「技術や素材の素晴らしさに加えて、バラエティーが豊富なこと」と説明した。

日本の芸術は、屏風、浮世絵、印籠、陶磁器、銀製品、鎧、刀、そして現代ではコンテンポラリーアートからアニメ・マンガまで多彩。また、ひとつの芸術がもつ領域が広い。たとえば、絵では「水墨画」のような静かな空間を活かすものから「琳派」のような絢爛豪華なものまで。さらには、舞台では無駄を排除した「能」と装飾をふんだんに使った「歌舞伎」。山口氏は「そこが日本アートのいいところ」と評した。

クリスティーズの山口桂氏

一方で、日本アートのクオリティーは高く、世界のアートと較べても引けを取らないが、「発信力が足りないために、意外と海外では知られていない」と指摘した。そのうえで、クールジャパンの取り組みはラグジュアリートラベラーには通用しないとみているという。

山口氏は、「ラクジュアリートラベラーはいいものをすぐに見分けることができる。日本の本物のアートをもっとアピールすべき」と主張する。

また、日本のアートを、食、自然、文化、安全など別の魅力とリンクさせた取り組みを進めれば、「世界トップのラグジュアリー・デスティネーションになる」と強調。アートな島として有名な瀬戸内海の直島を例に、「行く不便さは関係ない。そこにしかないものであれば、人はそこに行く」との考えを示した。

JNTO理事長の松山良一氏

なお、5回目となる今年のILTM Japanにはセラー82社、バイヤー86社が参加。ウェルカムレセプションでは、JNTO理事長の松山良一氏が「日本には伝統文化と現代を組み合わせた豊かな観光素材があり、富裕層に特別な体験を提供することができる」と自信を示し、海外の富裕層に日本を積極的にアピールしていく方針を語った。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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