一人だけど独りじゃない「おひとりさまツアー」、その人気の背景とこれからを考える【コラム】

シニア層の女性を中心に安定的な人気を持つ「おひとりさま限定ツアー」。日本における同パッケージツアーの背景や今後の展望について、旅の専門家が独自視点で読み解きます。(執筆:公益財団法人日本交通公社 観光文化情報センター長/旅の図書館長 主席研究員 久保田美穂子)

ニーズに応えて商品も増加

一人旅に関する研究論文やコラムを執筆してきた縁で、これまでも新聞社等から取材を受ける機会がありましたが、ここへきて再び問い合わせが増えています。一人参加を積極的に歓迎するパッケージ商品が目立つようになってきたからでしょうか。一人で参加するなら追加料金、が常識だった海外パッケージツアーの世界も変化してきました。

元祖「一人参加限定ツアー」の老舗は(株)クラブツーリズムで、20年前からの積極的な取り組みは不動の地位を築いています。2012年、(株)朝日旅行が「女性おひとりさま限定の旅 恋するヨーロッパ」を発表し、「ツアーグランプリ2014」(日本旅行業協会等主催)でシリーズ部門のグランプリを受賞。2014年には(株)ジャルパックが「ヨーロッパひとり参加で楽しむ旅」を発表、以降、対象方面を拡大しています。いずれも一人参加に限定しているところが特徴で、一人の気楽さと趣味の合う新しい仲間づくりが叶うことからシニア層の女性の参加率が高くなっています。

2015年には、ヨーロッパ需要の刺激策として(株)エヌオーイーが「ぷら旅シリーズ~どの日に行ってもお一人部屋追加無料19.8万円」を打ち出しました。同商品はアルバニア、チェコ、ギリシャ、ヨルダンといった必ずしもメジャーでないデスティネーションを扱っており、ヨーロッパリピーターの一人旅を意識した企画となっています。

『旅行年報2016』(公益財団法人日本交通公社、2016)によれば、同行者別に観光レクリエーション旅行の実施件数を見ると、一人旅のシェアは国内旅行で全体の15.6%、海外旅行で19.4%。10年前の同調査結果はいずれも約6%程度でした。

一人旅増加の背景は、既に述べてきたように(一人でも独りじゃない一人旅 [日本交通公社 コラムvol.198])、SNSのおかげで一人旅であっても「独り(ぼっち)」ではなくなったことや、特に女性にとって、一人で過ごす開放感や挑戦する達成感が日常にエネルギーを与えたり、新しい自分を発見するチャンスになっているからです。

さらに俯瞰すれば旅に限らず「おひとりさま行動」は増加しており、それは多様な価値観から成る現代社会を生きぬく知恵として、個々人の精神的な自立が必須になっているからだと思います。

一人旅経験の共有が育てる文化

自身の一人旅の体験を描いた写真家竹沢うるまの『The Songlines』(小学館、2015)を読みました。当財団機関誌「観光文化」231号(2016年10月発行)で旅行作家の荒木左地男氏に 「旅心を誘う、旅の本レジェンド30選」として執筆いただいた原稿の中で、荒木氏が「(沢木耕太郎の)『深夜特急』から30年。久々にズシリとくる旅の書き手の登場」として推した作品です。著者はすでに複数の写真集を発表し注目されている新進気鋭の写真家で、本書は竹沢自身の1021日間、103ヶ国を巡る旅の記録です。

読み始めると「なぜ写真ではなく文章で旅を振り返っているかというと、そこにはどうしても写真では捉えきることのできない世界があるような気がするからである」とあります。時代はビジュアル表現全盛の方向へ流れているというのに。

竹沢は、旅の時間の長さ、心揺さぶられた音楽、忘れていた記憶との再会や心の動きを記述し、「目に見える世界、目に見えない世界、その両方でこの世界は成り立っている」と実感を込めて書いています。

読むうちに自分自身の学生時代の一人旅を思い出しました。

私が育ったのは山に囲まれている長野県で、山の向こうはどんな世界なのだろうと、18才で東京へ出てきました。そして、外国語を専攻し、もっと遠くへ行ってみようと大学3年の時に初めての外国、ヨーロッパへ旅に出たのです。建物、乗り物、石畳、人々の表情、パンの固さ。気の向くまま約30日間、圧倒的な異文化に囲まれ毎日何を考え移動していたのかよく覚えていません。蘇るのは愉快な記憶というより悶々とした気分。行く先と時間と手段を決めて、探し、状況により途中で計画を変更する、その繰り返し。

ただ、何かが身体に刻み込まれたという実感はあったのです。毎日日記を書いていました。極めて個人的な体験のキモは、書いたり、語ったり、表現して初めてカタチを現します。

これからも一人の旅を楽しむ人は増えるのでしょう。

カメラに写らない世界を拡げてくれるのは、例えばガイド業。2006年の「長崎さるく博」以降各地で盛んに取り組まれているまち歩きツアーでは、ガイドが住民の目線でまちの歴史や人の想いなど「目に見えない世界」を教えてくれます(歩いて分かった「まち歩き」の進化 [日本交通公社 コラムvol.184])。

それぞれの体験を表現しあう場、ツール、スキルアップの機会がもっとほしくなるかもしれません。古い旅行記や旅行案内書に注目するのもいいでしょう。

人はなぜ旅をするのかといった旅の本質への関心も高まっていくのではないでしょうか。

※このコラム記事は、公益財団法人日本交通公社に初出掲載されたもので、同公社との提携のもとトラベルボイス編集編集をして転載しています。

オリジナル記事:増える一人旅の背景とこれから [日本交通公社 コラム vol.337]

久保田 美穂子(くぼた みほこ)

久保田 美穂子(くぼた みほこ)

公益財団法人日本交通公社 観光文化情報センター長/旅の図書館長 主席研究員。専門領域は、旅行市場動向、観光マーケティング、温泉地・旅館の活性化、まち歩き。若者の旅行や一人旅など時流に合ったテーマにによる論文や著作、講演など多数。観光交流が地域や旅行者にもたらすエネルギーの大きさと可能性を信じ、多様な角度からのデータの読み解き、元気な地域や元気な人が“その気”になった理由に迫る事例取材、そして自らが体験し感じることを大切に活動している。

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