ブッキング・ドットコム本社を取材してきた、CEOが明かしたサービス領域拡大と成長の理由

旅行分野に特化しながら、アマゾン、アリババに次いで、Eコマース企業として世界3位の時価総額を誇るプライスライン・グループ。その利益の9割を稼ぐOTAブッキング・ドットコム(Booking.com)は、日本で初の宿泊予約サイト(ホテルの窓口=旅の窓口)が誕生したのと同じ1996年に、創業者のGeert-Jan Bruinsma(ヘルト=ヤン・ブラウスマ)氏が1人で始めたスタートアップだった。

以降20年間、オンライン旅行ビジネスとしては日本と同じ年月の経験を積んできたのだが、ブッキング・ドットコムは世界最大手OTA(オンライン旅行会社)のひとつに成長した。その違いは何か。アムステルダム本社を訪ね、CEOギリアン・タンズ氏の話を聞いてきた。タンズ氏は2002年、ブッキング・ドットコムが前身の「Bookings.nl」の小規模オフィスの時代に入社。そこから世界最大級のOTAになるまで、中枢で携わってきた人物だ。

グローバルの巨大OTAに対しては、巨額の資金をテクノロジー開発に費やし、規模と効率で市場を席巻していくイメージを抱く人も少なくない。しかし、タンズ氏が重視するポイントとして語ったのは「カスタマーファースト」。テクノロジーは、その実現のために必要なものだと話す。

顧客第一主義とテクノロジーの関係

ブッキング・ドットコムは現在、70か国に204拠点を設け、社員数は1万5000人にのぼる。宿泊予約に特化し、世界220か国・地域の140万軒を掲載。1日140万泊の予約を受け、Eコマース分野で世界3位のプライスライン・グループの利益の9割を生み出している。

オンライン旅行予約事業で、日本と同じだけの時間を歩み、なぜこの差が生じたのか。タンズ氏は「他企業のことは判断できない」と前置きしたうえで、ブッキング・ドットコムの大きな特徴として「当初からインターナショナルだった」と説明。「オランダは国内マーケットが小さく、海外に行くのは必然的だった。日本はオランダよりも市場が大きいので、国内を制覇してから海外へ出るのに時間がかかったのでは」との考えを述べた。

同社が早期に海外に出られたのには、基盤マーケットであるオランダ人の特性と同社のビジョンによるところも大きい。「オランダ人は旅行好きなので、その旅行先を追うようにオランダの施設をカバーし、国境も超えていった」と振り返る。その際には闇雲ではなく、創業時からのミッション「Empower people to experience the world(人々が世界を自由に体験できるようにする)」に沿い、「世界中で何をするにも、ブッキング・ドットコムを通じて予約ができるようにする」ことの実現を目指してきた。

タンズ氏が同社で最も重要な写真として紹介したのがこの一枚。「KEEP THE CUSTOMER </CENTER> EVERYTHING you do.」と書かれている

だから、ブッキング・ドットコムの業務は、「旅行者の不便を取り除くこと」だとタンズ氏。OTAは旅行会社でありながら、テクノロジーカンパニーとよく言われているが、タンズ氏は「我々はテクノロジー企業やモバイルファースト企業などと言われるが、その認識はない。言うならば『カスタマーファースト』の企業」と明言。

「その我々が提供するのが旅行であり、その手段がテクノロジー」と、あくまでもビジネスの中心は顧客であることを強調する。その上で「テクノロジーで言語や時間、選択肢の限界を超え、世界のどこへでも行くことができるようになると確信している」と、テクノロジーへの信頼も語る。

では、どの部分でテクノロジーを使うのか。タンズ氏が強調したのは、「データを活用して顧客の好みを知り、それをイノベーションに適用していく」こと。重視しているのは、ユーザーが『気に入った』か『そうでない』か。各種データや1日1000件のA/Bテストなどを通し、その結果「感情に基づいた情報を提供できるようになった」と説明する。

1日1000件行なわれているというA/Bテスト。これは表記の比較「A:キャンセル無料、現地払い」と「B:キャンセル無料・支払いは後で!」ではどちらが成約率があがったか。・・・答えは「B」とのこと。しかし、比較文章の表記が小文字と大文字で違いがあるため、良くない事例であるとも指摘

オフィスの内部は世界マーケットの縮図

もう一つ、ブッキング・ドットコムの成長を押し上げた要因として欠かせないのは、同社のダイバーシティ。人口1700万人のうち移民が180万人、200か国の国籍の人々が暮らす多民族国家のオランダは元来、多様性に対する寛容さの素地はあるが、それでも「ダイバーシティは当初からの大きなテーマ」と、意識的に取り組んでいたことを明かす。

デザイン性にあふれた社内には、ミーティングや休憩ができるスペースが多くとられている

そのため、社員数が1万5000人となった今では、その国籍も150か国超に広がった。アムステルダム市内8拠点だけでも、100か国の5000人が働く。「ワールドワイドに展開する以上、現地の文化を理解すると同時に、現地のパートナーに理解してもらうことが大切」という上で、ダイバーシティの企業風土は大きく役立っているのだろう。

自慢の社員食堂はブッフェ形式。もちろん、ベジタリアンやビーガン、ハラル等にも対応

日本の大手電機メーカーでの就労経験のある、本社ブランドコミュニケーション・マネージャーの林田さやか氏は、働き方や仕事の進め方、同僚とのコミュニケーションにギャップを感じることはよくあることだと話す。例えば、チームで仕事をするときには、「チームとは」「コミュニケーションとは」のように、概念の共有から取り掛かることもあるほど。様々な背景を持った人々が円滑に働くために必要なことを面倒とせず、一緒に前に進むための努力を惜しまないという。

日本でもグローバル採用に力を入れる企業が増えているが、ここまでの規模で、なおかつ、個々に対する尊重を徹底するのは、なかなか聞かれる話ではない。

会議や作業ができるフリースペースの後ろには、誰でも自由に遊べるゲームや雑誌類がずらり。社員の主体性を重んじる企業風土を象徴するような場所

なお、成長の一大要因として忘れてはならないのが、2005年にプライスライン・グループの傘下に入ったこと。当時、欧州での資金調達が難しい状況だったことが株式売却の決断の理由で、タンズ氏は「いい時期に資金調達ができ、さらなる伸長に繋がった」と、重要なターニングポイントの1つであったことを示唆する。

息抜きのゲームも真剣。こういうスペースは自社社員が対応するカスタマーサービスのコールセンターにも用意しているという

宿泊からタビナカへ、領域・サービスを拡大

人々が世界を自由に体験できるようにする。このミッションに向けて、タンズ氏に現時点での達成度を聞いたところ、「5%くらい。常に終わりのないものがミッション」と答えてくれた。「全ての人に世界を体験してもらう。これはスケールがあり過ぎるので10年以上かかるだろう」というのが理由。これからも宿泊施設数を拡大させていくし、予約した人への新たなサービスも加えていくという。

では、次の一手とは? いま、取り組みを始めているのが、タビナカ領域の体験予約。宿泊予約で規模を広げてきたブッキング・ドットコムが、いよいよタビナカの領域に進出する。すでにアムステルダムやパリ、ニューヨークで、ブッキング・ドットコムでの宿泊予約者に対し、特典や割引を盛り込んだ「ブッキング・エクスペリエンス」を開始しており、今後も増やしていく方針だ。

ブッキング・エキスペリエンスの画面。現在、各地のパートナー施設開拓を行なっており、日本では担当スタッフを募集。

タンズ氏は、今夏の利用傾向で、「事前の予約は1泊目だけ。あとは旅行中にアプリでするようになった」と、旅行者の変化に言及。その背景に、「顧客のテクノロジーに対する信頼が強まっている」と、マーケットのテクノロジーに対する習熟度の変化を指摘する。

ブッキング・ドットコムは今年、チャットボットを開発するイスラエルのテクノロジーベンチャー、「エヴァチュア」を取得。ボットを活用し、ユーザーのベストな宿泊施設の選択をサポートする仕組みなどを検討している。さらにタンズ氏は今、注目しているテクノロジーとしてVR(仮想現実)をあげ、「VRの画面で予約をしたり、実際には移動をしないVR旅行の予約を扱うこともあるかもしれない」とも語る。ミッションの実現に向け、あらゆる可能性への取り組みは尽きない。

新サービス「ブッキング・アシスタント」は機械学習を使ったチャット形式のサポート。英語のみのリリースだが、日本語を含む主要な言語にも対応させる方針
レンブラント広場の後ろに建つブッキング・ドットコムのアムステルダム本社。先端テクノロジーを操る同社が、100年以上前に立てられた趣あるビルを社屋にアムステルダム市街を一望できる屋上も、ワークスペースとして人気の場所本社受付の様子

取材:山田紀子

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