デジタル時代に求められる観光マーケティングとは?「共感力」や「体験の可視化」などキーパーソンの提言を聞いてきた

アドビシステムズが先ごろ主催したデジタルマーケテイングカンファレンス「Adobe Digital Experience Insight 2018」。そこでは、観光産業関連のセミナーが開催され、アドビシステムズのプラブネ・マニッシュ氏は「デジタル時代の旅行体験を支えるマーケティングテクノロジー」について、JTB Web販売部戦略統括部長でアドベンチャー取締役の三島健氏は「訪日外国人4000万人を目指す2020年までに旅行業が必要な変革とデジタルの活用」について提言した。

「観光×デジタル」の方程式に対して、二人が導き出した答えとは?

アドビ・マニッシュ氏、マーケットを動かすExperience Makerの育成を

マニッシュ氏は、デジタルマーケティングの観点から現在の潜在的なニーズは、「一般」ではなくパーソナライズされた「スモールマス(small mass)」にあると提起。それはデジタルチャネルによって拡散する「想像力」とスマホなどのデジタルデバイスによって喚起される「共感力」によって生み出されると説明した。そのなかで、キーワードは「Experience Maker」という概念だという。

「Experience Maker」とは、顧客視点をベースにデジタルを活用して、想像力と共感力で人の心を動かす人、そして、それをビジネス化するために組織、プロセス、技術の変革を進める人のこと。マニッシュ氏は「顧客視点とは、サービス提供者が旅行者のパートナーになること」と強調する。成熟した旅行市場では、よりパーソナルな体験を求めるニーズは高く、「My Life, My Experience、My Travel Partner」など「私の」という視点が重要に。その親和性からスマホによるソリューションがタビマエからタビナカまで求められているとする。

UGCの活用で利益を生み出す好循環

そのひとつの解決法がユーザー生成コンテンツ(UGC)だ。UGCとは、ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツの総称で、FacebookやInstagram、Twitter、ブログ、写真共有サイトなどのSNSに投稿されたコンテンツや、クチコミサイトに投稿された感想や通販サイトの商品レビューなどを指す。

マニッシュ氏は、ロンドンのパーク・プラザ・ホテルでのUGCを活用した取り組みを紹介。チェックイン後の宿泊者が、ホテルのWi-Fiに接続した瞬間にUGCを活用してビッグベンが見える部屋へのアップグレードを提案したところ、一泊数千円プラスで可能になる内容のアップセールに成功した。また、オーストラリア政府観光局でも同公式サイトでUGCを活用したところ、平均滞在時間は66%増、新規訪問者も77%、サイトエンゲージメントも30%増と成果を上げているという。

マニッシュ氏は、UGCを活用することで「顧客とブランドがダイレクトにつながり、そのブランドについて顧客同士が交流するコミュニティーが形成され、結果的に顧客ロイヤルティーが向上し、リピートに結びついている」と説明。また、UGCを作成する人のタビナカとタビアトの体験は、「次の人へのタビマエのインスピレーションに繋がる」とし、ブランドにとって利益を生み出す循環が形成されるとした。

ただ、パーソナライズされた体験を提供していくためには、データ量だけでは不十分と指摘。そこにはデータを分析するインサイトが不可欠とした。顧客の「ヒトとナリ」を把握するデータを集め、第三者の外部データを取り込み、セグメンテーションを行い、具体的な施策に活用する。この循環によって、顧客に対してパーソナルな旅行手段や体験を提案することが可能になり、コンバージョンのアップやアップセールの取り込みにつながるとの考えを示した。

データをもとに瞬間ごとに顧客が必要としていることをインサイトし、テクノロジーでリアルタイムにその瞬間をサポートする体験を提供する。その顧客体験の積み重ねこそが、アドビが考える「カスタマージャーニー」だと説明。パーク・プラザ・ホテルの例を挙げ、「顧客がホテルのWi-Fiにつなげた瞬間に次のアップセールに繋げるようにすることが大切」とした。

データ保護規則GDPR対応も急務

このほか、マニッシュ氏は、今年5月25日から適用が始まったEU一般データ保護規則(GDPR)についても言及。アドビが提供するソリューションは、「Facebookのようにならないように」、その対応も万全とアピールした。また、モデレーターを務めたトラベルボイス代表の鶴本も、「EUからの顧客を扱ううえで日本にも関係のあること。しかし、日本の観光業界ではまだまだ理解が進んでいない」と警鐘を鳴らした。

アドビセミナーで講演するマニッシュ氏

JTB三島氏、インバウンド市場で「タビナカの勝者はまだいない」

JTBの三島健氏は、インバウンド市場におけるデジタル活用について講演。その前提として、まず日本の旅行産業の高い潜在性について説明した。現在、訪日外国人旅行者が急増し、2017年は2800万人を超えたが、その市場規模は3.3兆円ほど。現在国内の旅行需要を支えているのは20.8兆円にのぼる国内旅行としたうえで、2030年に政府目標である訪日外国人6000万人、市場規模15兆円が達成されれば、「国内とインバウンドのサービスの差がなくなり、インバウンドマーケティングの面でも違いが出てくる」と指摘した。

それを踏まえ、三島氏は、現在のモバイル化における課題について言及。旅行プロセスにおけるモバイル化は世界で急速に進んでいるが、旅行者の動き、期待するモノ・コト、決済方法などはマーケットごとに異なり、一括りにできないとコメント。そのなかでもタビナカのコト消費については、「OTAも動態の大枠は調査しているが、詳細まではトラッキングしきれておらず、今のところタビナカでの勝者はいない」とし、タビマエのDMP(データ・マネージメント・プラットフォーム)はあるが、タビナカのコト・モノに関するDMPはまだ十分にできていないところに課題があると指摘した。

データや目標の「可視化」で、より最適化されたマーケティングを

そのうえで、キーワードとして「可視化」を挙げる。事業のゴールの可視化では、瀬戸内DMOを例に挙げ、入込数、宿泊数、観光総収入などともに明確なゴールとして住民満足度90%を可視化し、「住民も地域振興のステークホルダーになっている」点を評価した。

宿泊体験では、日本とは異なり泊食分離を好む海外に向けて選択肢を可視化する重要性に触れるとともに、チャットポットをインターフェイスとしたセールスやコミュニケーションログや購買履歴をもとにしたマーケティングでサービスを訴求していく必要性を提言した。また、今後はスマートボイスなどコンシェルジュのAI化、部屋のIoT化が進むと予想されることから、その最適化も課題だとした。

体験の可視化では、旅行者が「現在どこにいるか」だけでなく、SNS情報などの分析によって「なぜそこにいるか」を可視化する必要性を指摘。ショッピングでは、実購買データとは別に、「何を見た」という情報を重ねて可視化することで、より個別に最適化された情報配信も可能になる環境が徐々に現れていると紹介した。

持続可能な成長のためにロボティックス

最後に三島氏は持続可能な成長に向けて、ロボティックスによるサービス支援を提言。人材不足の解決やコスト削減だけでなく収益性アッブにもつながるほか、相手がロボットであることからユーザーからのフィードバックも取得しやすいなどのメリットを挙げた。

さらに、特定の地域に観光客が集中する「オーバーツーリズム」問題についても言及。今後、環境への影響、地域住民の満足度の調査が必要になってくると指摘するとともに、観光資源の切り崩しではなく、テクノロジーとデータを活用した継続性のある最適化サービスも求められると強調した。

「インバウンドではタビナカの可視化が課題」と三島氏

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