愛犬連れの旅で上質体験を提供するホテルチェーンが拡大、高稼働で人気を集める理由を取材した

インバウンドの波と、2年後の東京オリンピックに向けて活況の宿泊業界。6月の民泊新法の施行も追い風に、多種多様な宿泊施設の開業が続く。そんななか、総合不動産業の東京建物グループで、リゾート部門を担う東京建物リゾートが2018年6月に開業したのは、琵琶湖の湖畔に建つ愛犬同伴型の高級リゾート「レジーナリゾート びわ湖長浜」だ。すでに同ブランドを、富士山麓や箱根、軽井沢など計6軒で運営しているが、今年は同リゾートを含め3軒をオープンする予定。計9軒へと出店を加速する。

1988年の創業以降、通常のホテルやリゾートを展開してきた同社が、現在は「ホテルレジーナ河口湖」以外の施設を愛犬同伴型の「レジーナリゾート」とし、同ブランドの出店を強める理由を聞いてきた。

高級ホテルと同じクオリティを提供

レジーナリゾートのコンセプトは、「愛犬と一緒に旅をして信頼を深め、愛犬ともっと仲良くなれるリゾート」。東京建物リゾートのホテル事業部長・西村歩氏は、「心配がつきものの愛犬との旅行を、ストレスなく寛いでいただける施設を目指している」と、開発方針を示す。

施設や時期によって異なるが、同社ホームページ上には1人あたり1泊3万円台のプラン設定が並ぶ。「たとえ、愛犬のいないゲストのみの宿泊でも満足いただけるよう、同等(の価格帯)のクオリティを提供するように努めている」と説明する。

特徴の一つは、小規模施設であること。現在展開する6軒のうち、最小は8室、最大でも26室で、「客室数を絞り、ゲストはもちろん、愛犬の一頭一頭に手厚いサービスを提供する」というのがその理由。もう一つは、食事をレストランまたは部屋(施設によって異なる)で愛犬と一緒に食べられるようにしたこと。ディナーは会席料理やフレンチのフルコースなどを1時間半程度、ゆっくりと時間をかけて、一流の料理を楽しめる体験を提供する。

さらに評価が高いのは、おもてなし。敷地内や館内は、ドッグランや犬の足洗い場、客室の飛び出し防止ゲートや就寝時用のゲージなど、愛犬との宿泊に必要な設備が随所に用意されているが、それだけではない。ホテルや旅館では、ゲストとの会話や滞在時の履歴をおもてなしに活用しているが、同リゾートでは同伴の愛犬にもゲストの家族として、同様の対応を行なう。

レジーナリゾートびわ湖長浜は全15室。床は汚れが染み込みにくい素材を使用。過度の装飾をなくし、家具の脚は金属製、コンセントは床上40センチの設置など、愛犬の行動を気にせずに過ごせる配慮がされている。

フロントなどのスタッフは、動物専門学校の出身者などを採用しており、到着後の様子やお客様との会話の中から、愛犬の性格や趣向をさりげなくうかがう。例えば、過去の犬同士の喧嘩がトラウマになって、特定の種類や特徴をもった犬を見ると、落ち着きがなくなったり、おびえたりする犬がいる場合は、レストランでの食事でバッティングしない座席配置にするなどの配慮を行なう。

ゲストや愛犬の滞在時の履歴はデータとして残すので、次回の宿泊時はよりスムーズなサービスが可能だ。愛犬同伴のゲストは滞在客用のアンケートにも丁寧に回答する人が多く、そのフィードバックが、同リゾートの磨き上げにも役立った。

こうして蓄積したノウハウで提供するサービスが、安心して任せられるとクチコミで広まり、同リゾートの会員組織「レジーナドッグクラブ」は、約3万4000世帯に拡大した。愛犬と一緒の宿泊でも、我慢や遠慮をせずに上質のサービスが受けられることが分かり、「(愛犬と一緒に)旅行をしても大丈夫なんだ」との声を聞くことも多いという。

全15室に設置された温泉の露天風呂。湯舟は滋賀県が誇る信楽焼陶器浴槽。琵琶湖を見下ろすレイクビュー。犬の入浴は禁止。(写真提供:レジーナリゾートびわ湖長浜)

集客苦戦から、平均8割の高稼働の施設に

同社が愛犬同伴型のリゾートを開始するきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災。福島県で運営していたコテージ「羽鳥湖高原レジーナの森」(現在は他社の所有運営で名称も変更)が集客に苦戦し、愛犬家だった当時の担当者が、愛犬同伴型施設への転換を発案した。当時は、宿泊施設として一定のクオリティを保つ高級路線の愛犬同伴型施設が少なく、そこが評価されたという。

そして2013年、愛犬同伴型高級ホテルとして「レジーナリゾート富士」をオープンし、同ブランドの展開を開始。インバウンドの急増で、リゾートの稼働率は以前と比べ、全国平均で10ポイント増の6割程度に上がってきているが、同ブランドは昨年、それを大きく上回る8割の高稼働を記録した。

100平方メートルある共用のウッドチップドッグラン

主要客層は50代の「余裕のある夫婦」を中心に、ファミリー客や女性の友人同士などが多い。一度利用すると、その安心感を求め、半数以上が同ブランドの施設を滞在拠点に旅をするハードリピーターになるという。質の高いゲストの高頻度の需要があることが、同社が同ブランドを拡張する理由だ。

今後は日本の総人口は減少し、犬を飼う世帯の減少も続くと見るものの、「都心部の愛玩犬を飼うニーズは依然あり、急激に減少することはない。西村氏は、「高級志向の愛犬同伴型旅行のニーズを満たす宿泊施設は足りておらず、ニーズはまだまだ増える。そこを目指してサービス展開を広げていける」と強気だ。

客室には愛犬用のアメニティも充実。ふき取りシートやタオル、消臭スプレーなども。また、自由にものを入れられる大き目の冷蔵庫やレンジがあり、愛犬用の食事の持ち込みも可能

老舗旅館とコラボ、新たな展開も

今後、同社は「レジーナリゾートびわ湖 長浜」を皮切りに7月には鴨川、秋には箱根仙石原にも開業を予定。2025年には、計15施設に拡大する計画だ。

出店数と同時に、運営面で新たな可能性も広がっている。例えば、今回視察した「レジーナリゾートびわ湖 長浜」は、関西圏の顧客のニーズに応えるべく、初の関西圏に開業した施設。また、同施設の所有者である明治創業の老舗料亭旅館「浜湖月」と業務提携を行ない、他の宿泊施設との共同事業の施設としても初運営となる。

明治時代に創業した老舗の料亭旅館「浜湖月」に隣接

具体的には、評価が高い浜湖月の会席料理をはじめ、朝夕の食事は浜湖月の味を客室食で提供。風呂は浜湖月の温泉を引湯し、全室に温泉露天風呂を完備した。両館を繋ぐ渡り廊下を作り、浜湖月の温泉大浴場も利用可能に。さらに料理や施設の提供だけでなく、食事の配膳や客室清掃は、浜湖月のスタッフが担当する。宿泊施設の運営では、人材確保と効率化が課題にあるが、この解決に向け、宿泊施設同士が協力する。ターゲット客が異なるからこそ、実現できるコラボともいえる。

食事は隣の浜湖月で作り、そこから持ってくるため、すべての料理を「一の膳」「二の膳」「三の膳」の3つに分けてて配膳する。これは先付、前菜、造里、強肴(国産牛しゃぶ鍋)酢の物の載った「一の膳」の例。愛犬の食事風景(イメージ)。愛犬には1頭につきエゾシカサラミなどのお菓子1袋を提供。(写真提供:レジーナリゾートびわ湖長浜)

取材:山田紀子

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