24時間完全無人の「宿坊」が都内に開業、檀家向けの施設改装で一棟貸しも、顔認証チェックインやアバター実装へ

「お寺ステイ」を運営するシェアウィングは2019年7月25日、港区の日蓮宗松流山正傳寺を24時間完全無人の宿坊「Temple Hotel正伝寺」としてオープンした。また、東洋学園大学と共同し、訪日観光客の誘致プロジェクトも開始。学生からのアイデアのうち優秀なものを、訪日観光客向けの体験として提供していく。

シェアウィングは2016年6月に設立。2017年9月には岐阜県高山市に第一号の宿坊となる「Temple Hotel 高山善光寺」をオープンした。今回オープンした「Temple Hotel正伝寺」はそれに続くもの。シェアウィング社長の雲林院奈央子氏は発表会見で、宿坊ホテルについて「お寺という素晴らしい価値に新しい価値をプラスするもの」としたうえで、「何もしないゆったりとした時間、自分を高める場、ユニークな体験の3点が宿坊の魅力」と説明した。

現在、日本全国には7万7000軒以上の寺が存在すると言われており、その数はコンビニよりも多い。しかし、家族構成や地域コミュニティーの変容により檀家が減少しているほか、住職の後継者不足にも直面しているのが現実だ。シェアウィングによると、全体の95%が「維持は難しい」と応え、そのうち18%にあたる約1万3700寺院が合併あるいは解散を考えているという。

1602年に創建された正傳寺の住職田村完浩氏は、年に1、2件のペースで「墓じまい」をする檀家があり、「未来は明るくない」と明かしたうえで、お寺ステイとの協業について「収入面だけでなく、仏教体験も提供できるところで賛同した」と話し、今後の自寺の発展に期待感を表した。正傳寺の場合、宿坊開業に対して檀家から総意を得られたが、雲林院氏によると、「檀家の理解を得るのが大きなハードル」。特に地方には保守的な寺社仏閣が多いという。

オープン発表記者会見:(右から)東洋学園大学准教授の本庄加代子氏、シェアウィング雲林院氏、正傳寺住職の田村氏、UsideUの高岡氏、寺社旅研究家の堀内克彦氏

最大12名の宿泊が可能、一棟貸しにも対応

「Temple Hotel正伝寺」は、旅館業法下の旅館として登録。チャックイン/アウトを無人化することで、住職の業務負担を減らとともに、効率的な運営を目指す。現在は、遠隔からのモニター越しに人力案内で解錠パスワードなどを伝えるが、来年にはUsideUが開発するアバター「尼ター」を実装する計画。「尼ター」は、利用の大部分が訪日観光客になると予想されることから5ヶ国語での対応を可能とし、顔認証でチェックインを行う予定。UsideU代表取締役の高岡淳二氏は、「ITは宿坊運営のハードルを下げる」との考えを示した。

宿泊施設は、遠方の檀家向けに用意していた建物をリノベーション。2階建てで、それぞれ最大6名の宿泊が可能。キッチンや冷蔵庫など生活家具も備え、一棟貸しにも対応する。現在は、エアビーアンドビーとブッキング・ドットコムにリスティングし、予約を受け付けている。

また、宿泊に加えて、「お守りづくり」「数珠づくり」「写経」「座禅」などの体験も提供し、タビナカ需要にも応えていく。

シェアウィングは、2020年までに100ヶ寺とのパートナー契約、10ヶ寺の宿坊を開業する計画。雲林院氏は「欧米からの旅行者が多い広島や福岡などでの開業を目指したい」と意気込みを示した。

「Temple Hotel正伝寺」の1階「Temple Hotel正伝寺」の2階

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