豪州ワインを国立施設で学ぶ旅、アデレード起点に地域のストーリーを体感、歴史から先住民文化との接点まで ―ATE2026

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オーストラリア政府観光局(TA)が南オーストラリア州アデレードで開催した観光産業B2B商談会「Australian Tourism Exchange(ATE)2026」。その一環として、オーストラリア国立ワインセンターにおけるプログラムを視察した。豪州ワインの歴史、産地の多様性、食との組み合わせ、さらに先住民文化との接点を一体的に体験できる拠点だ。視察で体感したその魅力とワインツーリズムの可能性をレポートする。

ワイン旅の起点、全域の魅力を伝えるハブ拠点

同センターのワインサービスを担当するソムリエ、アブラハム・ハリム氏は、「ここは豪州ワイン産業のハブであり、豪州ワインの旅を始める場所だ」と説明する。今回の体験では、通常提供している「テイスト・オブ・サウスオーストラリア」と、先住民系ワインメーカーのワインにネイティブ食材を合わせる「Mundaワイン・エクスペリエンス(カルチュラル・コネクション・ワイン)」の一部を組み合わせ、豪州ワインの全体像を紹介した。

オーストラリア国立ワインセンターは、2001年に建設された施設。2026年10月6日には、25周年を迎える。ハリム氏によると「この建物は、会議やイベントのためだけでなく、ワイン教育やワイン展示を支援するために整備された」。施設内にはワインバー、テイスティングルーム、セラー、イベントスペースがあり、年間600~700件のイベントが開催されているという。

テイスティングルームでは、豪州各地のワインを少量から試飲できる仕組みを導入している。ハリム氏によると、豪州には65のワイン産地があり、そのうち約45産地のワインを扱う。100種類以上の豪州ワインを、25ミリリットル、75ミリリットル、150ミリリットルの単位で楽しめる。ワインは6週間ごとに入れ替えをおこなうので、来館者は再訪するたびに異なる産地や品種に触れることができる。

同氏は、このワインセンターが国立であり、国を挙げた取り組みであることを強調する。南オーストラリアだけでなく、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、タスマニア州、西オーストラリア州など、豪州全土の多様なワインを紹介することが同センターの役割だ。

新世界ワインとして、自由度と産地特性が多様性を生む

豪州ワインは、ニューワールド(新世界)ワインとして、自由度と産地特性が多様性を生んできた歴史を持つ。ハリム氏は「豪州はニューワールドワインの生産国であり、1800年代ごろまで本格的にワインを造っていなかった」と話す。フランス、イタリア、スペインなど欧州の産地と比べると歴史は新しい。また、豪州には在来のブドウ樹がなく、現在栽培されているブドウの原木は欧州から持ち込まれたものだという。

その中心人物として活躍しているのが、英国から豪州に移住したジェームズ・バズビー氏だ。同氏は1824年に豪州へ移住し、ニューサウスウェールズ州ハンターバレーでブドウ栽培を始めた。1831年には欧州からブドウの挿し木を輸入し、それが各地に広がった。南オーストラリア州では、マクラーレン・ヴェイル、バロッサ・バレー、クレア・バレーなどに広がり、現在の主要産地の基盤となった。

豪州ワインの特徴について、ハリム氏は欧州のような厳格な品種規制がない点を挙げる。たとえばフランスのボルドーでは、栽培できる品種が地域ごとに定められているが、豪州では「バロッサ・バレーに畑を購入した場合、どの品種を植えるかは自分で決めることができる」と説明する。ただし、どの品種でも適地になるわけではない。気候や土壌によって適する品種が異なり、それが各産地の個性を生む。

地域ごとの多様性も、豪州ワインの強みだ。南オーストラリア州はフルボディの赤ワイン、タスマニア州やビクトリア州はピノ・ノワール、シャルドネ、スパークリングワイン、西オーストラリア州は沿岸地域としてボルドー系品種やソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、シャルドネが有名だ。ハリム氏は「同じカベルネでも、どこで育つかによって味わいはまったく異なる」と説明し、産地の気候と土壌がワインの個性を形づくることを強調した。

ワインサービスを担当するソムリエ、アブラハム・ハリム氏

古木が語るワイン資産

同センターの展示では、豪州ワインの歴史を象徴する古木も見学することができる。館内には、バロッサ・バレーのセント・ハレッツ・ワイナリーから寄贈された154年の古木が展示されている。ハリム氏は、古木の根が土壌深くまで伸びることで「多様な栄養を吸収し、より凝縮感や深み、余韻のあるワインにつながる」と説明した。

実際、豪州には、世界的にも古いブドウ樹が残っている。ハリム氏は、バロッサ・バレーのラングメイルが所有する1843年植樹のシラーズを「世界で最も古い、現在も生きているシラーズの樹」と紹介。このブドウから造られる「1843フリーダム・シラーズ」は、少量生産の限定ワインとして販売されている。また、シリロ・ファミリーが所有する1850年植樹のグルナッシュ、ペンフォールズが所有する1888年植樹のカベルネ・ソーヴィニヨンにも触れ、古木が豪州ワインの重要な資産になっていることを示した。

こうした古木が残った背景には、南オーストラリア州がフィロキセラの侵入を防いできたことがある。フィロキセラはブドウ樹の根に寄生し、数年で畑全体を壊滅させる害虫で、19世紀には欧州の主要産地に甚大な被害を与えた。豪州では1875年にビクトリア州ジーロングで確認されたが、南オーストラリア州は直ちに厳格な検疫を導入し、ビクトリア州からのブドウの挿し木やワイナリー設備の移動を制限したという。

現在も検疫体制は厳格で、ハリム氏は「イタリアで気に入った在来品種の挿し木を豪州に持ち込むことは可能だが、まず検疫に入る必要がある」と説明する。かつては2~3年程度だった検疫期間は、現在では8~10年に長期化している。南オーストラリア州のワイン産地では、フィロキセラを防ぐために来訪者が畑に立ち入ることを制限しているワイナリーもあるという。

また、1993年に豪州が地理的表示(GI)を導入したことも、ワイン産業の転換点といえる。それ以前の豪州ワインでは、シャンパーニュ、クラレット、ブルゴーニュ、ポートなど欧州の地名やスタイル名をラベルに使用していたが、欧州の規制に合わせ、産地名、品種、ヴィンテージを明記する現在の表示へと移行した。ハリム氏は「1993年以降、豪州の生産者は欧州の地名をラベルから外し、ブドウ品種、産地、ヴィンテージを表示するようになった」と話した。

フードペアリングから先住民文化へ、体験価値を高めるワインツーリズム

セラー体験では、南オーストラリアの食材やネイティブ食材とワインの組み合わせも紹介された。同センターのセラーは、南半球最大級のオープンエア型セラーとして、最大1万3000本を収容できる。現在は約9000本を保有し、そのうち約400本が国際ワインで、残りは豪州各地から調達したワインで構成される。豪州65産地のうち55産地のワインを収蔵し、南オーストラリア州18産地のワインもそろえる。

南半球最大級のオープンエア型セラーで、最大1万3000本を収容できる

なお、ワインリストには約400種類を掲載し、毎月更新している。セラー内のワインは品種やスタイルごとに分類され、通常提供用のワインと、熟成を待つプレミアムワインの「セラーリザーブ」に分かれている。最も古いヴィンテージとして、1990年のヘンチキ「ヒル・オブ・グレース」も紹介された。

試飲では、先住民系ワインブランド「Munda」のワインも取り上げた。ハリム氏によると、Mundaは2022年にポール・ヴァン・デン・バーグ氏が立ち上げたブランドで、「Munda」は土地(カントリー)を意味するという。同ブランドは自社畑を持たず、品種ごとに豪州各地の適地からブドウを調達している。マクラーレン・ヴェイルのシラーズ、ヤラ・ヴァレーのピノ・ノワール、タスマニアのスパークリング、タンバランバやマーガレット・リバーのシャルドネなど、産地特性を生かしたワインづくりをおこなっている。

今回の体験では、ヤラ・ヴァレーのピノ・ノワールに、ワギュウ・ブレザオラ、クアンドン・チャツネ、スイートポテトチップスを合わせた。クアンドンは豪州のネイティブフルーツで、甘酸っぱい味わいが特徴だという。ハリム氏は「薄くスライスしたブレザオラのような繊細な肉には、強い赤ワインではなく、軽やかなピノ・ノワールがよく合う」とうれしそうに語った。

この試飲体験プログラムは、「南オーストラリア州の多くの事業者が、来訪者体験の中にアボリジナル文化との関わりを取り入れている一例」という側面も持つ。Mundaのような先住民系ブランドのワインと、ネイティブ食材を組み合わせる試みは、ワインを単なる飲食体験にとどめず、地域文化や土地との関係を伝える観光コンテンツに発展させるものといえる。

オーストラリア国立ワインセンターの体験は、ワインの歴史や品種、産地の知識を伝えるだけではない。セラーでの解説、少量試飲、料理とのペアリング、先住民文化との接点を通じて、豪州ワインを地域のストーリーとして体感させる仕組みである。豪州ワインツーリズムにおいて、アデレードはワイン産業の集積地であると同時に、来訪者にその奥行きを伝える入口としての役割を担っている。

取材・文: 鶴本浩司

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