HIS、新中期経営計画を発表、2030年に総取扱高1兆円へ、3領域再編で1000億円投資

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エイチ・アイ・エス(HIS)は2026年6月12日、2027年10月期を初年度、創業50周年を迎える2030年10月期を最終年度とする4カ年の新中期経営計画「Vision2030 BEYOND」を発表した。

これまでの財務健全化や組織改編といった基盤整備のフェーズを経て、持続的な成長に向けた事業ポートフォリオの刷新へと踏み出す。代表取締役社長の澤田秀太氏は、会見で「不確実性が高まるなか、旅行事業に多大な可能性を見過ぎてしまうリスクは高い。基盤がある今のうちに、5年、10年かけて第2、第3、第4の次の柱の種まきをしておく必要がある」と、市場の現実から将来を見据える方針を示した。

1980年に机二つ、電話一本から始まった同社は、総額1000億円規模の投資を伴うポートフォリオ改革により、新中計のビジョンに掲げる“BEYOND”の挑戦を開始する。

2030年に総取扱高1兆円、全指標で過去最高の更新へ

持続的な成長とスピーディな意思決定に向けてHIS JAPANやHIS Global DMCなどへの組織改編を実施し、年間営業利益100億円超への回復を果たしたHIS。一方で、常態化する地政学リスクや物価高、購買行動の多様化といった市場構造の変化により、主力であった日本発海外旅行の回復遅延、とりわけ大衆化に寄与したハワイやグアムへのファミリー層の旅行マインドの獲得に苦戦するという課題にも直面している。

こうした構造的課題を打破し、環境変化を好機に変えるべく新中計で打ち出したのが、成長のポテンシャルや収益性に応じて分類した「コア」「ネクストコア」「グロース」の3つの事業ドメインへの再編成だ。単なる旅行手配にとどまらず、着地コンテンツ開発まで一気通貫で手がける「垂直統合型SPA旅行業モデル」への進化を目指す。

2030年10月期に向けた数値目標として、総取扱高1兆円(2025年度比44%増、年平均成長率CAGR 7.54%)、売上高5000億円(同34%増、CAGR6%)、キャッシュ創出力の指標となるEBITDA350億円(同50%増、CAGR8.6%)、営業利益250億円(同115%増、CAGR16.5%)と、全指標で過去最高を更新する意欲的な目標を設定した。営業利益率は1.6倍の5%を目指す。人員計画を年率1%台の微増、2030年も1万3760人規模にとどめるのも特徴だ。AI・テクノロジーの全社実装によって生産性を徹底追求し、同規模の従業員数でありながら売上・利益を大きく伸長させる、労働集約型からの脱却を図る姿勢を明確にした。

新中計で定義する3つの事業ドメインは、現在の収益基盤である日本人向け旅行事業を中心としたコア領域、次世代の柱へと躍進させるネクストコア領域、未来への挑戦であるグロース領域で構成され、核となるのがネクストコアとグロース領域の成長だ。2030年には、この2領域で営業利益構成比の約5割(47.1%)、約180億円を占める計画を掲げる。それに伴い、変革が進むコア領域から約400名をネクストコアおよびグロース領域へシフトする、大胆な人員配置転換にも踏み切る。

ドメインごとの成長戦略とは?グローバル事業は売上3000億円へ

各ドメインの具体策において、コア領域では基幹システム刷新とAI活用により販売・企画の業務工数を約4割削減し、収益力を高度化する。オリジナリティのある着地コンテンツで差別化を図り、他社が撤退しつつあるマーケットで全方位でのシェア獲得をねらう。特に日本発海外旅行事業について、澤田氏は「競合他社を寄せつけないナンバーワンのポジションを盤石にする」と強調した。

次世代の柱と位置づけるネクストコア領域は、ホテル、グローバル、法人地域の3事業のバランスをとれた成長を目指す。法人事業では、MICEを単なる手配からソリューションビジネスへ高度化させ、BTM(出張管理)はAIと人の協業で効率化を推進する。地域事業では、受託事業と自主事業を掛け合わせて自治体の地域創生パートナー化を進め、取引数を拡大していきたい考えだ。

また、グローバル市場(日本発を除くノンジャパニーズ市場)においては、売上目標3000億円を掲げた。すでに今期で2400億円規模まで積み上がっており、達成の確度は高いとみる。国内と海外の利益配分は概ね5対5を維持する方針だ。BtoB強化へ舵を切るため、「GLOBAL SALES本部」を設立しており、クロスセル強化、未活用拠点の受託体制を整えるとともに、M&Aやジョイントベンチャー(JV)を通じて新たなソースを開拓していく。

同領域でグループ収益全体の柱となっている「変なホテル」などを擁するホテル事業では、建設費高騰や地政学リスクを踏まえ、戦略を刷新する。従来の大型一極集中投資だけでなく、アパートメント型や既存ビルからのコンバージョン(用途転換)へと開発モデルを転換し、運営の簡素化と高収益化の両立をねらう。一部無人オペレーションによる固定費圧縮、エリア集中出店計画も進める。

一方、未来に向けた事業の芽を育てるグロース領域は、非旅行・新規事業、小売・EC、人財・金融、システム開発事業などを指す。CAGR70.6%で2030年の営業利益が30億円、営業利益率10%と高い成長を見込み、生成AI、ECへの進出強化も視野に入れる。自社基盤を活かした金融や外国人人材派遣、飲食事業の拡大を図るほか、ボトムアップの社内起業制度を推進。さらには宇宙事業やIR(統合型リゾート)といった、トップダウンの経営陣直轄プロジェクトにも注力する。

4年間で1000億円の投資計画、M&AやCVCで次の柱を育成

新中計の4カ年間では、年間250億〜300億円を想定する営業キャッシュフローを原資に、総額1000億円の積極的な成長投資を敢行する。内訳は、システムやAI、ホテル開発などの設備投資に600億円、M&A投資に400億円を配分する。

澤田氏はM&A投資のドメイン別の配分目安について、「コア領域20%、ネクストコア領域50%、グロース領域30%」と明らかにしており、案件に応じて機動的に調整していく。グループ全体でM&Aを進め、売上高450億円、EBITDA45億円の創出を見込む。

また、総額25億円のCVC投資を並行。宇宙やインターネットテクノロジー、ヘルスケアなどの成長企業50社へ投資し、10社のEXITによる投資額の2.5倍のリターンと、50億〜100億円規模の事業連携シナジーをねらう。

澤田氏は「前中計の3年間でも、想定以上に日本人の海外旅行が戻りきらなかった。断トツナンバーワンは維持するが、キャッシュエンジン(稼ぐ力)があるタイミングで、早急に次の柱を作らなければならない。人的リソースの再配置と積極的なM&A投資を進める」と、多角化への強い決意を語った。

「AI × 人」でLTV向上、ロープライスへのこだわり

持続的成長のエンジンとして重視するのが、テクノロジーを活用した生涯顧客価値(LTV)の最大化だ。同社はDXの先にある「AX(AIトランスフォーメーション)」を掲げ、全社的なAIエージェント協業体制を構築。なかでもコア領域においては、海外旅行の業務システム刷新、AIの自動予測によるダイナミックプライシングの自動化(売上3%増、業務工数20%削減を目標)、タビマエ、タビナカ、タビアトのハイパーパーソナライゼーション(売上1.5%増、業務工数30%削減)などを進めるほか、CRM/CX施策による約20億円の粗利額創出をKPIに設定し、データ蓄積の好循環を回すとしている。

また、創業からのアイデンティティである「ロープライス」へのこだわりについて、澤田氏は「他社が安売りから撤退するなか、全方位でナンバーワンを目指す我々にとってそこは『空白域』であり、強みとして継続する」とあらためて全方位、ナンバーワンというワードを引用するとともに、「単なる安売りではなく『内容に対してお得』なバリューを徹底する。システムとAIを先んじて導入し、原価や販管費を抑制すれば、この価格帯でも十分に利益率を引き上げられる自信がある」と、他社の模倣ではないオリジナリティの追求に自信をのぞかせた。

なお、財務戦略では、健全性の目安として自己資本比率20%(中間期は14.8%)、資本効率としてROIC7%、ROE20%以上を掲げた。株主還元では配当性向25%以上を目指すほか、優待券の発行基準改善や割引額上限アップ、有効期限の延長、長期保有優待の新設など、個人投資家層の拡大に向けた株主優待の大幅な見直しを検討している。

中間期は中東情勢、円安常態化が影落とし増収減益に

HISが同日発表した2026年10月期中間期(2025年11月1日〜2026年4月30日)の連結決算は、売上高が前年同期比6.5%増の1931億3200万円、営業利益が同4.1%減の64億4800万円、経常利益が同9.9%減の61億9700万円、中間純利益が同21.0%減の30億円だった。増収は5期連続。ホテル事業などが堅調に推移した一方、中東情勢の悪化と為替影響が旅行事業の利益を大きく圧迫した。

雇用・所得環境の改善を背景に景気が緩やかに回復するなか、同グループは各種プロモーションを積極的に展開。なかでもホテル事業は、活発な訪日旅行需要を捉えて客室単価が上昇し、営業利益は同29.6%増の24億8800万円とグループ収益の柱へ進化を遂げた。旅行事業でも、海外法人における受注業務が利益を下支えした。

しかし、中東情勢の緊迫化と燃油高が、主軸である日本発の海外旅行に影を落とした。3〜4月出発のツアー催行中止や、欧州・エジプト方面などのキャンセル売上高総額は約50億円に上り、取扱高が計画を下振れた。さらに、円安の常態化による原価上昇も響き、旅行事業の営業利益は同15.3%減の47億4700万円と減益を余儀なくされた。

なお、中長期的な財務健全性は着実に改善しており、中間純利益の計上などから自己資本比率は2025年10月期の14.4%から14.8%に向上している。

通期業績を純損失10億円の下方修正

中間期の実績を踏まえ、同社は2026年10月期の通期連結業績予想の下方修正を発表した。売上高は前回予想の4200億円から3950億円(前期比5.9%増)、営業利益は140億円から120億円(同3.2%増)、経常利益は140億円から115億円(同1%増)にそれぞれ引き下げ。親会社株主に帰属する当期純利益は、従来の90億円の黒字予想から一転して10億円の赤字(前期は47億1900万円の黒字)を見込む。

下方修正の理由として、中東情勢の緊迫長期化や燃油高に伴う新規予約の伸び悩みを挙げたが、純損益が赤字転落となる最大の要因は、第3四半期に約60億円の特別損失(契約解除損)を計上する見込みとなったためだ。

これは、連結子会社「GUAM REEF HOTEL, INC.」が現在賃借している土地の購入を決定したことに伴うもの。同ホテルはコロナ禍以降、日本人を中心としたグアム市場の需要回復の遅れから足元で赤字が続いていた。

現行の2069年までの長期リース契約を継続した場合、毎年約4億円の賃料負担が残り約40年で総額約160億円に上るのに加え、2029年末までに80億円超の大規模設備投資義務、さらに新リース会計適用による3桁億円規模の減損リスクなど、将来的に総額300億円以上の負担となる可能性をはらんでいた。今回の土地買い取りは一過性の損失を伴うものの、これら巨額の将来負担を早期に遮断し、年次レベルでのP/L・キャッシュフロー改善や、将来的には土地・建物一体での売却など資産流動化の選択肢を広げるねらいがある。

澤田社長は会見で、「突然の公表となったが、未来における大きな損失を早めに回避した、非常に前向きな決定」であると強調した。

足元の旅行事業は、書き入れ時のシルバーウイークの取扱高が前年同日比205%ベースで推移するなど反転攻勢に向け明るい兆しもある。具体的なアクションでは、ビジネスクラスなど高付加価値商品の販売を強化するほか、オーストラリア方面や、中東を経由しないヨーロッパ添乗員ツアーへの仕入・需要シフトを徹底。2027年度からの新中期経営計画のスタートを前に、将来のリスクを摘み取り、攻めへの土台を整えた姿勢を示した。

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