欧州でDMO幹部が集結する大会を取材した、持続可能な観光への方針転換からユニークなイベントまで【コラム】

こんにちは。DMOコンサルタントの丸山芳子です。本場米国での研修や、米国、欧州での現地調査をもとに、日本のDMOを支援しています。

2019年6月、欧州のDMO協会である、ヨーロピアン・シティ・マーケティング(ECM)の年次総会に参加しました。日本人としては初めてです。ECMは、米国最大の業界団体、ディスティネーション・インターナショナル(DI)ともMICEの経済効果測定ツールの利用や研修面で連携している組織ですが、今回は、米国のDIの年次総会とは違った欧州ならではの内容をレポートします。

欧州115都市が参加するDMO業界団体

まず、ECMについて概略をご紹介しましょう。ECMは欧州38カ国、115都市以上のDMOが加盟する協会。東欧やロシアを含む地理的に広い範囲の都市が加盟しています。事務局はフランスのパリにあります。国によってDMO制度、組織形態が異なることから、「観光協会」、「コンベンションビューロー」、「都市マーケティング組織」といったさまざまな団体が加盟しています。

2019年のECMの年次総会は、スロベニアの首都リュブリャナで6月5~7日の3日間、約200人が参加して開催されました。スロベニアは旧ユーゴスラビアから1991年に独立。国全体の人口が約207万人、リュブリャナ市の人口が約29万人と、とても小さい国です。欧州では、このような日本の県単位の規模でも国であることが少なくありません。スロベニアはEUにも加盟しています。

今回の年次総会で発表されたのが、2019年から2022年まで4カ年の活動計画「Tomorrow Today」です。「明日への備えを今日しよう」との趣旨で、観光を取り巻く環境の変化への対応を打ち出しました。新戦略は、観光を開発する目的を「旅行者による消費拡大と雇用増大」から「住民の生活の向上」へ、観光地が提供するもをは「消費」から「住民生活の共有」へと、大きく転換しなければならないと訴えています。現在、日本の観光地の多くが人数や消費額の増加を目標としていますが、ECMはすでに新しい概念を示しているのです。

ECM年次総会の会場の様子

今後の観光は最大化でなく最適化を目指せ

基調講演は、2007年ノーベル賞をアル・ゴア元米国副大統領と一緒に受賞した、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のルチュカ・カイフェズ・ボガタジ氏が登壇しました。ボガタジ氏は、スロベニアのリュブリャナ大学教授で気象学者です。

その内容によると、現在、1人の旅行者が使用するエネルギー量は普通の住民の3.5倍。さらに、旅行者は飲み水、食材を通常より多く消費し、廃水、廃棄物、地球温暖化ガスも多く発生させています。2050年までに世界の旅行者数が現在の2.5倍になるとの予測を鑑みると、観光の影響も2.5倍に増大することになります。それを避けるために、ボガタジ氏は「観光産業は成長させつつも旅行者からの影響を和らげる取り組みが欠かせない。今後の観光は、最大化ではなく最適化を目指すべきだ」と強調しました。

日本でも、オーバーツーリズムは問題になっています。これも単に混雑などの問題だけではありません。古くからの住民が居住地から引っ越すことで、その地域に伝わる慣習や文化が失われることが真の問題です。風習や文化は一度失われると、二度と復活させることはできません。持続可能な観光には、こうした社会的影響についても配慮が必要ということです。

ゲーミフィケーションで観光地経営をシミュレーション

また、私は分科会で、ボードゲーム形式でディスティネーションの合意形成が体験できるワークショップ「シリアスプレイ」(仮称)に参加しました。オーストリアのモジュール大学とオランダのブレダ大学が、EUなどの資金援助を受けて共同開発したものです。

一体どういうものでしょうか。まず、テーブル上には、観光スポット、商業地区、住民居住地の地理的状況が設定され、旅行者の人数、属性、消費額のほか、観光地の住民の年齢や家族構成の比率、住民満足度、税収などの前提条件が示されています。参加するプレイヤーは、街の合意形成に関係する5つのステークホルダーであるDMO、交通事業者、ホテル、観光アトラクション、環境団体に分かれます。

ステークホルダーには事業特性に合わせた10枚程度の施策カードが配られます。施策カードは、各ステークホルダーが取りうる政策があらかじめ記載され、予算や人の配分が行われます。たとえば、DMOの場合、「ターゲットの絞り込みを行う」、「プロモーションを増やす」といった施策、さらにその施策ごとに必要なコストや人材、環境負荷の量が示されています。ゲームの外見はモノポリーなどに類似した様式です。

合意形成が学べるゲームのプレゼンテーション

複数国の専門家が協力し合い合意形成探る仕組み

ゲームがスタートすると、ステークホルダーは手持ちのカードから施策をひとつ選択し、実施費用などを支払います。ステークホルダーが1回ずつカードを出して、一巡すると1年が過ぎたことに。提出された施策の内容をコンピューターソフトに入力すると、旅行者の人数、属性、税収、住民の満足度などが変化します。つまり、このゲームは住民満足度を高めつつ、旅行者による地域経済の恩恵も確保してうまくバランスを取ることが試されます。施策内容は、複数の観光地域へのヒアリングを行って開発しており、現実に即したリアルなものです。

さて、体験結果はどうだったのか。1巡目はプレイヤーが欧州DMOの幹部ばかりで地域の合意形成の重要性を熟知しているはずにもかかわらず、ステークホルダーの施策が独りよがりで、地域の連携が不足するちぐはぐなものになってしまいました。いかに、現実の社会での合意形成が困難であるかを体感できます。プレーヤーたちも不整合な施策にすぐに気づき、2巡目の施策決定では、他のステークホルダーと直接話し合いを行い、協調した政策カードを出す工夫を始めました。

今回は75分間という時間制限があったことから、施策実施は2巡で終わりましたが、本番では4時間程度かけ、複数年にわたりシミュレーションします。プレイヤーはできるだけ実際のステークホルダーの参加を促し、本来の所属以外の組織を体験してもらいます。

このゲームには正解はありません。目的は体験を通して、観光開発が地域に及ぼす影響を意識しながらステークホルダー間の理解を進めること。ゲーム内容もさることながら、欧州では複数国にまたがる大学、幅広い専門家が関与していることがうかがえます。さらに、ゲーミフィケーションという新手段で観光開発の合意形成の理解を進める工夫を行っていることにも目を開かせられました。このように欧州には米国と違うDMOの取り組みもあります。日本も両者のDMOの良い点を取り入れつつ、日本らしいDMOのあり方を探ることが強みになると考えられます。

丸山芳子(まるやま よしこ)

丸山芳子(まるやま よしこ)

ワールド・ビジネス・アソシエイツ チーフ・コンサルタント、中小企業診断士。海外DMOに関する専門家。特に米国のDMOの活動等に関し、米国、欧州各地のDMOと幅広いネットワークを持つ。官公庁等における観光関連の調査、DMO等での地域支援の実績が豊富なほか、DMO業界団体であるDestination International主催のDMO幹部向け資格用研修「CDME」の日本人唯一の受講者。企業勤務時代は、調査・分析、プロモーションなどの分野でも活躍。

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