日本版MaaSとは? テクノロジーより重要なのは「地域の仕組みづくり」、政府の方針から先進事例まで聞いてきた

さまざまな交通手段を組み合わせて目的地までの移動サービスを提供するMaaS(Mobility as a Service)が、次世代の交通のあり方として注目を集めている。2019年10月に開催された「ツーリズムEXPOジャパン2019」では、日本観光振興協会が「地域社会における『MaaS』」をテーマとしたセミナーを開催。政府の方針が示されたほか、先進企業が取り組む最新の事例も発表された。

基調講演は国土交通省総合政策局(公共交通・物流政策部門)モビリティサービス推進課企画官の土田宏道氏、国土交通省観光庁参事官(外客受入担当)の片山敏宏氏が、それぞれ地域交通全般、インバウンドの観点から政府の方針を提示。事例紹介には、国交省が2019年度予算で始めた「新モビリティサービス推進事業」で2019年6月に選定された「先行モデル事業」の中から、WILLER(ウィラー)MaaS Business Development Dept.マネージャーの池あい子氏、近鉄グループホールディングス総合企画部課長の吉野将弘氏が登壇した。

基調講演1:2019年はMaaS元年、移動と他のサービスを紐づけることが重要 ―国交省・土田氏

2019年7月1日にモビリティサービス推進課を立ち上げた国土交通省。企画官の土田氏は、インバウンドが活発化する一方、地方部の公共交通分野が抱える課題として、「輸送人員は軒並み大幅な下落傾向にあり、特にバス事業の人手不足が深刻化している」と言及した。特に、若者の外出率が減る一方で、高齢者は比較的外出する傾向にあり、「スマートフォンと連動したMaaSの仕組みづくりが、観光二次交通の確保とともに、高齢者の不安を取り除くカギになる」とする。

MaaSという言葉の具体的な定義について、土田氏は、もともとはフィンランドのMaaS Global社が2016年に実用化したアプリが始まりで、ヘルシンキ市周辺エリアを対象に複数の交通機関を3つの料金プラン(うち2つは定額制)で提供したものと解説。ただ、「まだ明確な定義はない」とし、日本版MaaSとして「スマホアプリにより地域住民や旅行者一人ひとりのトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせ、検索・予約・決済などを一括で行うサービス」とのイメージを示した。

国土交通省総合政策局モビリティサービス推進課企画官の土田宏道氏

また、土田氏は、「移動に加え、データを核にして他のサービスと紐づけることが重要になる」と指摘。移動と他のサービスを紐づけることで、「地域単位でどんな人がどんな消費行動をしたのか見える化できるようになり、地域の公共交通の最適なサービスを考えやすくなったり、観光地の移動も分かりやすくなったりする世界が広がる」と予想した。従来の移動関連データは交通モードごとに蓄積され分断されていたほか、地方のバス事業者などデータ化されていない交通モードも存在していたが、MaaSでの移動関連データは、トリップ単位で蓄積すること、あらゆる交通モードをデータ化することが重要になる。

土田氏は今後の日本版MaaSの普及に向けて、「アプリを作れば何かが変わると思っている人もいるかもしれないが、アプリ、さらにMaaSは、地域や観光地での移動手段の利便性を向上させるためのツールに過ぎない。移動だけでなく、移動機会を創出したり、付加価値あるサービスを提供したりするのも要素になる。データの連携・活用を進めるための共通認識が必要で、事業者サイドからも忌憚ない意見を寄せていただきたい。日本は、まさにMaaS元年を迎えている」と訴えた。

基調講演2:MaaSには地域の仕組みづくり、事業者の合意形成が重要 ―観光庁・片山氏

地域の公共交通から観光二次交通の確保、日本版MaaSの概念まで全般的に語った土田氏に対し、インバウンドの観点から観光地へのアクセス手段の現状とあるべき姿に言及したのは観光庁の片山氏である。

片山氏はまず、インバウンドにおける旅行動態の変化について、団体旅行から個人旅行への移行、スマホを最大限活用した旅行スタイルへの変化、都市部から地方部への観光の広がり、リピーター数の増加の4点を挙げた。そして、「訪日外国人が自らの力で行きたいところに行ける環境を作っていく必要があるが、そもそも移動手段がなかったり、大幅に時間を要したり、費用が高額となる手段しかない状況が起きている。受入環境の整備から運行情報のオープンソース化、観光地型MaaSも含め、旅行者目線に立ってアクセス改善を推進しなければならない」と提言した。

観光庁参事官(外客受入担当)の片山敏宏氏

観光型MaaSを整備するポイントは、「事業者は、シームレスな観点が後回しになりがちではないか」と指摘。「特に、インバウンドにおいては目的地に到着できるかが最大のニーズ。外国人視点から逆算し、使いやすい仕組みを作る必要がある」と話した。また、現状、公共交通のみでアクセスできない観光地も、タクシー相乗り、レンタサイクルなど、新しいモビリティの充実を図る必要があるとした。

片山氏も土田氏と同様、「MaaSはテクノロジーというより、地域の仕組みづくりが重要」との考えに立つ。「地域の事業者の合意形成をいかに図れるか。Face To Faceのコミュニケーションもベースになると考えている」と力説した。

事例紹介1:2019年から本格展開、MaaS活用で生活スタイルを変える ―ウィラー・池氏

2019年から日本でのMaaS事業を本格的にスタートしたウィラー。まずは、北海道東部の「ひがし北海道」と、「京都丹後鉄道沿線地域」を対象に開始。既存交通とその空白を埋める「WILLERアプリ」をリリースしており、3年をめどにサービスエリアを順次拡大する。

鉄道の先のワンマイルとして、ひがし北海道では小型モビリティ、カヌー、トレッキング、レストランバスなど、レンタカーがなくても移動ができる体験を提案。京都丹後鉄道沿線では、レンタサイクルやコミュニティバスを事前決済でQRコードをかざすことで乗れる仕組みを2020年から提供し、旅行の回遊性を高める試みを進めていることを紹介した。

ウィラーの池氏は「当社が目指すのは統合型MaaS」と断言。「既存交通とその空白を埋める新しいモビリティを作るとともに、経路検索から一括予約、決済まで一気通貫でできるサービスを、地域の社会課題に向き合いながら構築したい。情報があふれるなか、移動だけでなく、いま何が食べたい、今日は天気がいいからサーフィンに行きたいといった、個人の直感的な感覚に寄り添った生活スタイルをMaaSで実現していきたい」と意気込んだ。

WILLER(ウィラー)MaaS Business Development Dept.マネージャーの池あい子氏

事例紹介2:収益化にはMaaSオペレーターの存在が不可欠 ―近鉄グループ・吉野氏

近鉄グループホールディングスもウィラーと同様、国交省が推進する新モビリティサービス推進事業で選定された先行モデル事業として、三重県の志摩地域で「志摩MaaS」の構築を目指している。

三重県志摩市と連携し、2019年10月からと2020年1月からの2回に分け、近鉄グループのほか、三重交通、志摩マリンレジャー、三重近鉄タクシー、近鉄・都ホテルズ、近鉄レジャーサービス、KNT-CTホールディングス、和栄タクシーらが参加して実証実験を実施している。交通手段の検索・予約・決済、定額制など料金体系に関する実証、着地型旅行商品の造成を対象とするMaaS環境とアプリを構築。また、デマンドバスや相乗りタクシー、デマンド英虞湾マリンタクシーなどの新型輸送サービスも展開する。

MaaSの将来について近鉄グループの吉野氏は、顧客との接点の創出をポイントに挙げる。「旅行会社の店舗が減少するなか、MaaSを活用することで、沿線外、さらにインバウンドを取り込める」と強調。一方で、二次交通課題への対応、着地型旅行商品を造成するだけでは継続できず、「収益化を実現するためには、アセットの整備を重ねるとともに、地域連携を推進するMaaSオペレーターのような存在が重要になる」とし、近鉄版DMCの設立を検討していることなども明らかにした。

近鉄グループホールディングス総合企画部課長の吉野将弘氏

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