「Googleフライト」の急成長と方向転換が意味するのは? OTAやメタサーチなどへの影響を分析してみた【外電】

インターネットの変遷をたどると、巨大テック企業によるサービス無料化のあおりで失速していったビジネスの残骸があちこちに散らばっている。

有名な例はマイクロソフトだ。1996年、同社がブラウザのインターネットエクスプローラーを無償提供すると決断した結果、絶好調で上昇していたネットスケープの株価が急に動きを止めてしまった。その後は周知の通りだ。

グーグルはこのほど、グーグルフライト(Google Flight)経由でOTAや航空会社へ流れた利用分に対する課金を廃止する方針を決めた。マイクロソフトの事例に比べると、些細な出来事だと思うかもしれないが、旅行業界には衝撃が走っている。

この状況を理解するには、まず航空券の流通エコシステムにおけるグーグルフライトの位置付けを知る必要がある。そこから解説しよう。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

巨人はどうやって生まれたのか

グーグルが航空券ビジネスへの野心をはっきりと内外に示したのは、2010年のITAソフトウェア買収だ。これが現在のグーグルフライトの基幹ネットワークになっていった。

以来、ゆっくりだが着々とプロダクトの拡充を進め、検索結果の認知度アップや、グーグルが展開するその他のサービス(Gメール、グーグルアシスタントなど)との連携も少しずつ深めてきた。今では航空券の流通に大きな影響力がある。

グーグルフライトの取扱規模を示す正確なデータはないが、グーグルトレンドのキーワード検索数グラフで、グローバル展開している同業の大手他社と比較すると、ここ数年のトレンドは明白だ。

※青色:グーグル、赤色:カヤック、黄色:エクスペディア、緑色:スカイスキャナー

また、過去12か月間のブランドに対する関心度を地域別に示した以下のチャートを見ると、グーグルフライトは米国マーケットでトップだ。一方、米国以外の西欧各国では、スカイスキャナーがトップに君臨している地域が多い。


さらに、グーグルフライトと米国の主要航空ブランドを比較すると、グーグルフライトの勢いがどんどん伸びていることが分かる。

※青色:グーグルフライト、赤色:デルタ航空、黄色:アメリカン航空、緑色:サウスウエスト航空

ただしグーグルトレンドは、利用者のブランド認知度やプロダクトに対する関心度を測る上で有益な指標だが、実際の利用規模を示すデータではないことに留意いただきたい。

グーグルフライトは、航空券を探しているユーザーの中でも、特に検索上流のトラフィックに対する影響力が大きいので、別の角度からも見てみよう。ウェブ解析ツールのシミラーウェブでは、グーグルフライトからのリファラル分を「グーグル・アド・サービス」(注:グラフではグーグルトラベルアドサービス、googletraveladservices.com)と呼び、同じグーグル系でも区分している(例えばアドワーズやSEO経由は「検索(Search)」、ユーチューブ経由は「ソーシャル(Social)」、グーグル・ディスプレイ・ネットワーク経由は「ディプレイ広告(Display Advertising)」)。

以下のグラフを見ると、グーグルフライトは、欧米系航空会社ウェブサイトにとって、送客数が最大、または二番目に多いリファラル・サイトとなっている。




これとは全く対照的に、主要OTA各社に対するグーグルフライトからのリファラル数はわずかだ。グーグルフライトでは意図的に、検索結果ページからOTA各社を除外してきたからだ。ただしバーチャル・インターラインのキウイ(Kiwi.com)など一部例外はある。

変化の風が吹き始めた

だが最近、グーグルでは、米国以外のマーケットでフライト検索結果のページにOTA各社も掲載するようになった。

今のところ、対象となる航空会社は一部に限られているようだが、例えばスペイン国籍のIPアドレスで検索してみると、航空各社のウェブサイトと並び、かなりの数のOTAが表示された。

ロンドン/ニューヨーク線の検索結果

ロンドン/ベイルート線の検索結果 

この変化がグーグルフライトのシェアにおよぼす影響や、OTA各社への送客規模など、まだ分からないことも多い。だが、グーグルが「航空会社オンリー」としていた従来のフライト比較検索のあり方を見直していることは明らかだ。

方針転換することで、テック界の巨人が真正面から対抗するのは、これまでOTAが支払うリファラル料でビジネスを成長させてきた航空券メタサーチだ。

追いつめられる航空メタサーチ

この10年間でグーグルフライトが台頭するのに伴い、もともと競争が厳しい航空券メタサーチのビジネスは転換を迫られている。

グーグルフライトが航空会社とOTAの両方に対し、リファラルを無償で行うようになれば、航空券売上で成り立っていたメタサーチ各社への打撃は計り知れない。

この分野で世界トップのスカイスキャナーやカヤックは、それぞれトリップ・ドットコム・グループやブッキングホールディングスの一員であり、迅速に対応できるかもしれない。

スカイスキャナーは目下、トランザクションモデルへのビジネス転換を全速力で進めており、実質的にはOTA化しつつある。

カヤックは、ブッキングホールディングスがグループ全体で進める「コネクテッド・トリップ」戦略に沿い、ロイヤルティプログラム「ジーニアス」やレストラン予約プラットフォーム「オープンテーブル」との連携強化に取り組んでいる。

しかし地域特化型の中小メタサーチの場合、競争に耐えうる防御策は乏しく、やがて埋没していくことになるかもしれない。

OTAの価格戦争

一方、当面の間はメリットを享受できるのが米国以外の地域でビジネスを展開しているOTA各社だ。グーグルフライトから、航空券への関心が高い潜在顧客を送ってもらえる上、そのコストは無料だ。新たな火種としては、この顧客の奪い合いが激化し、航空券の値下げ合戦が始まること。運賃の統一性を保ちたい航空会社にとっては避けたい事態だ。

グーグルフライトからの顧客を実質ゼロ円で獲得できるのなら、OTA各社は、検索結果の上位を確保し、自社サイトへユーザーを誘導しようと、値下げの誘惑にかられる。航空券以外の商品も購入してもらい、GDSのインセンティブも獲得できるなら(多少、値下げしても)収益はキープできると考えるかもしれない。

無料で送客してくれるメタサーチが登場したことで、航空会社側は、価格の整合性を維持するのに苦労するだろう。

グーグルが描く大きな未来図

グーグルの決断について、その根拠を理解するには、複雑に絡まった糸を解きほぐす必要がある。

いま、グーグルは世界各国の独占禁止法当局から、厳しい審査を受けている。国によって差はあるものの、違法な行為が認められるなら、様々な罰金にとどまらず、組織を分社化して解体するべきとの意見さえある。

今年3月にはブリュッセルで、EU当局から独占禁止法違反であり、罰金対象との疑念が出ている3つのショッピング関連の案件について、グーグルの控訴がスタートする。

こうした状況下、航空券に関するリファラルの無料化を決めたことは、偶然ではないかもしれない。同時に、グーグルフライトのモジュール上部に、様々な関連リンクを小さくカルーセル表示(下の画像参照)するなど、ユーザー向けの見栄えをよくする手直しも試している。

フランスのIPでアクセスした結果

当局から厳しい判断が下されかねない案件が、もう一つある。計40のEUおよび米国企業・取引団体が、欧州委員会で競争政策を担当するマルグレーテ・ベステアー長官に、グーグルを訴えたのだ。申し立てによると、グーグルは自社のバケーションレンタル商品を「視覚的により強くアピールできるワンボックス(検索結果の上部に表示される囲み)」内に掲載。これにより、競合他社の商品よりも目立ち、クリックしてもらいやすくなるよう優遇しているという。

当局によるグーグル規制の嵐が吹き荒れるなか、「フライト比較検索でも、通常の検索と同じように、無料でユーザーを紹介している」と反論することが狙いなら、これはパラダイムのシフトだ。グーグルフライト検索ページで、競合他社の広告より上に、検索結果の表示ボックスを配置したとしても、その対価が無料であり、オーガニック検索の結果であるなら、競争の阻害にはならない。

グーグルがフライト検索による収入をあきらめた理由は?

売上の内訳は不明だが、グーグルフライトの売上は、同社にとって、そもそも大洋の中の一滴の水に過ぎないレベルだったと推測される。多くの航空会社は、グーグルフライト発足当初から、無償で送客してくれるなら価値ありと考えていた。OTAのクリック比率も限りなく小さかった。

今回のグーグルの決定は、小さな変化に過ぎないとも言える。ただしテック界の巨大企業も、独占禁止法当局への説明では、苦労することになるかもしれない。航空券の比較は無償化したのに、ホテルやバケーションレンタルの比較検索は、なぜ有料のままなのか? という疑問が残る。

結論

グーグルが航空券を対象に、リファラルの無料化に踏み切ったことは、これから長期に渡り、色々な分野に影響を与えることになるだろう。

独占禁止法を巡る各国当局との攻防にはプラスとなるのか、グーグルにおける航空会社の直販ウェブサイトとOTAのパワーバランスはどう傾くのか、既存の航空券メタサーチは生き残れるのか、など今後の展開が注目される。

だがそれだけではない。今回の決定がパンドラの箱を開けることになり、グーグルにとって、より大きな問題に発展する可能性もある。同社売上でフライトよりずっと大きなシェアを占めるグーグル・ホテル・アドは、今や世界のホテル・メタサーチ・ビジネスにおいて67%のシェアを誇るが、ここにも影響が及ぶかもしれない。

ここ数十年を振り返れば分かる通り、巨大テック企業が動けば、良くも悪くも、状況は瞬時に激変する。

グーグルフライトが引き金となり、大きな乱気流が発生するかもしれない。シートベルトをしっかり締めて、衝撃に備えよう。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:How Google Flights is shaking up the travel Industry

著者:マリオ・ガヴィラ氏(liligo.com)

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