民泊の世界大手エアビー社の日本代表に、前同期比7割増の理由を聞いてきた、コロナ禍で生まれた新ニーズと関係人口の創出

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エアービーアンドビー(Airbnb)のブライアン・チェスキーCEOは今年5月、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で旅行需要が急激に落ち込んでいることから、「ホームシェアリングと直接関係のない事業を縮小する」と発表した。一方で、密を避ける宿泊や働き方の変容で、一棟貸し民泊の世界的に人気が高まっているという。「旅行需要はいずれ回復するが、以前とは異なるものになるだろう」とチェスキーCEO。日本市場では、民泊を取り組く環境はどのように変化していくのか、あるいは変化しないのか。Airbnb Japan代表取締役の田邉泰之氏に聞いた。

直近の需要である「近場の旅」に事業をシフト

チェスキーCEOは「事業戦略を絞ることで、根本的な変化を進めていく」と話し、ラグジュアリー宿泊施設などへの投資を縮小していく考えを示した。田邉氏は、このCEOの発言について「5年後、10年後のプランを進めるのではなく、直近の需要を見ながら、柔軟に戦略を組み替える。何かをやめたわけではなく、フォーカスするものを変えるという意味だ」と説明する。Airbnbは、いわゆる民泊に加えて、最近ではホテル予約にも積極的に投資してきたが、「そのホテル事業から撤退するというわけではない」(田邉氏)。

直近の需要として、力を入れているのが国内での「近場の旅」だ。Airbnbは世界規模で「Go Near-身近にある、特別な旅」キャンペーンを展開。日本でも6月30日からスタートし、国内旅行市場の開拓に本腰を入れ始めた。

星野リゾート代表の星野佳路氏は、自宅から近い地元での観光、「マイクロツーリズム」から旅行市場が回復していくと予想。星野リゾートが運営する施設でもその需要が顕在化しているという(トラベルボイス5月18日掲載)。6月19日から都道府県をまたぐ移動自粛が緩和されたが、政府の旅行需要喚起策「GoToトラベル」も感染収束も見通せないなか是非が問われ、全国レベルでの観光再開には時間がかかりそうだ。

ただ、民泊では少し事情が異なる。Airbnbでは、近場の需要は観光だけではないと見ている。「コロナ禍で働き方が変わっていく傾向にある。民泊は会社と自宅との間を埋める存在になりうる」と田邉氏。オフィスに行く回数を減らし、会社の近くの一軒家を借りて、そこから通う。あるいは、オンライン会議では補えないクリエイティブなミーティングを一棟貸し民泊物件で行う。

テレワーク、ワーケーション、ブレジャー、ステイケーション(自宅近くでの滞在)など、新型コロナウイルスによって加速する旅行ライフスタイルの変容は、民泊の可能性を広げている。

Zoomインタビューに答える田邉氏日本人ユーザーの増加に課題と潜在性

Airbnb Japanとしては、これまで急激に拡大するインバウンド市場に軸足を置いてきた。そのため、「日本が海外での成長のボトルネックになってはならいない」考えから、訪日外国人旅行者の受け皿として、日本での物件を増やすことに注力してきた。そのため、実際のところ、海外に比べると日本人消費者の間でのAirbnbの認知度は低く、日本人ユーザーは伸び悩んできた。

しかし、コロナ禍でその傾向にも変化が表れ始めている。田邉氏によると、6月7日~13日の期間の日本国内の予約数は前年同期比で78%増加。コロナ禍以前よりも予約数は伸びており、特に夏休み期間の予約が前月比で303%の伸びを示しているという。ユーザー属性では20代と30代が増えており、ミレニアム世代が約半数を占めていると明かす。

「こういう時期だからこそ、日本人ユーザーを増やすチャンス。人が動くことによって、周辺ビジネスに経済効果が生まれる。日本人が地域を旅をすることに期待している」と田邉氏は話す。Airbnb本社サイドでも、日本の国内旅行市場規模はインバウンド市場よりも遥かに大きいため、5年後、10年後の潜在性は高いと見ており、「引き続き重要マーケットのひとつとして位置づけている」という。

地域コミュニティーとともに成長、関係人口の創出も

「日本のユーザーに国内のいろいろ場所に旅行してもらえれば、将来的に地方定住にもつながるのではないか」。田邉氏は、Airbnbが国内旅行を拡大させることで、関係人口創出の機会も増えるとの考えも示す。Airbnbは、地方自治体とのパートナーシップを重視しているが、その話し合いの中で話題として多く上がるのが「観光を超えた移住・定住」だという。

ライフスタイルの組み換えが起こるなかでは、新しいものを取り入れていく必要がある。「今はブランドスイッチが起こるタイミング」と田邉氏。Airbnbとしては、その組み換えの選択肢に入れてもらうための手を打っていく。「最初のファネルとして、イベントホームステイなどから関係づくりの手伝いをしていきたい」考えだ。

そのためには、ユーザーだけでなく、地域の理解も必要になってくる。産業横断型組織であるAirbnb Partnersとともにソリューションを創出して、Airbnbのコミュニティーを大きくしていくと同時に、そのコミュニティーが地元を巻き込んで一緒に成長していく。田邉氏は「日本の方向性が見えてきた。成果は出始めていると思う」と自信を示す。

自分の価値観にあった新しいライフスタイルを考える時、時間とお金の使い方には必ず変化が出くる。そのなかで、Airbnbをはじめとするシェアリングエコノミーサービスは新しい進化を遂げるのだろうか。「Airbnbの物件でも、これまで見られなかった使われ方が出てくるかもしれない」。危機の中だからこそ、田邉氏の期待も大きい。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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