世界の余剰貯蓄の行き先は? 消費者が求めるニューノーマル、旅行予約の変化など、復興への見通しを考察

世界中で新型コロナウィルスのワクチン接種が進み、徐々に旅行の再開が進むなか、Mastercard(マスターカード)は、旅行業界の復興への見通しを考察するセミナー「Travel Check-In」を開催した。同社チーフエコノミストのデビッド・マン氏が世界経済からアジアの旅行業界の復活をマクロ的視点で解説したほか、パネルディスカッションでは回復に向けたカギや消費者トレンドの変化について議論が行われた。

世界の旅行市場復活のカギは中国

世界の旅行業界はコロナ危機によって大きな傷を負った。デイビッド・マン氏は、2020年の世界のGDPが1940年代の水準に戻った状況を「世界大恐慌のときよりもインパクトは大きかった」と説明した。

一方で、パンデミックは急速に拡大したが、回復期のスピードは早い。その要因は、各国政府による積極的な財政出動と景気刺激策にあるとし、その意味では今回の状況は「不均衡な景気後退」と位置づけた。

パンデミック発生から約1年半以上が過ぎ、現在のところアジア太平洋地域が経済の回復をリードしている。2021年第1四半期の個人消費でプラス成長となっているのは感染を低く抑えることに成功したアジア太平洋の各国だけで、マン氏は「特に貯蓄の余剰がある中国、オーストラリア、ニュージーランドで顕著」と説明した。

Mastercard チーフエコノミストのデビッド・マン氏

ブルームバーグの報告によると、世界では3兆ドル(約342兆円)近い貯蓄が行われていることから、「昨年できなかったことをしたい、という大きな潜在需要が溜まっている状態」と分析。その上位にランクされるのが旅行だと指摘した。

たとえば、昨年、人口約6億5500万人のアセアンで旅行を控えていた人口は約1億人。この人たちが旅行を再開し、1人あたり数千ドルを使うと仮定すると、その消費額は2000億ドル(約22.8兆円)以上になる。

旅行市場の回復は、国内から始まり、近隣域内、そして長距離と拡大していくと見られる。この市場の動向について、マン氏は、「今後、どのような種類の旅行ができるかではなく、旅行者の出発国がどこになるかを見る必要がある」と発言。その文脈において、中国がカギを握るとの考えを示した。

2018年の中国の国際観光収支を見ると、その支出額は2000億ドル(約22.8兆円)以上。2019年から2020年にかけて、この額が使われなかったことから「今後大きな反動が期待される」と予想した。

マン氏は、インバウンド旅行の回復には数年単位のプロセスが必要としながらも、「消費者は過去1年半で使えなかったお金の使い道を探している。各地でトラベルバブルが実施されるたびに、旅行予約が急増した。これは旅行の潜在需要が大きいということだ。時間はかかるが、希望を持てる理由は十分にある」と強調した。

中国は最大の旅行者供給市場コロナ禍で顕在化した予約の変化とは

パネルディスカッションには、アコー東南アジア・日本・韓国 デジタルマーケティング・ロイヤリティ&ゲストエクスペリエンス担当のエミリー・クートン氏とアゴダ最高財務責任者のダレン・マカレム氏が登壇し、マスターカードのアジア太平洋リテール&コマース担当プリンシパルのアンドレアス・スパイヒャー氏がモデレーターとして議論を展開した。

(上)モデレーターのスパイヒャー氏、(下左から)元アコー社員のクートン氏、アゴダのマカレム氏

アコーのクートン氏は、コロナ禍でのアコーホテルの変化について、2つの傾向を指摘。ひとつは、各市場で旅行需要の国内への移行が進んでいること。もうひとつは、移動制限が頻繁に変わることから、予約の柔軟性を求めるニーズが高まり、予約のスパンも短くなっていると説明した。

アゴダのマカレム氏も、自宅から3〜4時間の目的地での予約が増え、大都市ではステイケーションの需要も高まったと紹介した。また、宿泊施設タイプについては、高級ホテルやブティックホテル、バケーションレンタルが好調と明かし、「以前にはなかった新しいレジャーが発見されているところが興味深い。たとえば、タイではサーフィンの人気が爆発的に高まっている」とコロナ禍で顕在化したトレンドに触れた。

さらに、マカレム氏は予約のタイミングについて、間際予約と将来を見据えた長期予約に二極化していると指摘。長期予約については、「ワクチン接種が進むなか、将来の旅行再開への期待だろう」との考えを示した。

旅行者がホテルに求めるものとは

マスターカードの意識調査(Mastercard Covid Impact Research Dec 2020)によると、旅先選びで安全性を強化しているデスティネーションを選ぶとの回答は79%、高い衛生対策を取っている宿泊施設を選ぶとの回答は85%。旅行再開にあたっては改めて感染対策が重視される傾向が浮き彫りとなった。

アコーは世界各国でホテルを展開しているが、クートン氏は「その国の衛生基準を遵守することを重視している」と話したうえで、同社が新たに感染対策として導入した「ALLSAFE認証ラベル」や、保険会社アクサとともにオンライン医療ソリューションを提供していることを紹介した。

一方、アゴダのマカレム氏は、消費者はOTAに対して、宿泊施設の感染対策の情報を求めていると指摘。さらに、柔軟なキャンセルポリシーに加えて、支払いの自由度へのニーズが高まっていることから、アゴダでは各国で分割払い商品を導入したことに触れた。「我々がしなければいけないのは、顧客に対して『旅行に行っても大丈夫』と安心感を与えること」としたうえで、「コロナ禍で出てきたサービスは今後ニューノーマルとして定着していくだろう」との見解を示した。

では、コロナ後には旅行者がホテルに求めるものは変わるのだろうか。モデレーターの問いに対して、アコーのクートン氏は、注目すべき分野として、地元のコミュニティとつながるような体験を挙げた。アコーでもさまざまなプロダクトを開発しており、「体験とは、宿泊や飲食にとどまらない」との考えだ。

また、以前のように容易に移動できる状況ではないため、長期滞在が増加するとの予測から、サービスアパートメント、バケーションレンタル、ヴィラなど、長期滞在の設備が整った宿泊施設のニーズが高まっていると説明。アコーは、コロナ前に「Apartment and Villas at Accor.com」を立ち上げたが、クートン氏は「数ヶ月後に、このサイトの予約がこれほど伸びるとは思いもしなかった」と驚きを隠さなかった。

アゴダのマカレム氏は、バケーションレンタルなどが求められる理由として、感染対策として家族単位で宿泊できること、リモートワークに適していること、を挙げた。一方で、「これが長期的なトレンドになるかどうかはまだ分からない」と慎重な見方を示した。

コロナ禍で顧客とのエンゲージメントがさらに重要に

コロナ後に、顧客のエンゲージメントを強化していくうえで、ロイヤルティ・プログラムの重要性がさらに増すとの指摘がある。アコーのクートン氏は「コロナ禍は、図らずもロイヤルティ・プログラムの価値を実証する機会になった」と明かす。同社では、無料のライフスタイル型プログラム「アコーリミットレス」に加えて、サブスクリプション型の「アコープラス」も提供。「特にサブスク会員はロックダウン期間中でも積極的に動いていた」という。

同社では、会員とのエンゲージメントを強めていくために、ポイントの有効期限を延長したほか、さまざまなパートナーとのコラボで会員限定のオンラインサービスを提供している。その施策について、クートン氏は「旅行が制限されているなかでも、会員であることの意義を感じてもらうため」と説明した。

アゴダでも会員サービスを強化。ポイントではなく、キャッシュバックを導入したほか、割引率を高めるVIPクラスを設けた。マカレム氏は「透明性のあるサービスが大切。ロイヤルティと愛着を持ってもらえるものになっている」と自信を示した。

将来への希望とともに、再開に向けて課題も

3兆ドルの余剰貯蓄のうち、2兆ドル(約228兆円)が旅行に消費されるとの試算もある。マスターカードの調査によると、将来の旅行のために貯蓄している人の割合は67%にものぼり、新たな趣味を増やしたいとの回答は82%にもなった。

将来の旅行再開に対する期待は非常に高い

しかし、モデレーターのスパイヒャー氏は、「需要が戻っても、まだ多くの航空会社がネットワークを縮小したままだ。供給がそれに対応するのは容易ではない」と課題を指摘した。

また、アゴダのマカレム氏は、現地の観光産業が疲弊していることを課題として挙げ、観光産業から離れた労働力も多いため、「再始動するにはしばらく時間がかかるのではないか」との見方。また、ツアーオペレーターなどの取り合いなどから、商品価格が高騰する恐れにも言及。それでも、「新しい体験をするために、割高な料金を払うことをいとわない層はいる」と話し、コロナ後に向けたマーケティングの重要性を指摘した。

※ドル円換算は1ドル114円でトラベルボイス編集部が算出

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