ハワイが推進する観光地経営(マネジメント)とは? 現状とその効果、不可欠な地域コミュニティへの支援を観光局の責任者に聞いた

ハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)は、2021年から2023年までの3年間、ハワイ州の観光産業再生に向けて再生型観光を構築していく「デスティネーション・マネジメント・アクション・プラン(DMAP)」を進めている。その取り組みのカギの一つとして位置付けているのが、地域コミュニティとのコミュニケーションだ。デスティネーション・マネジメントを重視するDMAPに進捗状況について、HTAブランド統括責任者のカラニ・カアナアナ氏に聞いてみた。

「観光マネジメントはよくなっている」と感じる住民増加

今年、DMAPは第3フェーズに入った。カアナアナ氏は「地元コミュニティにHATのコミットメントが伝わってきた。パートナー、各島、州、連邦政府など、さまざまな機関と連携してながら進めているが、効果は出てきている」と自信を示す。

ハワイ州産業経済開発観光局(DBEDT)が公表した「2022年秋のハワイ住民意識調査」によると、「観光による利益と生活の質のバランスを取るための努力がさらに必要」と感じている住民は2022年春の調査から若干増えて49%になったものの、「自分の島の観光マネジメントはよくなっている」と感じている住民は41%から44%に上昇した。

すでにハワイ州を訪れる旅行者はコロナ前の97%まで回復している中で、カアナアナ氏は「地域コミュニティの意識が改善していることはいい方向」と評価。HTAの予算だけでなく、政府機関のリソースを投下し、一丸となって取り組みを進めていることが重要な点と強調した。

地域コミュニティへの支援を積極展開

HTAでは、デスティネーション・マネジメントとして、DMAPのアクションプランに即して、地域コミュニティの支援を継続している。DMAPの4つの柱のうち、文化継承、自然保全、地域コミュニティとの関係構築について、毎年、地域や関連NPOからの支援申請を審査し、支援団体を選定。その選定基準には、活動の継続性、次世代のトレーニング、教育プログラムの持続性、自然保全であれば、保護だけでなく修復や再生の取り組みも含まれるという。

また、地域コミュニティとの関係構築では、ハワイの文化に根ざしたフェスティバルやイベントも支援する。この中には「ホノルル・フェスティバル」のような大規模イベントから、小規模な地域イベントまでも含まれる。

カアナアナ氏によると、2022年の支援予算は約350万ドル(約4.7億円)。その限られた予算の中では、75以上の申請から30ほどに絞って選定せざるを得ず、全て支援するとなれば、700万ドル(約9.5億円)ほどの規模になったという。「これも、地域コミュニティによるHTAのコミットメントに対する理解の表れ」と話す。

HTAでは、地域コミュニティ向けにDMAPの進捗状況や支援する団体の取り組み事例などを紹介するウェブサイト「Holomua」を今年4月に立ち上げている。

カアナアナ氏は日本のマラマハワイへの理解に感謝を示す。

不可欠な地域コミュニティのコミュニケーション

カアナアナ氏は、ハワイ州における観光産業の重要性を改めて訴える。2022年、旅行者の現地消費額は約192億ドル(約2.6兆円)、ホテル税からの税収約8億3000万ドルなど(約1121億円)、旅行者からの税収は合計すると年間約22億ドル(約2970億円)にものぼる。これはハワイ州の教育関連予算とほぼ同じ規模だという。

また、観光産業は州内でおよそ20万人の雇用を創出し、労働人口の約20%が観光事業に関わっている。

カアナアナ氏は「ツーリズムは、地域コミュニティに意味のある貢献をしている。まだ、それを住民に十分には説明しきれていない」と話し、デスティネーション・マネジメントに不可欠なことは「地域コミュニティとのコミュニケーション」と強調した。

デスティネーション・マネジメントの一方で、HTAおよびハワイ州観光局(HTJ)は、マーケティングプロモーションとして「マラマ・ハワイ」を展開している。このプロモーションには、日本の旅行業界も積極的な投資をしている。カアナアナ氏は「マラマ(思いやり)の考え方は、他のマーケット以上に日本市場で受け入れられている」と評価。そのうえで、「価値観を共有するアプローチはビジネス的な側面のほかにプラスアルファがある」と話す。

そのプラスアルファとは日本とハワイの絆の回復。HTAとHTJは今夏、「マラマ・ハワイ」のもと、新たな広告キャンペーンを開始する。「コロナで引き離された人と人の絆を回復させることで、地球にも、ハワイにも優しい旅を訴求していく。旅は世界を変えることができる」とカアナアナ氏。HTAは、DMOとして、観光に対する旅行者の意識も地域コミュニティの意識も次の段階へ向上させ、お互いの満足度をさらに高めていく。

※ドル円換算は1ドル135円でトラベルボイス編集部が算出

トラベルジャーナリスト 山田友樹

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…