DMOがデータに基づく意思決定をするために必要なことは? 米クリーブランド観光局の事例を取材した

日本観光振興協会が主催した「DMO観光地域づくりセミナー」で、米オハイオ州のデスティネーション・クリーブランド(クリーブランド観光局)IT部門統括ディレクターのジム・ギャノティス氏が、同観光局のデータマネージメントの取り組みについて説明した。データドリブンな観光局になるべく試行錯誤しながら、データ戦略を立てた道筋やパートナーへの共有の手法などの考え方は、多くの観光関係者の参考になるはずだ。その中身をレポートする。

データドリブンに向けては道半ば

クリーブランド観光局の事業規模は、年間予算が郡宿泊税とパートナーからの投資を財源に約2000万ドル(約290億円)。3つの事業部があり、スタッフは計65人。パートナーは700社・団体だという。

同観光局では、CRMツールとして「Simpleview」を15年近く活用しており、パートナーデータ、消費者データ、コンベンションデータはこのツールに蓄積。このほか、「eventforce」「mint+」「Google Maps」などさまざまなソフトウェアベンダーを活用している。ギャノティス氏は、「お互いのデータの接続を目指しているが、まだ道のりは長い」と明かす。

同観光局は2023年に、データ調査に関する組織内調査を実施。その結果、データの情報ライフサイクル管理に精通していない者が多く、データに投資し、それを管理するビジネス上の意義を理解していない者もいたことがわかった。また、大部分のスタッフは、データがさまざまな分析リポートにどのように反映しているのか知らなかった。

この結果から、データドリブンな組織に向けたロードマップを策定。まず、システムを分析して、どのようなデータが入っているのか、誰がそのデータを管理するのかを確認した。現在は、技術・データ・人・手続きがデータガバナンスによって最適化される「データ・エネイブルド(Data Enabled)」段階に向かっているという。最終的にはデータを通じて、パートナーに対してさまざまな支援を行い、「データは資産」と位置付けられる「データドリブン(Data Driven)」の段階を目指す。

クリーブランド観光局IT部門統括ディレクターのジム・ギャノティス氏

将来的データ活用はAIが手助け

そのうえで、データ戦略として「戦略ダッシュボード」を制作。まずデータのガバナンスから始めた。また、データ戦略の立案、データの質の管理などを優先した。ギャノティス氏は「このダッシュボードで重要なのは、ビジネスのユースケースを明確にして、ビジネス支援のため何が必要なのかを見つけること」と話す。

具体的に活用するデータは、パートナーデータ、訪問者データ、コンベンションデータ、生活/労働データの4つ。パートナーデータ、訪問者データ、コンベンションデータは、CRMのSimpleviewで保存・管理。生活/労働データは別のCRMのHubSpotで保存・管理され、格納される情報は、地域の人材採用などに活用される。

訪問データについて、現在は10万人ほどデータを集積。居住地、郵便番号、年齢、性別などのシンプルな属性情報だが、ギャノティス氏は「今後は、旅行者の目的地での行動データ、消費データ、追跡データなども増やしていきたい」と話す。

ギャノティス氏は、データ分析の難しさについて、「データアナリストは、すべてのデータを共有したがるが、何がステークホルダーにとって重要なのかを理解することが大事」と強調。日本ではデータ提供に否定的な事業者も多いが、「なぜ、それが必要なのかを説いていくほかにない」と続けた。

また、データ収集や調査については、DMOの規模によって限界があることから、「外部のリソースに依存することが必要になる」との考えを示した。

一方で、今後多くのデータが蓄積されていくと、それを人間が扱うことは難しくなるとの考えから、「将来的には、データ活用はAIが手助けしてくれるようになるのではないか」との見通しも示した。

パートナーとの関係強化を重視

このほか、同観光局では、さまざまな調査パートナーとも協業。旅行者の関心・興味や予算、米国旅行業界の見通しなどの調査結果を取得。ギャノティス氏によると、「広告やマーケティングの予算の配分などで、この調査を活用している」という。

同観光局では、パートナーとの関係強化として、パートナー向けに実施した活動内容を報告しているほか、観光に関わる事業者向けに、さまざまなテーマに関する知見を提供する場も設けている。また、ホテルパートナーに向けては、四半期ごとにコンベンション・セールスとサービスに関連する業務の評価指標を発表。さらに、年次総会を開催し関係強化を進めている。

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