日本発GDS(Global Distribution System)として航空会社と旅行会社をつないできたインフィニトラベルインフォーメーション。2026年10月には、次世代流通規格NDC(New Distribution Capability)に対応した新たなGDSモデル「INFINI NDC Connect」をリリースし、新たなフェーズに入る。和製NDCの登場で、日本の航空流通はどのように進化していくのか。同社社長の高橋誠一氏に聞いてみた。
Modern Airline Retailingという考え方
国際航空運送協会(IATA)が2010年代前半から推進しているNDCは、従来の航空券予約システム(GDSなど)で使われているテキスト形式(EDIFACT)から、画像や座席図といったXMLベースのグラフィック情報のやり取りを可能にする新しい通信規格。航空会社が自社サイトで展開するリッチコンテンツやパーソナライズされたプランを旅行会社経由でも提供することができるようになるものだ。世界の一部大手航空会社が先駆的な取り組みを進めているほか、様々なNDCアグリゲーターも登場している。
近年の航空会社の料金は複雑だ。運賃のほかに、座席、預け入れ手荷物、機内食、Wi-Fiプランなど様々なアンシラリー(付帯サービス)を細かく設定している。また、空席状況や需要に応じて運賃を弾力的に変更するダイナミック・プライシングも当たり前になってきた。IATAでは、航空会社の新たな流通形態を、Offer(航空会社が顧客に最適化された運賃・サービスの組み合わせを提示)とOrder(顧客が選んだ内容を「ひとつの注文」として一元的に管理)から成る「Modern Airline Retailing」と提唱。従来の「決まった運賃を売る」形態から、デパートやECサイトのように最適なサービスを組み合わせて提案する「小売業」の視点を取り入れている。
高橋氏は、その背景について「(航空会社の)顧客との関わり方を再構築する動き」と見る。そのうえで、「これまでのマイレージを中心とした顧客との関わり方から、よりパーソナルな旅行体験を提案する関係への発展を意図している」との認識を示した。
航空会社としては、自社サイトと同じ品質の商品やサービスを旅行会社経由で顧客に提供できれば、自社の価値を維持・向上し、顧客との関係性を再構築できる可能性が高まる。
一方、旅行会社としても、航空会社の公式サイトと同じ品質のサービスを提供し、旅行会社が持つ独自の顧客情報を加味すれば、よりパーソナライズされた提案をおこなうことができる。高橋氏は「Modern Airline Retailingの世界では、旅行会社も顧客との新しい関わり方を構築していく機会という認識を持つべきだろう」と話す。
「NDCが従来のEDIFACTと変わらない品質を確保できるかどうかがカギ」と高橋社長
世界と日本のNDCの現在地
IATAがNDCの構想を発表して以降、欧州ではブリティッシュ・エアウェイズ、エールフランス-KLM、ルフトハンザ航空、米国ではユナイテッド航空、アジアではシンガポール航空などが積極的に動いている。そこから日本は遅れているのが現状だ。
高橋氏は、その理由について「日本は顧客の期待レベルが高い。完璧なサービスが最初から提供できていないと導入でつまずくリスクがある市場」と指摘。一方で、「いったんそこを乗り越えるとスピードが速い。最初は開きがあるが、ある時期に世界に急速に追いつくという展開になるのではないか」と見ている。
IATAは2030年までにModern Airline Retailingの実現に向けたロードマップを策定している。しかし、それを達成できるのは先行する一部の航空会社とも言われている。高橋氏は「少し遅れた航空会社が先頭集団に追いついてくると思うが、5年後に全体がどうなっているのかはまだ見えない」と明かす。
現在、NDC普及に向けた課題のひとつとして、異なる航空会社をまたぐ乗り継ぎ便の予約(インターライン)での対応がある。IATAは、この課題を解決するための新たなモデル(SRSIA)の検討を進めているものの、実装にはまだ時間がかかると見られている。
また、NDC普及を目指して、「NDC専用運賃」などで差別化を図る動きも出ているが、高橋氏は「NDCの価値は単なる安い運賃ではなく、顧客情報の解像度を上げるところにある」と指摘する。例えば、ベジタリアン、好みの座席、預け入れ荷物の特徴など細かな属性情報と、航空会社が提供する付帯サービスをリアルタイムでマッチングすることで、より顧客の体験価値を高めていくことだ。高橋氏は「現在、NDCの普及自体が目的化しているところがあるが、今後は本来的な真価の訴求が強まってくるだろう」と期待する。
「INFINI NDC Connect」で目指すもの
そのような環境下、インフィニは新たなGDSモデル「INFINI NDC Connect」を発表。2026年10月のリリースを目指している。高橋氏は「先行他社の動向を見ながら、和製GDSとして、日本市場に合った対応をどのように構築していくのかを検討する時間的余裕があった」と話す。日本市場での展開の遅れが、逆に日本市場に適応する仕組みの開発には有利に働いていることを強調した。
EDIFACTとNDC、NDCの複数のバージョン、航空会社のブランデッドフェア(付帯サービスの有無を組み合わせた、航空会社独自の多層的な運賃設定)のルールなど、多くの情報が混在しているなかで、「GDSには、まとめ機能としてのチャンスがある」との認識だ。
そのうえで、「INFINI NDC Connect」では、「従来のEDIFACTと同じプラットフォーム上で、ストレスなくNDCを扱える仕組みを提供する。それにより、旅行会社に業務負荷をかけず、航空会社に対してはNDCの普及につながるようにしていく」と説明する。
また、NDCの翻訳や見積もり機能へのニーズへの対応でも、和製GDSとしての存在価値を強調した。
日本でのNDC流通は全体の数パーセントに留まっており、大部分が依然として従来のEDIFACTでの作業。旅行会社にとってNDCは通信インフラの大きな変革になるが、一気に従来の流通から変わるわけではない。日本の旅行会社からは、その変化のプロセスを35年にわたって日本の旅行会社との関係を構築してきたインフィニが手掛けることに「安心感がある」との声も聞かれるという。
一方で、高橋氏はNDCが従来のEDIFACTと変わらない品質を確保できるかどうかが課題のひとつとの認識を示した。
NDCは、海外旅行の復活とともに
高橋氏は「EDIFACTも、NDCも、航空券流通は旅行の構成要素の一つにしか過ぎない。流通がマーケットの先にあるわけではない」と話す。そのうえで、「ビジネスであれ、レジャーであれ、教育旅行であれ、旅の安心と感動が大切だろう。航空会社も旅行会社も新たな顧客価値を作り出していくことが重要なのではないか」と続けた。
現在、日本人のパスポート取得率は18%前後に留まっている。一方で、高橋氏は「海外旅行には82%のポテンシャルがあるということ」と見る。そのうえで、さまざまな旅の計画を提案してくるAIをはじめとするデジタル化は、旅行の間口を広げる存在と位置付け、「それによって海外旅行需要が拡大し、世界に活路を求めていく日本人のDNAがいずれまた動き出すのではないか」と見通した。
海外旅行需要が拡大すれば、それに合わせて、新しいプレイヤーも登場し、市場も活性化・多様化していく。そのなかで、高橋氏は「NDCなどの航空流通の変革がマーケットの拡大を促していくことに期待している」と付け加えた。
最後に高橋氏は、将来の交通流通の姿にも言及。「10年後という時間軸で見ると、航空だけでなく、他の交通も含めて、旅の手配や旅の管理の仕方が日本を含めて世界で標準化され、さらに進化しているのではないか」と先を見据えた。
聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫
記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹



