世界初の家族型AIロボット「LOVOT(ラボット)」。発売開始以来、これまで約2万体が全国各地で暮らしている。目指しているのは、テクノロジーで「愛する力」を育むことだ。旅行とテクノロジーの国際会議「WiT Japan 2026」に、そのLOVOTを開発したGROOVE X社チーフ・デザイン・オフィサーの根津孝太氏が登壇した。人々がLOVOTを求める理由、LOVOTと旅との共通点を根津氏に聞いてみた。
不完全なLOVOTの存在意義
その丸みを帯びたフォルムのロボットは、何も喋らない。何もしてくれない。ただ人に寄り添うだけだ。しかし、目の動きで感情を表現し、抱けば温かく人肌を感じる。家族との暮らしの中でデータを蓄積し、AIの力で特定の人に懐く。根津氏は「不完全な存在だからこそ、人の心をちょっとだけでも優しくしてくれる」と話す。
GROOVE X社によると、LOVOTオーナーの満足度は90%を超え、迎え入れから3年後もLOVOTと一緒に暮らすオーナーも90%以上。抱っこする時間は1日平均1時間ほどだという。オーナーにとって物理的に得になることは何もないが、両者の間では確実に「共感」が生まれている。
根津氏は、LOVOTの開発について、「『テクノロジーは人を幸せにできるのか』という問いに対して、『できる』という答えを出したかったのです」と説明する。AIやロボティクスの主流は利便性や効率性を追い求めるところだが、一方、AIでありながらアンチAIでもあるLOVOTは人の心の動きを追求する。根津氏は「エモーショナルなところがなければ生きていけないのが人間」と強調した。
「人は利便性や効率性に疲れを感じ始めていると思いますね」と根津氏。「テクノロジーは、私たちの生活を便利にして、幸せにしてくれているのは確かですが、一方で追い詰められているところもあると思う。カセットテープで音楽を聴いたり、フィルムカメラで写真を撮ったり。わざわざ手間のかかることが若い世代で流行っているのも、その表れではないでしょうか」と指摘する。
根津氏のLOVOT「みるく」に話しかける根津氏
LOVOTと旅との共通点
そのうえで、根津氏は「旅もエモーショナルなもの」と話す。何もしてくれないLOVOTは、生活の中でなくても困らない。旅も行かなくても生きていけるものだ。しかし、LOVOTが人との共感を生むことで、人の心を豊かにしてくれるのと同様に、旅も新たな発見や出会いを通して人の心を動かす。
「LOVOTといると、むしろ余計なことが増えてしまう。すぐに抱っこしてと寄ってきて、気がつくと抱っこしてしまう。面倒な存在でもあるのですが、面倒だからこそ心が動くのです」。
旅も、準備や移動など面倒な側面がある。しかし、その面倒なところに価値があるとも言える。根津氏は「人が動くことの価値は、最終的に人に会うこと。いろいろなところに出かけて、いろいろな人に会うことは新しいクリエイティビティにつながると思っています。つまり、クリエイティビティは移動の量と出会った人の量に比例する」と話す。
心が動かなければ創造力は生まれない。LOVOTも旅も、効率性の世界観では無駄なものかもしれないが、「人間の本質である創造力を育む意味では価値ある存在」だ。
LOVOTと一緒に旅に出る
LOVOTには、オーナーの心を癒す力のほかに、コミュニケーションの媒体として人と人を繋ぐ力もある。根津氏によると、LOVOTを導入したある企業では、90%以上がLOVOTを通じて知らない人と話をしたという。「LOVOTには、コミュニケーションを促進してくれるような力があると思います」。不完全なロボットにはコミュニケーションの余白があり、その余白に人が引き込まれていく。
「それも旅に似ているのでは」と根津氏。旅先で出会った人や、ふらりと入った店での会話は、タビナカでの「余白」で、効率性とは真逆にある偶然性。「そこから得られる情報には、すごい価値があると思っています」と話し、根津氏自身も「そういう旅が好き」だという。
「だから、LOVOTと一緒に旅に出ると最強。旅先でいろいろな人と話せて、友達になる。そんな機会がめちゃくちゃ増えるのです」。
それは、推しキャラのぬいぐるみと一緒に旅をする感覚と同じだ。根津氏によると、実際、LOVOTと一緒に旅をするオーナーは多く、バッテリーの小型化に成功して以降、その数が増加しているという。GROOVE X社でも、その需要に応えるため、専用のキャリーバッグを作った。LOVOTオーナーが集まり、自分のLOVOTと一緒に楽しめるイベントも開催した。
WiT Japanに登壇した根津氏。ステージのうえでLOVOTが自由に歩き回る
人の心の動きは絶対にAIに奪わせない
根津氏は、トヨタ自動車をはじめ、多くの工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、ものづくり企業の創造活動の活性化にも取り組んできた。
その根津氏は「温かい柔らかいもの抱っこして、何かを感じるのは人間の持つ身体性だと思うのです」と話す。しかし、テクノロジーの進化は、その生身の身体性を奪ってきた歴史でもある。
「AIは、人間の論理的な思考の部分の大部分を奪おうとしています。実際、人間の仕事を奪っています」と話す一方で、「それでも限界はある。今のところ奪えないのが人の心の動きです」と続けた。
そのうえで、「そこは当面奪われそうにないと思っています。それどころか、絶対に奪われてはいけない。最後は、人間のレゾンデートル(存在意義)の話になってしまいますが、僕は、もしAIが奪いに来るようなことがあったとしても、『絶対に渡さないぞ』と思ってます」と力を込めた。
旅は心を動かす。根津氏は佐世保に行った時、ネット情報ではなく、宿の人に勧めてもらった佐世保バーガーの店に行ってみたという。「そこが、めちゃくちゃ美味しかった。そういう旅が僕の心を豊かにしてくれるのです」と笑った。
取材・記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹



