業法の壁を乗り越えたい「長期滞在型観光」、インバウンドや着地型旅行商品が追い風に

千葉千枝子の観光ビジネス解説(13)

国内の滞在型観光シフトが鮮明に

「暮らすように旅をする」泊数へのこだわりを



2020年東京五輪開催に向けて、宿泊施設の供給不足が懸念されている。そうしたなか不動産業界が、空き物件や老朽化した老舗旅館、別荘などを旅行者に貸し出すサービスの導入を急いでいる。専用サイトが構築され、建物の改修や付帯サービスの充実、仕組みづくりがなされるなど、旅館業と宅建業の垣根が低くなってきた。


有田焼に魅せられた外国人がアーティスト・イン・レジデンスの実現に向けて動きだした(2013年9月クールジャパン促進事業のシンポジウムで)

地域側の努力もめざましい。長期滞在可能な宿・空き物件、はたまたゲストハウスや民泊の整備、情報集積が進み、インターネットがそれを後押しする。「暮らすように旅をする――」時代の、本格的な到来を感じさせる。

滞在型観光の促進は、地方自治体にとっても一大テーマである。それも老後のテーマや過疎化対策ではなく、急伸するインバウンドや、地域をあげて造成した着地型旅行商品の主要マーケットになろうとしているからだ。国内の滞在型観光シフトは、今後ますます鮮明になるであろう。


▼長期滞在型観光取組み事例:佐賀県有田町のアーティスト・イン・レジデンス

陶磁を学ぶ外国人が集まる一方、簡易宿泊所として許可が下りず


幸楽窯のゲストハウスにはリビングやキッチンの共有スペースを設けた(キッチンの様子)

2012年、佐賀県有田町の幸楽窯(徳永陶磁器株式会社)の経営者が、昭和30年代後半に自社の女子寮として使用した廃屋を、起業支援金の一部を原資に、長期滞在者向けのゲストハウス(素泊まりの長期滞在型施設)に改修・改装した。2階建ての1階部分をゲストハウス仕様にして3室、ほか独立したキッチンとリビングの共有スペースを設け、2階には経営者本人が暮らして、鍵の受け渡しなど管理を兼ねる。

改修後、インターネットで英文紹介したところ、陶磁器の技を極めようとする外国人アーティストたちが世界各地から集うようになり、アーティスト・イン・レジデンスへと進化を遂げている。


リビングの様子

しかし、運営には課題もある。改修以前から、管轄する保健所等に足を運び相談を進め、さらにゲストハウスの完成にあわせて旅館業法上の簡易宿所として申請を試みたが、最終段階で浄化槽の要件ならびに前例がないとの理由で、許可が下りない事態となった。前例主義にしばられる行政指導の在り方についても、今後、議論の余地がある。

ゲストハウスの契約形態について、表にまとめたので参考にしてほしい。

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▼業法の壁を乗り越えたい長期滞在型観光、泊数延伸への大いなるこだわりを

旅行消費額拡大で欠かせない着地型旅行商品、国家戦略特区が例外に

2014年4月から代表を務める特定非営利活動法人交流・暮らしネット(東京都認証)では、さかのぼること2009年に新潟・佐渡ロングステイ事業を実施した。6泊7日素泊まりのロングステイ・モニターを募集。実施期間(6ヵ月間)で348泊を延伸させた。さらに島内消費額は、1人平均約4万4000円(佐渡への交通費、宿泊費は除く)の経済効果を生むことができた。また、発地・着地で役割を分担できる、ビジネスパートナーの存在が欠かせないこともわかった。

滞在中の旅行消費額拡大に向け、着地型旅行商品の開発や二次交通の手当が欠かせない。とはいえ運送サービスや宿泊を伴うと、旅行業法の壁がある。そもそも旅館業法、宅建業法それぞれがクロスオーバーするマーケットにあるが、肝心な滞在型観光促進のための法整備がなされぬまま時は過ぎた。今、国家戦略特区が、例外を生もうとしている。

休暇の取得が進む欧州で各国政府が観光の指針とするのが、渡航者数や入域者数ではなく、「泊数」である。隣国と地続きで、周遊型観光がポピュラーなことから、自国の泊数延伸のための具体的取り組みや整備のあり方には、学ぶべき点が多い。

ロマンチック街道に代表される、一国完結型の観光ルートを編み出したドイツ。ホテル客室のベッド数を、シャレー(山小屋)と呼ばれる滞在型施設の収容人員数が上回るスイス・アルプス周辺地域など、成熟した欧州の国々の先行事例は数多い。

もはや旅行者は、旅行業や旅館業だけの対象マーケットではない。そして「私たちに足りないことは何か」と問われれば、泊数延伸への大いなるこだわりではなかろうか。

参考コラム>>>

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