求められるグローバル人材育成とは?活躍の場が広がる「観光」を学ぶ意義

千葉千枝子の観光ビジネス解説(15)






▼叫ばれるグローバル人材の育成、国が求める人材像とは

近年、グローバル人材の育成が叫ばれている。とりわけ高等教育の現場では、グローバル人材育成が一大テーマになっている。アベノミクス第3の矢・成長戦略に、訪日外国人客2030年3000万人、受け入れ留学生・外国人教員数倍増という具体的な数値目標が掲げられた。待ったなしの状況だ。

グローバル人材の育成については、これまで政府でも、さまざまな討議がなされてきた。その求められる要素としては、語学力のみならず、コミュニケーション能力や価値創造力、社会貢献意識も問われる。

具体的な人材像はといえば、主体性や積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感、さらには異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー、幅広い教養と深い専門性、課題発見や解決の能力、チームワークとリーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー(情報メディアを主体的に読み解き、必要な情報を引き出して、その真偽を見抜き活用する能力のこと)などが挙げられた(「グローバル人材育成推進会議中間まとめ」2011年)。


▼若い世代の内向き志向を克服

経済界も日本人の留学支援に

文部科学省は、平成24(2012)年度から国公私立大学を対象に、グローバル人材育成推進事業を推し進めている。本年度もスーパーグローバル大学創成支援などの事業が進められており、申請した大学は日本学術振興会による審査の結果を待つところにある。

これら事業は、「若い世代の内向き志向を克服し、国際的な産業競争力の向上や、国と国の絆の強化の基盤として、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図るため、大学教育のグローバル化のための体制整備を推進する(文部科学省)」ことを目的としている。

日本人の海外留学者数は、2004年の8万2945人をピークに年々、減少しており、直近では5万7501人(2011年。文部科学省(ユネスコ統計局、OECD、IIE等における統計による)発表)と振るわない。中国人(約41万人)、韓国人(約25万人)と比較をすると、国外留学者数は雲泥の差にある。

日本が抱える国際競争力低下という諸問題は、教育からテコ入れしないとならない。こうした動きに、日本の経済界も支援を始めた。(一社)日本経済団体連合会(以下、経団連)では、グローバル人材の育成に向けたフォローアップ提言を行い、経団連グローバル人材育成スカラーシップ制度を導入した。

筆者作成

▼大学で観光を学ぶことの意義

五輪招致なるも募集停止の大学も

平成24年度文部科学省のグローバル人材育成推進事業タイプA(全学推進型)に採択された中央大学。経済学部インターンシップ科目に新たに国際観光コースを設置。筆者は担当講師に就任(前列右から4番目)。

教育は、将来を見据えた確たる投資である。わが国には観光を学ぶことができる大学が全国津々、約80校、存在する。ときに「観光は、学問なのか」という声も囁かれた。日本が観光立国をめざすなか、観光学は、学際領域から学問への過渡期にあるのがうかがえる。

一方で、経営学や商学、経済学、はたまた都市工学などの、すでに確立された分野からのアプローチが増えている。産業として、また学問として観光が、光を浴び始めたばかりの日本。2020年東京五輪の開催が決定したことも追い風となり、観光を高等教育で学ぶ意義は増しているといえよう。

とはいえ観光系の学部学科を設ける大学の一部では、学生集めに苦慮する姿を散見する。なかには募集停止に追い込まれる大学もあり、前途は多難だ。

その背景には、活躍のフィールドに選択肢が少ないことも起因する。観光といえば旅行業や運輸業(鉄道や航空等)、ホテル旅館業をイメージするのがこれまでであった。

近年は、観光知識を要すべき産業や業種が外縁を広げている。地方自治体の職員や、CIQなどに関する有資格公務員、製造業における産業観光のセクション、訪日外国人客を対象にした百貨店など免税小売りの現場に至るまで、さまざまな業種で求められるのが現代の観光人材である。グローバル人材の活躍の場の一つに“観光”があることを、われわれで再共有したい。

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