星野リゾート・星野代表が語る「観光産業にいま必要な改革」とは?

リゾート運営に特化し、多くのホテルや旅館を再生してきた星野リゾート。代表の星野佳路氏は本業のみならず、若者の需要喚起や国内旅行の振興に向けた施策も提言し、先ごろは異業種5社と共同で民間レベルでの休日分散化「後ろ倒しゴールデンウィーク」を実施。昨年には、観光特化型の不動産投資信託(リート)を日本で初めて立ち上げるなど、幅広い視野で取り組みを行なっている。

東京オリンピック開催が決まり、インバウンド誘致への注目が高まるが、「国内需要から利益を出せない産業は、インバウンドを増やしても経済活性に繋がらない」と根幹の重要性を訴える。観光産業に今、必要な「改革」について聞いた。

▼休日制度を先進国並みに

分散化には他産業からの要望も

星野氏が「改革の本丸」とするのは、長年提唱してきた「休日分散化」だ。先ごろには日本交通やベネッセコーポレーションなど異業種5社と「休日分散化推進事務局」を立ち上げ、民間レベルの取り組みとして「後ろ倒しゴールデンウィーク」を実施したが、これは改革の序の口。「国内に20数兆円ある旅行のニーズを、同じ日に重ねるのはナンセンス」とし、大型連休の地域別取得が目指すところだが、「そのための一歩として価値があったのではないか」と評する。

星野氏によると、大型連休の地域別取得はフランスやドイツ、アメリカなど先進国で既に実施されている。その理由は、消費者に最大のメリットがあるからだ。需要を分散することで旅行費用が下がり、消費者が旅行に行きやすくなる。観光地の渋滞がなくなり、快適な旅行ができて満足度が高くなる。

観光事業者側にも、“稼ぐ可能性のある日にち”が増えるメリットがある。そうなれば、「(観光事業者は)健全な競争を通じて生産性を上げていくことになる。だからこそ改革の本丸だ」と強調する。

観光産業以外でも、休日分散化は望まれているともいう。例えば、自動車業界の関係者も「せっかく性能の良い車を作っても、渋滞の中での運転では意味がない。快適に走って、その良さを感じてほしい」というのだ。

観光庁で休日分散化に向けた議論が行なわれていたが、震災時に一時休止となり、進行していない。その理由について星野氏は、国がインバウンド誘致に目が向いていること大きいと指摘。しかし、「国内に20兆円ある産業の利益率が少ない原因を考えなければ、訪日旅行者数の国家目標を達成しても経済貢献に繋がらない。国内需要の大半である日本人が満足し、そのお金が地方経済に結びつく仕組みが必要だ」と強調する。



▼海外旅行の方が行きやすい状況の是正を

日本国内の交通費が安くなれば、若者の需要が盛り上がる

hoshino0472星野氏が休日分散化の次に重要な課題としてあげるのは、「国内移動」だ。「課題は我々自身の努力や商品にもある。しかし、それよりも大きいのは交通費。国内移動を安くしなければ需要の盛り上げにはつながらない」という。

移動費用の問題は、若者の旅行需要にも影響しているとも指摘する。国内の移動網は新幹線などビジネス需要が支える便利で高額な路線は充実しているが、安い移動手段はなくなっている。そのため、「安く旅行したいバックパッカーたちは、海外の方がいい旅行ができる。若者が温泉旅館や懐石料理、地方への旅行など、日本の魅力を体験できない理由になっている」とし、それが若者に日本を見てもらえない理由の一つだとアピールする。

インバウンドにも影響がある。「ソウルから東京まで1万円くらいで来られるのに、羽田から都心までのタクシー代は5000円。東京までは安くなったけれど、空港から都心や地方へ行くのは高い」。このようなクレームが海外の旅行会社から多く聞かれるという。ビジネスや観光で東京に来たついでに、例えば松本や秋田でのスキーや温泉を楽しんでから帰国する、そういう需要を取り損なっている可能性もある。



▼突破口はLCC、国内空港を有効活用

星野氏が、移動費の問題の突破口と考えるのはLCC。いまは九州や北海道の路線が中心だが、98ある地方空港すべてにLCCのネットワークが広がることを期待する。

そのためには空港改革・空港経営が大切で、地方自治体ではなく空港専門の運営会社に委託することを提言。空港経営に企業のロジックを入れることでLCCに就航してもらう工夫ができ、地域活性化にもつながる。「移動のためのインフラはかなりある。これを旅行者に来てもらう形で活用することがものすごく大切だ」と力を込める。

現在、楽天とエアアジア、JTBと春秋航空などが組み、国内路線に参入するLCCが増えている。この状況を「非常にありがたい」と歓迎する。「健全な競争があるところに競争力がある企業が参入れば、LCCと新幹線、高速道路が競争に入る」と今後の進展に注目している。


▼3つ目に重要なのは事業者の努力

休日分散化、国内移動の問題が解消して、インバウンドの目標が達成すれば、「あとは星野リゾートがもっと頑張ること」と星野氏。2つの大きな課題と、時代にあわせた規制改正が行なわれれば、「文句を言えない制度を整えたということになる。それで生産性が上がらないのは事業者・経営者の問題」と断言する。


チサンイン、ウェブサイトより

星野リゾートでは2013年に星野リゾート・リート投資法人を上場させ、同リートにビジネスホテル「チサンイン」を組み込んだ。運営会社として展開する「星のや」「界」「リゾナーレ」の3ブランドはビジネスホテルよりも高価格の需要が対象だが、日本の観光産業への投資促進とその成長を個人投資家が享受できる仕組みをめざす同リートでは、観光需要の幅広いセグメントに比例したポートフォリオを揃える必要があると判断したからだ。

特に東南アジアの訪日需要が勢いよく伸びている現在、「星野リゾートの範囲でない需要の方が成長が早いかもしれない。そこに対する投資の取り込みを怠ってはいけない」とする。


一方、星野リゾートではビジネスホテルには参入しないものの、「界」で「ビジネスホテルから宿泊客を取り戻すための施策」に取り組んでいるところだ。観光客がビジネスホテルに求める要素を旅館に持たせるべく、一定の客室のベッド化なども行ない、若者層へのアピールも強化している。

星野氏が観光目的のビジネスホテル需要に注目したのは、2006年に運営を開始した「界・松本」(当時、貴祥庵)の再生事業でのこと。事前調査で、客足が減少した貴祥庵を含む温泉地の代わりに増えていたのは、市内のビジネスホテルだったことが判明。市場調査をしてみると、1万円位の価格帯のビジネスホテルの利用者の6割は観光客で、意外にもシニアの利用が多かった。「ビジネスホテルはお客様のニーズを捉えていて、遅れているのは私たちの方だった」と、考え方が変わったという。


hoshino0470インタビューを通じて星野氏は、市場拡大には「健全な競争の促進」を訴えると同時に、厳しい競争下に身をさらす意気込みと必要性を説いた。産業全体の改革を目指す取り組みとともに、自社事業では変化にあわせた柔軟な対応を推進する。2015年には「星のやバリ」の開業も控え、活躍の場は世界にも広がる。今後の星野リゾート、星野代表の取組みに注目していきたい。
  • 聞き手/トラベルボイス編集部:山岡薫
  • 文/山田紀子

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