訪日外国人を取込むマーケティング、都内ホテルが実施したリスティング広告の事例から

こんにちは。マーケティング・コラムニストの野田彩子です。

前回のコラムで、まず「自分の強み(=USP:ユニーク・セリング・プロポジション)」を客観的に分析し、次にその「自分の強みが一番活きる(評価し、ファンになってもらえる)のは、どの国の旅行者だろう?」と考えていくことが大事、とお伝えしました。

前回コラム>>>


今回は、弊社がご支援した東京都内のホテルでの事例をみてみましょう。この「自分の強み」を活かして海外向け施策を実行した好例です。


▼ステップ1; 現状分析と課題の設定

事例となるホテルは、2013年10月にリブランド。長期的に「国内外にバランスの取れた集客」を目指し、出来るだけ早い段階で「海外からの予約比率を50%にする」ことを目標に掲げました。

当時は、

  • 平日の稼働はほぼ100%だが、日曜日は稼働率が下がる
  • 海外集客は団体が中心、担当営業(国内と兼務)の出張によるエージェント訪問が中心(米国・アジア)
  • ここ数年の不況により、ホテルの宿泊費用が価格競争になりがち
  • 海外からの予約比率は約30%(多い順にアメリカ、中国、インドネシア、台湾、その他)
  • 公式ホテルサイトへの海外からのアクセス数トップ3は米国、台湾、シンガポール

という状況でした。

2020年の東京オリンピック、それに伴う日本観光局(JNTO)による訪日プロモーションの促進といった外的要因をふまえると、今後ホテル側で何もしなくても一定数の外国人宿泊客が伸びることは予測できましたが、上記の要因から「海外からの公式サイトでの予約を増加させたい」という課題につながりました。

そこで、これまで未着手だった「海外個人旅行者向け」に直接アプローチする手段として、ウェブ・マーケティングを選択。中でも、まずは「広告」として直接見込み客にホテルの存在・強みをメッセージとして伝えられるリスティング広告(検索連動型広告)を活用することにしました。


▼ステップ2; プロモーション対象国を選定

このホテルでは、「もっとも自分の強みを活かせる市場」として、「台湾」を最初のプロモーション対象国に決定しました。その背景は、以下です。

ホテルは既に英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語の各言語のサイトを持っていました。一度に複数言語、複数の国に向けた施策をとるのは予算もかかりますし、「まずは最も有望な1カ国」を選択しスタートすることになりました。

ホテルの「海外からの旅行者向けにアピールできる自分の強み」を改めて整理したところ、

  • 立地の良さ(羽田空港・JR・地下鉄に直結、リムジンバス停車、銀座や築地にも近い)
  • Wifi無料 + PC貸し出し
  • 客室の広さ × 価格のバランス
  • 滞在費を削減できる。(コンビニが階下にある、コインランドリーが使える)
  • 台湾人のロビースタッフが勤務している(これが特に差別化できる要因)

という点が挙がりました。そして外部環境やJNTO等が発表している各国の旅行者の特徴等のデータ、そして「自社の強み」と「これまでの実績」を総合的に考えた結果、以下の理由から「台湾」を対象国としました。

  •  現地の言葉でサポートできるスタッフがいる
  •  ホテルの立地・価格・設備から、台湾に多い個人旅行者に強みを発揮できる
  •  公式サイトへの地域別アクセス数がトップ3に入り、潜在ニーズが大きいと判断できる


▼ステップ3; 対象国にあわせた具体策を検討・実施

世界各国で、主に利用されている検索エンジンは国ごとに異なります。台湾は、Yahoo!台湾が現地最大手のポータルサイトを買収した経緯があり「Yahoo!奇摩」が主流でした。しかし、Googleが伸びて均衡してきたこと、ホテル公式サイトへの台湾からのアクセスはGoogle経由がややYahoo!経由より多かったこと、他の国への展開が容易なことから、「Google台湾×繁体字」の出稿としました。

テスト期間を含む2月はフル稼働ではないので90日分ではありませんが、2-4月の結果は下記のとおりです。

【広告文】 一番の強みである「台湾人スタッフがいて安心」「中国語サービスも提供」を含める6パターン

【設定したキーワード】 「ブランド」「東京ホテル」「東京ホテル予約」など6グループで360件程度登録

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【用語解説】

  • 掲載順位: インターネット広告が出稿された順位(上から何番目に表示されたか)
  • クリック率: インターネット広告が表示された回数のうち、クリックされた率
  • クリック単価: 1クリックあたりにかかった費用(入札制)
  • コンバージョン率: クリックした中から「成果」につながった率、今回の場合「宿泊予約完了」に至った率
  • 獲得コスト: 「予約完了」を獲得するのにかかった1件あたりのコスト

▼ステップ4; 実施後の効果検証

【結果の要約】

  1.  表示された広告に対する掲載順位は予測より低かった(=そのためクリック率が低かった)
  2.  しかし、クリックした人(ページの中身を閲覧した人)が予約まで至る率(コンバージョン率)は予測をはるかに上回った
  3.  よって、1件あたり1,500円程度という低コストで予約を獲得することができた
  4.  ホテル公式サイトへのアクセス数は、対前年で42.68%増加

【考察】


今回の一番のポイントは、「コンバージョン率の良さ」です。この理由は、何より「誘導された広告のキーワード(=自分の強みから選定したもの)」と、「ページを訪問した際のコンテンツ(ホテルの強み・売り)」がマッチしていたことで、ページを訪れたより多くのユーザーが「予約」まで至ったと考えられます。

今回はグローバルな大手総合旅行サイトが2社ほど競合し、掲載順位、クリック率が予測を下回ったと考えられる一方で、日本の宿泊施設で直接Google台湾に出稿しているホテルは(当時)他にはなかったことはプラスの要因でした。


▼考察; リスティング広告を実施すると、マーケティングデータも集まる

実施期間の最後に、「同じ繁体字のまま、広告配信の対象地域を台湾以外にも広げてみる」という検証を試みました。Google Adwordsの場合、地域の選択はとても簡単に出来るのです。

対象地域を1週間のみ「全世界」に広げたところ、当然1位は台湾国内からのアクセスですが、続いてアメリカ(カリフォルニア)、香港(全体)から複数の予約が入り、コンバージョン率はそれぞれ50%、28.57%というものでした。他にもドイツ、アメリカのその他地域、マレーシア、カナダ、シンガポール、日本から、繁体字での予約が入りました。中国では表示回数が非常に多かったもののクリック率が低く、1件の予約にも至らなかったことからも、「自社の強みが活きる国・そうでない国」があることが読み取れます。

リスティング広告を実施することで、直接的な効果(=アクセス数・予約の増加)に加えて重要なことは、「自分の強みを活かせる(=効果の高い)キーワード」のデータが取れることです。このデータを今後のリスティング広告だけでなく、ホテルのコンテンツやメルマガに活用するなど、その他のプロモーション活動にも役に立てることができるのです。

ホテルは、その後もTripAdvisorのコメントへの返信を迅速に行うなどのフォローアップを続け、2014年10月現在で海外からの予約比率が49%を超え、目標の50%まであと一歩の状態です。

今回は「ロイヤルパークホテル ザ 汐留」を事例として取り上げました。

【今日のワンポイント】


グローバル(海外向け)リスティング広告: 海外向けにプロモーションを行う場合の施策の一つ。インターネット上の検索エンジン(Google・Yahoo!など)上で、ユーザーが特定のキーワードで検索した際にその検索結果に連動して表示される広告のこと。これを海外向けに各国の言語に合わせて展開するのがグローバルリスティング広告。

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