旅行が最大半額になる「ふるさと旅行券」の効果を考える - 過去との違いからネット予約の商機まで

千葉千枝子の観光ビジネス解説

「発売開始から、わずか4分で完売」。そんな見出しが嬉々と躍った「ふるさと旅行券」とはそもそも何なのか。

今回はその考え方や効果、これまで行われてきた施策との違いを解説してみたい。

※写真は、今後「ふるさと旅行券」の発行が予定検討されている箱根町の光景。地道な情報提供の甲斐があり、箱根湯本周辺には観光客が戻り始めているが予断を許さない。(2015年5月15日 著者撮影)


最大半額になる「ふるさと旅行券」、地方創生交付金の基本的な考え方とは?

「ふるさと旅行券」とは、正式には「地域住民生活等緊急支援のための交付金」といい、安倍政権が推し進める地方創生に由来することから、地方創生交付金とも呼ばれている。

ふるさと旅行券以外の交付金活用事例としては、プレミアム付商品券やふるさと名物商品券などがある。

地方創生交付金は、都道府県や市町村、商工会などが自由に事業設計できるのが特徴。地方創生には5カ年計画の地方版総合戦略や地方人口ビジョンがあり、政府が掲げる政策5原則(自立性、将来性、地域性、直接性、結果重視)が必要条件になっている。具体的には、地域消費の喚起に直接効果があるとされる事業に限られ、人件費は対象外。2014年度中に予算措置をするのが交付条件だったため、各自治体は年明け早々の年度内に開催された議会で補正予算をはかり、緊急導入した経緯がある。

プレミアム付商品券は域内消費振興なのに対して、ふるさと旅行券は域外消費を喚起するものである。前者の商品券におけるプレミアム(上乗せ)率は、おもに2割前後であるのに対して、ふるさと旅行券(宿泊クーポン)は半額(5割)をうたうものが大半で、割得感が大きい。


ネット予約のオンライントラベルに商機あり、即日完売が続出した背景にある"時代の潮流"

注目されたのは、鳥取県が2015年4月1日に発売した「プレミアム宿泊券とっとりで待っとるけん」だ。額面1万円の宿泊クーポンを、売価5000円で全国のコンビニエンスストアで発売したところ、発売開始からわずか4分間で1万4000枚発行分が完売した。クーポン購入者が利用できるのは、鳥取県内のホテルや旅館、民宿、そして民泊と全163の宿泊施設で、利用可能期間内で選ぶことができる。

同年5月1日に新潟県阿賀市が発売した「五頭温泉郷スーパープレミアム旅行券」は、なんと3分で完売した(窓口販売は10分)。

こうした即売の背景には、ネット予約のオンライントラベルエージェント(以下、OTA)が発売を手がけていることも一因する。

「じゃらんnet」(リクルートライフスタイル)や「楽天トラベル」、「るるぶトラベル」(i.JTB)、「ヤフートラベル」(たびゲーター)といった宿泊予約サイトが選ばれた理由に、クーポン利用の簡便化があげられる。割引適用は現地決済時ではなく、予約時適用となるからだ。割引クーポンをオンライン購入することで、ネット上での予約決済がさらに容易になり、手間が省ける。

これまでの一般の旅行券と比較してみると、より解りやすいだろう。有価証券という特性上、受け渡しに書留郵便や宅配便を利用して、現物をわざわざ利用可能な旅行会社の店頭へ持参、支払をすませなくてはならなかった。コンビニエンスストアでの受け取りやオンライン購入は、そういった面倒を一掃している。

OTAからすれば、サイト運営上の収益増や周辺施設の抱き合わせ販売などが見込める。固定費負担が少ないOTAは、24時間、域外集客がしやすい。一方で、宿泊事業者の側からすれば、OTAが介在しても助成対象となる。予約管理の手間が省け、客室稼働率も上がるなどのメリットがある。

つまり、インターネットの特性を両者が生かしきっているのが特徴だ。

ふるさと旅行券は、「おどる宝島!とくしまクーポン(徳島県)」、「おんせん県おおいた旅行券(大分県)」、「清流の国ぎふふるさと旅行券(岐阜県)」、「ココだよ!宮崎県(宮崎県)」など県発行のもの、また別府市や薩摩川内市、大分日田市など市町村発行のものもあり、発行自治体が拡大している。

クーポンの利用可能期間や券面額、その他細則は、各自治体によって異なる。

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過去のバラマキ交付金との違いは「効果検証」、観光経済の地域格差もポイントに

過去、バラマキ交付金と揶揄された「ふるさと創生事業」(1988年-1989年)と大きく異なるのは、受益者が直接的であることに加えて、PDCA(※)を忠実に行うなど利用期間経過後の効果検証が求められている点にある。だが、たとえ効果が乏しかったとしても、国への交付金返上など具体的ペナルティはうたわれていない。 ※PDCA= Plan(計画)、Do(実施)、Check(評価)、Action(改善)

消費の起爆剤として、単なる域内消費にとどまらなかった点で、ふるさと旅行券の発案そのものや発売手法の選択は大いに評価できる。今後は、この賑わいを一過性のものとさせない努力が、クーポンを発行した側に求められてくるであろう。特に、観光知名度が低い自治体は、発行数全てが“さばき切れるか”が気になるところだ。

さらに、一部の購入者が、ネットオークションにクーポンを出品する行為もみられた。税金が投じられているだけに、購入目的や効果のほどに厳しい目が向けられていることも事実だ。

ゴールデンウィークのさなかを火山性地震と蒸気噴出が襲った箱根町では、同種のふるさと旅行券を発行する考えにあると、去る2015年5月16日、神奈川県の黒岩知事が表明した。噴煙地の半径300メートル以外に現状、立ち入りの制限はないが、箱根町の一部の旅館では大型団体のキャンセルも出始めるなど風評被害も著しく、中長期的には厳しい情況にあるため、クーポン発行が有効な手立てとなることを望む。

地方創生のための税投入に、活かし方、生かされ方はさまざまだ。

人口が多い都市の近郊で1泊圏内の観光地に、利用者が集中する可能性は高い。地域経済の格差是正を目的にした施策とはいえ、観光においては、かえって格差を助長させるおそれもある。実施後のシビアな検証が待たれる。



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