旅行者と現地在住者をつなぐ「トラベロコ」、あえて日本人同士に絞った新サービスとその戦略を聞いてきた

個人旅行(FIT)化が進み、旅行者のニーズも多様化している日本人の海外旅行市場。そこを狙ってシェアリングエコノミーで日本人旅行者の「やりたいこと」と海外在住日本人の「できること」をマッチングさせる新サービスがある。「トラベロコ(Traveloco)」だ。

「トラベル」と現地の人を表す「ロコ」を組み合わせた社名のスタートアップ会社は2014年1月にプラットフォームを正式にオープンした。「旅行者(ユーザー)のしたいことから始まるサービス」と話す代表の椎谷豊氏にそのビジネスのキモを聞いてきた。

ユーザーがやりたいことをホストの技量で叶える

トラベロコのサービスはシンプルだ。

日本人旅行者が個人的に海外でやりたいことを、海外在住日本人が遊休時間を使って、自身のスキル、知識、経験を生かして叶える。その個人対個人(C2C)のマッチングをプラットフォーム上で行う。

立ち上げ当初20〜30人だったロコ(ホスト)は現在、140カ国1,350都市で1万人強にまで増加。ユーザー登録も約5万人にまで成長した。

サービス内容はさまざまだ。ユーザーには100人いれば100通りの「したいこと」があるという。たとえば、本場アルゼンチンでタンゴを楽しみたいというユーザーが、現地でタンゴを勉強しているホストとマッチング。フランスでは、木工工房を視察したいというユーザーが、現地の一級建築士とマッチング。簡単なところでは、ロンドンの地下鉄の乗り方を教えてほしいという年配ユーザーが、ホストのサポートを受けた。プライベートなリクエストだけでなく、展示会での通訳や視察サポートなどビジネス需要も多いという。

既存のシェアリングとは異なる世界観

椎谷氏がこのサービスを思いついたのは、前職で日本人旅行者向けの情報サイトでディレクターをやっていたときのこと。海外在住の人に現地情報を発信してもらっていたが、「ライティングの仕事は素人にはなかなか難しく、離脱していく人も多かった。現地の情報や知識は豊富なのにもったいない。これをなんとか生かせないものか」と考えた。その発想を形にするうえで、C2Cのシェアリングエコノミーのビジネスモデルが「たまたまハマった」。

ただ、AirbnbやUberなど先駆者のサービスと「テクノロジー的には同じだが、トラベロコが考える世界観とは違う」ことから、発想から実際にプラットフォームを構築するまで時間がかかったという。既存のシェアリングプラットフォームで提供されているサービスは、その多くがあらかじめ商品がある。たとえば、Airbnbであれば部屋、Uberであれば車があり、ホストはその遊休資産と時間を提供し、ユーザーはそれを選んで購入する。流通形態はECと変わらない。

一方、トラベロコの場合、ホスト側が自身のツアーを商品化しているわけではなく、ユーザーの「したいこと」にホストが応えるサービスのため、ホストが提供できるサービスには実態がない。「ユーザーがしたいことありきのサービスなので、ホストが一方的に発信する募集型の商品をユーザーが望んでいるとは限らない。ホストの能力を商品という枠でくくってしまうと、トラベロコのやりたいサービスではなくなってしまう」と椎谷氏。そのコンセプトをプラットフォームの裏側で設計するのに手間がかかったという。

ホストは100%日本人、「そこがこのサービスの本質」

トラベロコのサービスは、面識のない者同士を海外でマッチングさせること。さまざまな規制によって安心安全が担保される業を介さないC2Cビジネスには、リスクが常に伴うが、人と人とのマッチングではさらにそのリスクが高い。そこで、トラベロコではホストを100%日本人に限っている。日本語を話す外国人も、日系人でさえも登録の段階で排除するという徹底ぶりだ。

「そこがこのサービスの本質的なところ」と椎谷氏。「同じ日本文化で育った人同士であれば、コミュニケーションでのちょっとした違和感でも修復できる」。

話せることとコミュニケーションをとれることとは次元が違う。いわゆる“阿吽の呼吸”が通じるかどうか。

日本人同士であれば、言葉の行間を読みながら、トラブルを回避しようとお互いが歩み寄ろうとするが、現地育ちの通訳ガイドとのコミュニケーションでは細かいニュアンスで思い違いが生まれるケースは、一般の旅行でも多く見られるところだ。日本語ができる外国人も登録可能にすれば、ホストの数はもっと増えるが、日本人に特化しているところにトラベロコのキモがある。

さらに、ホストを匿名性(ハンドルネーム)にしているのも他シェアリングエコノミー事業と異なる特長だ。椎谷氏は「実名にすると、現地の日本人コミュニティーで不都合が出てくる場合がある。ホストには現地で本業があり、遊休時間を使ってサービスを提供している人が基本なので、それは避けたい」とその理由を説明する。究極的には、「海外在住の日本人すべてに参加してもらうプラットフォームを目指している」ため、ホストにとって登録しやすい環境を整えた。

内容や条件はユーザーとホストとの話し合いで決定

ここでトラベロコのサービスの流れを見ておく。

まず、ユーザーがその国/都市でやりたいことを現地ホストにプラットフォーム上で伝え、お互いでサービスの内容などを詰める。そのうえで、料金、利用日などの条件で合意すれば、ホストはサービス情報をトラベロコに登録し、ユーザーはトラベロコに入金する。現地でサービスが提供されたのち、ホストはトラベロコに振込みを依頼、そして支払いという流れになる。

コミッションとして、ユーザーはサービス料金に10%プラスを入金。たとえば、1万円のサービス料金であれば、1万1000円を振り込む。登録は無料。ホストは成約したときのみシステム利用料として20%。つまり、1万円の20%、2000円をトラベロコに支払う。全体で30%が運営者であるトラベロコに入る仕組みだ。

キャンセルはどちら側からも可能。サービス利用日の1週間以内にユーザーがキャンセルする場合はキャンセルチャージ100%、ホストがキャンセルする場合はいつでもユーザー側に全額返金される。

サービス料金は「ピンきり」だそうだ。高額サービスでは、たとえばビジネス展示会の通訳案内で1週間、プライベートの旅行でコンシェルジュ的役割を1週間などで50万円。安価なサービスではレストランの予約代行だけで500円などがある。

サービスの交渉以外でもユーザーがロコに無料で質問できる仕組みも取り入れている。質問は何でもOK。現地おすすめのお土産や現地の治安情勢など多岐にわたる。ネットで調べれば分かるようなことが多いが、こうした直接のやり取りを通じて、回答の中にプロフィール以上のホストの個性も表れてくることから、匿名ホストとの信頼関係を築ける機会になっているという。

シェアリングエコノミーで信頼醸成のカギとなっているのが相互レビューだが、トラベロコの場合はユーザーからの評価のみ。「ユーザーがしたいことをホストが叶えるサービスなので満足度は97%と高い。サービスが成立すれば、したいことが満たされるので満足度が低いわけがない。ホスト側も自分のスキルを望まれて、サービスを提供しているので満足度は高い」。通常のシェアリングエコノミーとは違う世界観がそこにはある。

一方、ホスト側には、レビューがない代わりに、ユーザーが同じタイミングで同じ国/都市の誰に依頼したか直近の利用履歴が分かるようになっている。ホストがユーザーと交渉しやすくするためだ。ただ、ホストはそれぞれ異なるスキルを持っているため、ユーザーが相見積を取るようなことはあまり起こらないという。

目標ユーザーは海外旅行者数の10%、将来は法人ホストも視野に

トラベロコ代表 椎谷豊氏

最大の課題は認知度の向上だ。「新しいサービスなので、利用の仕方が分からないという声が多い」という。ただ、日本人海外旅行者のFIT化がすすみ、需要が顕在化するニーズが多様化しているとともに、極めて個人的なウォンツも増えているなか、ビジネス拡大に手応えを感じている。今後はユーザーやロコの利用事例をさらにアップして、利用のきっかけづくりを仕掛けていく考え。目標とするユーザー数は「日本の海外旅行者1,700万人の約10%」だ。

最近では、現地のリアルな声を発信する取り組みも始めた。「たとえば、テロが発生した場合など、ホストからの生の情報を伝えることで、偏った報道による誤解を解きたい」という考えからだ。今年6月3日にロンドン中心部で発生したテロの際も、現地在住日本人にアンケートを実施し、その結果をリリースした。「将来的にはマーケティングやリサーチツールとしても使えるのではないか」と期待をかける。

また、さまざまなC2CのシェアリングサービスでBtoBで入り込んでいる傾向も踏まえ、「ホスト側に法人であるBが入ってくる可能性あるだろう」と将来を見据える。「既存のサービスの置き換えではなく、新しい需要を開拓して新しい市場をつくることができれば、シェアリングエコノミーはもっと発展する」。トラベロコが描く最終型は日本人による日本人ための海外プラットフォームだ。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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