ANAがシェアリングエコノミーに注力する理由とは? 遊び心から生まれる近未来への取り組みを聞いてきた

宇宙旅行を目指したロケット開発への参画から瞬間移動するアバターまで、未来の旅への取り組みを行っているANAのデジタル・デザイン・ラボ(DD-Lab)。そこでは、まだ定かではない何十年も先のテーマだけでなく、もう少し手前の近未来のイノベーションも模索する。

DD-Labチーフ・ディレクター津田佳明氏のインタビュー、第2回は現在進行形の取り組みについて。本業であるエアラインビジネスに関わることからシェアリングエコノミーへの取り組み、モノづくりのサポートまで、その守備範囲は広い。

将来の需要創出で無視できない「シェアリングエコノミー」

DD-Labではエアラインとしてのリアリティーに基づいたイノベーションとして、「無視できないムーブメントになっている」シェアリングエコノミーへの取り組みも積極的だ。

その背景にはあるのは、フルサービスキャリアとしての将来的な2つの課題。

ひとつは地方での人口減少。地方需要の減退は、人と物の流動に大きな影響を与えてくる。国内線ビジネスの観点から地方活性化は喫緊の課題だ。

もうひとつは、10年後の主力ターゲットとなるミレニアム世代の取り込み。「この世代にとって、ANAは魅力的なエアラインになっていない」という危機感がある。

オンラインのインフラを基盤に展開するシェアリングエコノミーという経済活動は、遊休資産が眠る地方とそれを求める都市、あるいは地方間に新しい流動を作り出す。一方、所有よりも共有の考え方が強まっているミレニアム世代のあいだで、シェアリングエコノミーへの関心は高い。

また、将来の需要創出への布石という側面以外にも、現状として、「フルサービスキャリアは、スケジュールや運賃体系から構造的に空席や貨物の空きスペースが出てしまう。それを遊休資産として活用していく」という考えもあるようだ。

ANAは、傘下のピーチ・アビエーションとともにAirbnbとパートナーシップを結び、新しい旅の提案を始めた。

シェアリングエコノミーは、個人宅に泊まる民泊や一棟貸しのバケーションレンタルなど新しい宿泊スタイルを生み出すとともに、新しい旅のカタチを創り出している。B2CのBがCに代わる時、多様性は加速度的に進む。津田氏は人やモノを運ぶエアラインとして、「それは無視できないムーブメントになっている」と話す。

昨年11月に開催された「シェアサミット2017」では、ANAがプラチナスポンサーに。
DD-Labの津田氏が登壇し、取り組みを説明した。

さらに、昨年は地域体験と旅行者をマッチングさせるシェアリングエコノミープラットフォーム「TABICA(タビカ)」とも提携し、ANAセールスでの販売を始めた。

TABICAは、地元をよく知る個人がホストとなり、その得意分野の体験を旅行者に提供する。いわゆるC2Cのビジネスモデル。体験を提供する日時も内容も最小催行人数も千差万別の個人の現地ツアーを、旅程管理というルールで縛られたパッケージに組み込むという新しい枠組について、津田氏は「とてもチャレンジングな取り組み」と表現する。

第一弾は長崎県。今後、この仕組みが全国に広がり、国内パッケージで新たなイノベーションが生まれるのだろうか。

シェアリングエコノミーのプレイヤーとの提携に加えて、津田氏はANAの遊休資産を有効利用していくアイデアも明かす。ANAには8000人を超えるOB/OGのコミュニティー「Soramite」があり、たとえば、元CAや空港スタッフの人たちは語学力に加えて、ANAで培ったおもてなしの技術がある。整備出身のOBにはメカニックの技術を持っている人もいる。「こういう人材を遊休資産として、外国人のアテンドやエンジニア関連などで活用できないか」と考えているという。

乗ると元気になるヒコーキの実現は可能か

「乗ると元気になるヒコーキはできないだろうか」。

DD-Labでは、聞いただけでは、冗談とも取れるテーマにも真剣に取り組んでいる。当たり前だが、飛行機に乗るのは、行先に目的があるから。本来的には、レジャーであれビジネスであれ、その目的を遂行するためにはベストな体の状態であって欲しいが、飛行機に乗ると疲れてしまうのが現実。DD-Labでは、この常識を覆す新しい価値を「エアライン✕ヘルスケア」で創造しようとしている。

「搭乗する前よりも、肉体的に元気になり、精神的にもモチベーションがあがることを目指す」と津田氏は真剣に話す。

まずは、時差ボケや快眠についての知見を積み重ね、海外での試合が多いアスリートの取り組みも参考にし、瞑想や呼吸法などのマインドフルネスも取り入れながら研究を進めている。すでに、信頼できる医科学的なエビデンスを得るために研究機関とも共同研究を開始しているという。

クラウドファンディングでモノづくりイノベーションをサポート

DD-Labは2016年10月にクラウドファンディング・プラットフォーム「WonderFly」を立ち上げた。新しいイノベーション創出のサポートを目的とする。資金調達に至るまでには段階がある。まず、クリエイティブ・アワードとして斬新なアイデアを募り、その中から審査で選ばれたアイデアにはANAが資金を提供し、プロトタイプを製作。その後クラウドファンディングにかけられることになる。

第一弾のテーマは「旅の常識を覆すモノ」。計12件がファンディングにかけられ、大正ロマンの着物と空の旅を組み合わせた「Kimonoket」、モビリティスクーターの「SCOO」、飛行機の機内で「氷出し」という抽出方法を使ってお茶を作れる「SHIZUKA」、モノとスマートフォンをつなげるアクセサリー型のデバイス「Qrio Smart Tag」の4件が目標額をクリアした。

いずれも常識的な企業判断からすれば、ゴーサインは出ないと思われるような「破壊的な」アイデアばかり。たとえば、SCOOの案件は、目標額1000万円に対して約1034万円が集まり、製作がスタートした。

ファンディングのターゲットは、約3000万人のANAマイレージクラブ会員。貯まったマイレージでも出資できる仕組みにした。

「会員の中には、メーカーの方など新しいモノづくりに関心の高い人は多い。企業とチャレンジャーとのマッチングも自然に出てくるのではないか」と期待は大きい。

現在はトライアルの段階。第一弾に続いて、「家で、外で、日本酒をもっと」「あなたの日常に防災をプラスする」「『温泉』の新しい楽しみ方」が進行中だ。

DD-Labの行動指針のひとつに「真剣な遊び心で!」というフレーズがあるという。さまざまな「やんちゃ」な発想は、ワクワクするような遊び心から生まれてくるのは間違いない。常識と非常識は紙一重だが、その間には厚い壁がある。その壁を破壊し、イノベーションを生み出すのも遊び心なのかもしれない。DD-Labの遊び心が今後、どのように具現化されていくのか、注目だ。

ANA社員が持つ、経営方針と行動指針が記載されたカード。
この指針から外れないものの、創造性豊かな取り組みを行う。

記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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