タビナカ予約で2億ドル調達の「Klook(クルック)」、即予約確定にこだわる成長戦略を聞いてきた

創業から4年目に入る今年、投資シリーズDラウンドで2億ドル、これまでの総額3億米ドルの資金を調達し、旅行業界をあっと言わせた香港発の現地アクティビティ&サービスの予約プラットフォーム、Klook(クルック)。東京で開催されたオンライン旅行の国際会議「WIT(ウェブ・イン・トラベル)Japan」スタートアップ・ピッチで2015年に最優秀賞を獲得し、東アジアでは注目されてきたが、欧州と北米市場にも進出し、いよいよグローバル展開を本格化する。

タビナカ・プラットフォームで世界最大手のトリップアドバイザー傘下のビアターやエアビーアンドビー・エクスペリエンスなど、ライバル企業との差別化、これからの成長戦略を同社のアニタ・アイ(魏麗豪)最高レベニュー責任者(CRO)に聞いた。※写真はKlookエグゼクティブチーム。中央がアニタ・アイ氏。

アイ氏はこれまで香港をベースにエクスペディア系列のホテルズ・ドットコム、トリップアドバイザー系列のビアターで要職を歴任したオンライン・トラベルのプロフェッショナル。それ以前には米ニューヨークや上海でマッキンゼー&カンパニーに勤務し、ここでも旅行関連クライアントを担当した。2018年3月に現職就任。現在はB2Cのマーケティングと、流通におけるパートナーシップやアフィリエイト展開などB2B2C戦略の指揮をとる。

大規模な資金調達に成功したKlookが真っ先に投資したのは、欧州および北米市場における足場固め。アジアだけでなく、グローバルなプラットフォーマーを目指して動き出している。2018年の春、欧州ではロンドンとアムステルダムにオフィスを開設し、目下、欧州チームによるタビナカ素材の拡充が進行中だ。「ロンドンやパリなど、代表的な首都のプロダクトは揃ってきたが、第二、第三都市はまだこれから」(アイ氏)。2018年内には米国にも初の拠点をオープンする計画だ。

日本では、大阪などを候補に東京に続く二番目の拠点開設を検討している。アジア各都市に加え、欧米の主なタビナカ素材がKlookのプラットフォーム上に揃えば、インバウンド市場だけでなく、日本発アウトバウンド市場の攻略にも動き出す考えで、日本語版サイトも準備中だ。ただし「言語だけでなく、商品も日本人旅行者向けにローカライズが必要。例えば香港で日本人客に人気が高いところにペニンシュラ・ホテルがあるが、シンガポール人は興味ない。マーケットごとにニーズは微妙に異なるので、成功するためには、ユーザーの動きを注意深く追う必要がある」(アイ氏)。

Klookが得意とするテクノロジー分野では、AIによるレコメンド機能の開発を挙げる。深圳にある同社イノベーション・センターでは、ユーザー別にパーソナライズされた情報を提供できるレコメンデーションの実現に、エンジニアたちが取り組んでいる。AIを活用することで、個人向けに最適な内容を、最適なタイミングで提供する体制を整えることは「価格競争を避ける上でも重要」(アイ氏)と考えている。

航空券と宿泊以外はすべて事業領域

2018年は、総予約額は10億米ドルに達する見込みで「Klookにとって感慨深いマイルストーンだ」とアイ氏。同社が取り扱うタビナカ素材は、現在、世界200都市・5万件だが、今年初めはまだ3万5000件だった。

本拠地である東アジア市場のタビナカ素材もまだまだ増やしている。2018年は特に飲食関連に力を入れており、香港のエッグタルト店や台湾の屋台の麺、東京のラーメン店など「これもタビナカ素材?」と思うような手軽なメニューも増加中。「旅行者が欲しいと思うものなら、航空券と宿泊以外、すべてが我々の事業領域になる」(アイ氏)。

よく売れる人気商品の一つは、今や旅行者にとって必需品であるWi-FiのSIMカード。そのほか、空港と都市間のトランスファーや人気観光地への鉄道や各種交通チケットもユーザーからの要望が多く、Klookが今後、拡充していきたい分野だ。

一方、集客を左右するのは、商品の品揃えだけではない。Klookユーザーは「70%以上がモバイル経由。おそらく競合他社より高い比率だろう。必要に迫られて、モバイルでもストレスなく予約できる体制を追求してきたが、結果としてそれが現在の優位性につながっている」(アイ氏)。

旅行者にとって「時間」は付加価値

同氏は、価格と同じぐらい重要なのが、「時間」と「安心」だと話す。ライバル企業では、予約に対し、24時間以内に確定としているところが多いが、Klookは即時確定にこだわる。すでに旅行先に滞在中のユーザーは、予約を「いま」確定したいと考えるからだ。画面もモバイル利用者のUXを意識し、分かりやすく使いやすいよう、かなりの労力をかけてデザインしている。

タビナカ素材の商品開発から携わるケースもある。車両や不動産など「アセットを所有してサプライヤーになる考えはない」(アイ氏)と否定するが、香港ピーク・トラムやバンコクなど複数都市での空港/市内トランスファー、台北の市内観光バスなどで、Klookのロゴマークとコーポレートカラーのオレンジ色にデザインされたバスや電車を仕立てて運行している。いずれも催行会社や観光局とのコラボレーション企画だ。

香港ピーク・トラムでは、一般客とは別に、Klook利用客だけがすぐ並べる列を作ることで待ち時間を短縮。一方、空港/市内トランスファーでは、「バスが見つけにくい」との声に応え、オレンジ色の目立つ車体を用意することを考えついた。ドライバーもオレンジ色のTシャツ姿。旅客に渡しているミネラルウォーターのボトルもKlookロゴ入りラベルを採用。複数都市で同じデザインのバスを展開すれば、利用者の安心感やブランドPR効果にもつながる。

「価格以外の付加価値がある体験を提供したい。多少の金額の差であれば、待ち時間の短縮や、快適な体験の方に価値を感じる旅行者が多いのではないか」(アイ氏)。

決済手段でアジアのモバイルユーザーが好むのはQRコードだが、まだ導入していないサプライヤーに対しては、Klookが色々な形でサポートを行うこともある。香港エアポート・エクスプレスがQRコード決済を導入したときは、Klookもシステム開発に加わり、もちろん真っ先に販売を開始した。中小規模の事業者向けには、スタッフが出向いて外国人接客時のアドバイスをしたり、QRコードを読み取るためのiPhoneやiPadを貸し出すこともある。

「こうしたニーズも、国や地域によって全く異なるので、市場ごとの違いに、常に細心の注意を払い、ローカライズを徹底している」(アイ氏)。例えば米国市場では、iPadはすでに持っているサプライヤーが多い一方、スマホでP2P決済や割り勘が出来るSquare(クレジットカード)のへの関心が高いという。

世界の潮流はチケットレスだが、日本国内は・・・

2020年には五輪開催を控え、訪日インバウンド客の誘致に沸く日本。タビナカ素材という観点から見た日本市場の現状はどうか。

アイ氏は「香港や台湾の旅行者にとって、もともと日本は人気のデスティネーション。Klookのインバウンド市場における送客力が拡大するのに伴い、国内サプライヤーとは良好な関係を築くことができている」と話す。通常、送客市場は一定地域に限られる傾向にあるが、Klookの場合、世界70か国・地域と幅広いマーケットからの送客があることも、国内サプライヤーから見た利点の一つになっている。ただし、Klookの本拠地である香港などは、10回以上も来日しているという“超”リピーター旅行者が多いため「新しく、面白い素材を常に発掘する必要があり、ストーリーやコンテンツ作りが欠かせない」とアイ氏は話す。

Klookでは、コンテンツ作りの一環として、日本政府観光局(JNTO)の協力を得て、香港で注目度の高いKOL(キー・オピニオン・リーダー)を起用したSNSキャンペーンなどを展開している。その際、気を付けていることは「KOLに日本を旅行してもらい、大枠の投稿フォーマットは決めるが、何を書くか、という細かい指示はせず、内容は任せている。まだファンが少ないKOLを選び、投稿への反響も、ファンの数も、だんだん増えていくような展開がお互いにとって最も理想的だ」(アイ氏)。

日本のタビナカ素材は、全般的にクオリティーが高いものが多く、安心というアイ氏だが、外国人旅行者、特にモバイル一つで身軽に旅したいKlookユーザーに不評なのが、JRや小田急電鉄などのレールパスで、完全eチケット化が進まないことだ。いずれも訪日旅行者から需要が多い人気商品だが、現状では、ユーザーは予約した後、Klookや旅行会社のオフィスまでパスを取りに行く必要がある。世界各地の競合デスティネーションと比較した場合、マイナス材料となっているのは間違いない。

最近ではエアビーアンドビー・エクスペリエンスのように、個人によるアクティビティ提供にも注目が集まるが、「Klookは今のところ、プロのサプライヤーが中心。十分によいプロダクトが集まっている。個人提供のタビナカ素材への需要はあると思うが、懸念もある。スケールが限られることや、自治体のガイド制度に抵触しないかなど、見極める必要がある」との見方だ。

タビナカ素材のプラットフォーム事業は、車輪を転がすような側面があるとアイ氏は言う。「スタートアップがまだ無名な頃は、サプライヤーの関心は薄く、在庫も思うように仕入れられない。少し送客すると、在庫を確保してくれるようになり、さらに送客ボリュームが増えると、ようやく色々な交渉、パートナーシップなどの話にも、耳を傾けてくれるようになる」。

サプライヤー側が要望するプライス・パリティー(流通経路に関係なく同一の金額を提供すること)や、現地の法令はあくまで遵守しつつ、「テクノロジーを活用し、今までにない新しい方法、利便性をフレキシブルに見つけていくこと」(アイ氏)が今までも、これからもKlook流のやり方だ。

聞き手:トラベルボイス編集部 鶴本浩司


記事:谷山明子

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