京都市バスのオーバーツーリズム緩和への取組みは? 市民生活と観光客の快適な移動を両立させるチャレンジを聞いてきた

オーバーツーリズムを考える京都取材(連載第4回)

京都の観光では市バスがとても便利だ。南北東西に直線的に走る地下鉄とは違い、目的地の最寄りまで連れて行ってくれる。春や秋の観光シーズンの混雑は以前から話題になっていたが、訪日外国人の増加でさらに拍車がかかった。『オーバーツーリズムを考える京都深堀取材』連載第4回は、混雑解消に向けてさまざまな取り組みを進めている京都市交通局。現状から具体的な対応までを聞いてきた。観光の足が抱えるオーバーツーリズム問題とは?

乗降客は最も込んでいるときで1両140人超え

京都市の市バスは大きく分けると、循環系統、「Raku Bus」と呼ばれるバスが走る観光系統、郊外から市内への系統の3つ。観光系統は、たとえば、京都駅から清水、祇園、岡崎公園、銀閣寺のルートや京都駅から四条堀川、二条城、北野白梅町、金閣寺道のルートなどだ。

1日の乗降客数は、2013年度の平均約32万6000人から2017年度は36万3000人に増加。これに合わせて、路線も2012年度の74系統から2017年度は84系統に、車両数も2012年度の764両から現在は818両に増えた。

現在、混雑が最も深刻な観光系統は京都駅から銀閣寺ルート。最も混んでいるときで1両あたりの乗降客数は平均146人。定員は70人だが、60人も乗れば満杯状態というから、いかに混雑しているかが伺える。一番混雑する時期は3月、ゴールデンウィーク、11月。しかし、最近は混雑が平準化してきたという。京都市では、毎年紅葉シーズンに東山や嵐山で一般車両の交通規制を実施しているが、地元からは「年中混んでいる。通年でやってほしい」という声も聞こえるという。

京都市交通局の澤氏、高見氏、依田氏(左から)

「前乗り先払い、後降り」を来年3月から本格導入

京都市交通局自動車部担当部長の高見孝幸氏は、「交通事業者として実施する混雑緩和は、輸送力の強化、市バスから地下鉄への分散化、そして交通局だけでできることではないが、手ぶら観光の普及の3本柱」と話す。

そのうち輸送力の強化については、昨年10月と12月に「後乗り、前降り後払い」から「前乗り先払い、後降り」に移行する実証実験を実施した。「その結果は、当初の想定通りになった」と高見氏。「先払いにすることで、前と後の両方のドアから降車する動線をつくった。前のドアは狭いが、観光系統の場合、京都駅から乗車する乗客が圧倒的に多いため、それほど途中バス停での支障はなかった」と明かす。結果は実数でも表れ、京都駅を除くと、各バス停の停車時間は12秒ほど縮まり、バスのスムーズな乗降に加えて、交通渋滞の緩和にもつながったという。

交通局では、この実証によって有効性が確認されたことから、2019年3月からこれまでの「前乗り先払い、後降り」を均一230円の観光100系統で本格導入する。まずは100系統で始め、バスの改良の進捗に合わせて、他の観光系統にも導入していきたい考えだ。

バスと地下鉄の併用で混雑緩和へ

もうひとつの取り組みはバスから地下鉄への分散化。京都市は、地下鉄の利用を促進するために「地下鉄・バス1日乗車券」を今年3月に1200円から900円に値下げし、一方バス1日乗車券を500円から600円に値上げした。「地下鉄・バス1日乗車券」を利用することで、たとえば、京都駅から金閣寺に行く場合、北大路駅まで地下鉄で行き、そこからバスに乗り換えるルートも選択できるようになる。

今年3月から6月までの「地下鉄・バス1日乗車券」の売上は前年比で3倍になり、一方バス1日乗車券の売上は落ちていることから、まだ実数の検証はできていないものの、高見氏は「意図した分散化にはつながっているのではないか」と手応えを示す。

このほか、混雑解消の秘策として、特定の季節の特定の路線で無料の地下鉄振替券の提供も実施している。東山方面でやり始めたのが最初だ。自動車部担当係長の澤進一郎氏によると、ピークシーズンには、銀閣寺方面から京都駅に戻る午後3時以降のバスが非常に混み合う。道路も渋滞し、京都三条から京都駅まで1時間もかかってしまうこともあるという。

そこで、東山三条バス停から地下鉄東山駅に乗り換える客に対して、無料振替券を渡した。澤氏は「東山三条でバスを空かせば、その先の祇園や清水寺で乗客を乗せられる」と、その狙いを話す。

今年のゴールデンウィークには同様の取り組みを、金閣寺から京都駅に戻るルートでも始めた。バスで北大路バスターミナルまで行ってもらい、そこから地下鉄烏丸線で京都駅に戻ってもらう動線を促した。外国人旅行者の誘導には課題が残るが、一定の利用があったため、今年の紅葉シーズンでもこの無料振替券を継続する考えだ。ただ、これは対症療法的な取り組み。澤氏は「理想は900円のワンデイパスがもっと普及すること」と明かす。

利用拡大が望まれる地下鉄・バス一日券

なかなか利用が進まない「手ぶら観光」

バス車内の混雑は、宿泊先に向かう外国人旅行者が大きなスーツケースを持ち込むことで拍車がかかっている。

そこで、京都市では民間業者による「手ぶら観光」をサポートしている。京都駅に4ヶ所、嵐山に5ヶ所、宿泊先に荷物を郵送する預かり所を設置しているが、「稼働率は低い」(高見氏)。交通局では、毎月土日や11月全日に京都駅など主要なバス停に「おもてなしコンシェルジュ」ボランティアを置いて、外国人旅行者に手ぶら観光を案内しているが、利用は進まないという。

交通局の調査によると、その理由には「自分の持ち物を手放したくない」「3、4人のグループだとタクシーのほうが割安」「海外では配送業者に対するイメージ悪い」といった意見が多かったという。

特に問題なのは朝、京都駅に向かうバス。ラッシュアワーの時間帯がチェックアウトの時間と重なり、一部の系統では大きなスーツケースを持って乗り込んでくるため、市民からは「乗れない」と苦情も多く寄せられるという。「市民のあいだでも清水や嵐山方面は混むのは当たり前という認識はあるが、いわゆる生活路線でも一部の時間帯で混雑が悪化した」(澤氏)。その原因のひとつは民泊だ。居住地域にある民泊へアクセスするためには、市民の足である生活路線を利用することになってしまう。

京都市では違法民泊の摘発を継続的に実施しており、今年6月には住宅宿泊事業法(民泊新法)も施行。日本一厳しいとされる条例下で、今後の改善が期待されている。

交通局では、将来的には車内にスーツケースを置けるスペースを設けることも検討しているが、車両の改造が必要となってくるため、即効性のある対策とはならない。LCCのように一定の大きさ以上の荷物には持ち込み手数料を取るという考えもあるが、旅行者の理解を得るのは難しく、運用上も現実的ではない。

京都駅のバス案内版も新しく多言語化。

国が訪日外国人4000万人、6000万人を目指しているなか、地方への分散化を進めているが、分母が増えれば、やはり京都を訪れる外国人旅行者も増える。初めて訪れる旅行者はもちろんのこと、リピーターも新しい京都体験を求めて訪れるだろう。ただ、交通機関のキャパシティーには限度がある。しかも、基本は住民のための公共交通機関だ。

観光バスと市民バスを完全に分ける。市民乗車優先レーンを設ける。ベネチアの水上バスのように観光客運賃を高めに設定する。いろいろなアイデアは出るが、乗客を見極め、区別することは不可能に近く、いずれも導入へのハードルは極めて高い。交通局の思案は続く。

取材・記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹

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