京都・嵐山地区のオーバーツーリズムの実態は? ゴミ問題から現地の温度差まで取材した

オーバーツーリズムを考える京都取材(連載第3回)

はるか昔から京都の観光地として名高い嵐山だが、近年では訪日外国人も急増し、時間帯によっては狭いエリアに人がひしめき合う状況が続いている。渡月橋の歩道には自撮り棒を構える観光客が立ち止まり、メインストリートでは食べ歩きの観光客が溢れ、まるで原宿の竹下通りのような賑わいだ。

『京都深堀取材』シリーズ第3回は嵐山保勝会会長の石川暢之介さんのインタビュー。観光客が増えることで、現地に落ちるお金も増えるが、一方で人が増えればそれだけ問題も出てくる。オーバーツーリズムに対する現場の感覚はどのようなものか。長年にわたって嵐山の景観を守ってきた石川さんに聞いてみた。

「外国人が増えたのは、10年ほど前からですかなあ。皮膚感覚でいうと、6割から7割が外国人ですなあ。昔は、夏休み前の梅雨の時期は一番静かなんですが、今はいつでも混んどる」。そのなかでも、やはり春と秋はかなり混雑するという。その時期は、嵐山だけでなく、そこにアクセスする市バスや嵐電の混雑具合も時間帯によってはラッシュアワー並になるという。

嵐山保勝会の石川さん。保勝会は地元の美観を守る活動している。

外国人観光客が増えたことで問題も出てきた。

そのなかでも最も象徴的な問題は、「竹林の小経」での竹林の落書きだ。野宮神社から天龍寺の北側を通り、大河内山荘庭園まで約400mにわたる竹林の小経は、渡月橋と並んで嵐山のシンボル。昔から観光客が多く、実は落書きも散見されていたというが、問題が深刻になったのは、竹に触れられる近さで散策路を整備し、そこに人力車が通れるようになってから。

石川さんは「観光のためにはいいかもしれんけど、美化のためにはよくないなあ」と嘆く。対策として、地元では、人力車の車夫に観光客への注意喚起を促すとともに、多言語での注意書き看板を立てるなどの対策を進めている。

それでも、観光業者は人力車コースに理解を示すが、地元住民からは「なんとかならないか」との声も上がるようだ。住宅地の道幅は狭いため、土日には特に車の出入りが大変のようで、わざわざ混雑を避けて夕方に帰宅する住民もいるという。

竹林の小経への入り口。まるで竹下通りのような混雑だ(2018年4月撮影)JRの踏切で人力車と観光客が交差する(2018年4月撮影)

観光客が増えれば、ゴミも増える

こうした混雑具合は、新たな問題も引き起こしている。ゴミ問題だ。

人が増えれば、それだけゴミも増える。日本では排出者責任という観点や不審物対策の一貫から公共の場でのゴミ箱は少ない。数少ないゴミ箱でも、すぐに溢れてしまい、そこにさらにゴミが捨てられることからゴミが山積みされる結果になるという。石川さんが経営する民芸品店でも、知らぬ間に空のペットポトルが置き捨てられていることが多々あるという。

嵐山にはスタンド型の飲食店も多く、食べ歩きがひとつの楽しみになっているため、ゴミも一緒に「動く」ことになる。「ゴミ袋に広告を入れて、それを観光客に配って、自分のゴミを持ち帰ってもらおう、という案はありましたけど、実現しませんでした」。誰もゴミ袋を持ち歩きながら、観光はしたくない。ワールドカップでは、ゴミを持ち帰る日本人サポーターが話題になったが、その排出者責任を観光客に啓蒙し、実施させるのは現実的ではない。ゴミを嵐山から持ち帰っても、ゴミはそのまま「移動する」だけで、また別の場所でゴミ問題は発生する。

京都市のデータでは、市民1人1日あたりの家庭ゴミの量は402グラムで、他の政令指定都市平均の4分の3。全体の生活ゴミの量も2000年の82万トンから2017年には41万トンに半減したという。地域ぐるみの取り組みやエコ活動によって市民生活のゴミは減少しているが、年間5000万人の観光客のゴミも京都市で処理しなければならないのも確か。石川さんは、「ゴミ箱を設置できないなら、回収頻度を上げてもらえないものか」と行政に要望する。

立場によって異なる現状認識

混雑がクローズアップされる嵐山だが、実は夕方の嵐山は人も少なく静かだ。

しかし、観光客が引いてしまう夕方になるとメインストリートのお店も早々と店じまいをしてしまう。すると、ますます夕方に観光客は来なくなる。一方、嵐山から少し奥に入った奥嵯峨は、昼間でも観光客はまばらだ。「昼間は奥嵯峨に行ってもらい、夕方に嵐山界隈を散策してもらう流れをつくることができれば」(産業観光局の福原部長)と京都市では観光客の、特に訪日外国人の分散化を進めていきたい考えだが、現状は変わっていない。

夕方6時頃の渡月橋は人もまばばら(2018年7月撮影)

「混雑していますが、これ以上外国人に来てほしくないと言っているのではありません」と石川さん。「ただ、現状について観光業者、地元住民、寺社などの間で認識のギャップはあります」と明かす。

もうひとつ、石川さんが懸念していることがある。「しっかりとしたデータを持っているわけではありませんけど、日本人の観光客が減ってるなあと思いますね」。石川さんのお店を訪れた日本人からは「外国人ばかりで京都らしさがなくなった」という声もよく聞くという。

「外国人にも来てもらいたいですけど、それだけでいいとは全く思っていない。相手国の事情や日本での災害などで外国人はピタッと来なくなることだってありうる。そのとき、どうするのかという問題意識は持ってます。そうなったあとで、『日本人の方々、また来てください』と呼びかけても、すぐには戻ってくれないと違いますか」。

外国人観光客の急増によって溢れ出る日本人観光客をどのように食い止めるのか。それも、オーバーツーリズムの課題のひとつだ。

『京都市の深掘り取材』、第4回は京都市交通局。京都観光で需要な足となる市バスでも、訪日外国人の増加でさまざまな問題が出てきた。その対策について聞いてみた。

記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹

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