デジタル活用の観光地域づくりですべきことは? 観光デジタルのプロが語る、下呂温泉の事例に対する「打ち手」から、タビナカ行動の変化、AIタクシーの今後まで聞いてきた

デジタル社会への移行でツーリズムを取り巻く環境が激変する中、そのデジタルの活用が対応必至となっている。2018年9月に開催された「ツーリズムEXPOジャパン2018」のテーマ別シンポジウムではデジタルマーケティングが取り上げられ、岐阜県下呂市の具体的な事例をもとに、プロフェッショナルたちによるICTを活用した観光地域づくりの課題や、日本が今すぐ行うべきことなどが議論された。

パネリストには日本政府観光局(JNTO)の吉田憲司企画総室デジタルマーケティング室室長、エクスペディアホールディングの谷口紀泰地方創生推進室長兼関西・北陸地区本部長、トリップアドバイザーの牧野友衛代表取締役、下呂温泉協会の瀧康洋会長の4氏が登壇。モデレーターはトラベルボイス代表の鶴本浩司が務めた。基調講演はNTTドコモの谷直樹執行役員法人ビジネス本部IoTビジネス部長が「AIを活用した次世代2次交通システムの取組み」をテーマにおこなった。

AI活用による2次交通再現で新ビジネス創出

NTTドコモ 谷直樹氏

基調講演に登壇したNTTドコモの谷氏は、観光や生活に不可欠な移動の社会的課題について、「観光ではインバウンドの急増を含めた交通集中による渋滞、生活では高齢者による事故が増加している。ドアtoドアで便利な移動を実現するためには、まず2次交通の再生が必要だ」と指摘した。

デジタル活用で、どのように2次交通を再生するのか。

谷氏によると、ドコモは携帯電話ネットワークの仕組みを利用してマクロな移動を把握し、AIを加えることで広域での数時間先の近未来人数をリアルタムに予測している。「移動の把握・予測が、マーケティングから災害時の効率的な避難誘導まで、あらゆる活動の向上につながる可能性を秘める。簡単にいうと、AIによって少し先の未来が予測できるようになった」(谷氏)。

ドコモの次世代モビリティの取り組みについては、AIタクシーとAI運行バスの事例を紹介。AIタクシーは、従来ドライバー個人の経験と勘に頼っていたものをAIによりコンピュータ上に再現し、2018年2月15日から商用サービスを開始している。また、AI運行バスは会津若松エリアをはじめとした各地で実証実験を実施。AIが利用者の移動を予測しながら供給の最適化を目指すもので、会津若松ではマイナーな観光名所の訪問者が平均2.3倍増えるなど、交通の空白地点を埋めるとともに回遊性が向上している。

谷氏は「AIの活用による2次交通の再現は、運賃収入だけでなく、商業施設の送客につながり非運賃収入も増える。移動とサービスをかけ合わせ、新しいビジネス、価値を創出できる」などと語った。

旅行形態の変化にはデジタルが不可欠

下呂温泉協会会長 瀧康洋氏

先進ICTを活用することで、地域の強みをより活かす地域活性と地域に応じた課題解決の可能性が広がる――。谷氏による提言を受けておこなわれたのが、「ICTを活用した観光地域づくりのあるべき姿を考える」をテーマとしたパネルディスカッションである。日本三大名泉のひとつである岐阜県・下呂温泉の事例をもとに、デジタル分野のプロフェッショナルたちが討論した。

まず、下呂温泉観光協会の瀧氏が、2017年に認定を受けた下呂市DMOの取り組みについて説明。「近年は旅行形態の変化のスピードが速い。予算をターゲットごとにうまく分配してプロモーションしたり、温泉以外でもアプローチしたりするためにデジタルマーケティングの必要性を痛感している」との問題意識を提起した。

下呂温泉のデジタルの取り組みについては、30年前から取っている宿泊データをもとにプロモーションを立案するとともに、2017年から旅館のフロントに代わるAIコンシェルジュ、GPS機能付きのレンタサイクルを導入していることを紹介。「今後はAIチャットのデータなども分析しながらプロモーションしていきたい」との考えを示した。

体験型アクティビティの販売体制を即急に

これに対しプロフェッショナルたちからは、近隣で欧米豪をはじめ顧客層が幅広い高山市との連携をもっと強化すべきだとの声が相次いだ。トリップアドバイザーの牧野氏は「下呂は高山からの入込客数が多いのに、顧客層が東アジア中心になっている。デジタルで得られたデータを精査しながら、ターゲットを広げるべき」と指摘。また、地域への誘客には体験型アクティビティが欠かせない存在になっている一方で、日本はオンライン予約の仕組みが他国に比べ整っていないとの課題を挙げ、「プランニングだけでなく、販売体制を即急に確立しなければならない」と提案した。

エクスペディアホールディングの谷口氏は、エクスペディアにおける下呂と高山の予約動向を比較しながら、「宿泊数は高山が下呂の6.1倍、連泊数も1.2倍の差がついているのに対し、客単価は下呂が高山より1.5倍高く、1泊2食付きが多いためだと考えられる。2食付きを減らせば最終的な収益が上げられるのか。デジタルを活用すれば、受注予測も見える化できる」と話した。

谷口氏によると、宿泊施設の在庫の出ている日数は、ベトナムの418日をはじめ多くが1年以上なのに対し、日本は6カ月管理が主流。「独自に進化してしまい、私たちはガラパゴスと呼んでいる」と苦笑しつつ、「1年先に日本の桜を見たいと思って検索しても、在庫が出てこないから他の国・地域に流れてしまう。マーケティング効率が非常に悪い」と苦言を呈した。

さらに、デジタルマーケティング最大のメリットとして販売料金の最適化を挙げ、「一般か会員か、連泊日数、早割、返金販不可など、条件に応じて針のように根づけをめぐらせることで、さまざまなターゲットにアプローチできる」と力説した。

検索にすら出てこない時代が来る

観光戦略実行推進タスクフォースの提言を受けて、日本政府観光局にも2017年10月にデジタルマーケティング室が設置された。JNTOの吉田氏はデータを分析しながらサイトのコンテンツ拡充を図っていくとしたうえで、「デジタルの定量調査を重視する一方で、オフラインの旅行会社招請、マート出展などとのバランスが重要」と言及。「デジタルはメディアのひとつではなく、マーケティング全体の基礎。専門組織だけが注力すればいいと思われがちだが、組織全体の資産として使っていくことが大切だ」との考えを示した。

これらの現状を踏まえたうえで、旅行×デジタルではこれから何が起こり、何をしなければならないだろうか。トリップアドバイザーの牧野氏は「デジタルのトレンドはAI、自動運転など範囲が広がっている。観光産業では観光不足も大きな課題で、新しいテクノロジーでいかに解決するか。2次交通のシェアリング、オペレーションの自動化をはじめ、それぞれ地域の取り組みが特性として認知されていくと、面白いことが始まるのではないか」と期待を寄せた。また、モバイル、AI、音声での予約、チャットの4つを挙げたのはエクスペディアの谷口氏。「デジタルの進化が現実になる前にしっかりマーケティングしないと、検索にすら出てこない時代が来る」との危機感をあらわにした。

具体的な事例をもとにした熱い議論の最後には、モデレーターを務めたトラベルボスの鶴本が「SNSの進展でこれまでとは違うタビナカの消費行動が高まるとともに、旅行の購買プロセスでは、デジタル客室鍵、AR(拡張現実)を活用したサービスなど、未来予想図がすでに始まっているものもある。地域もAI、ICTを組み合わせた試みを有効に使うことが重要だ」とまとめた。


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