小型プロペラ機がローカル路線で活躍する理由とは? 航空5社のフライトに乗って九州・沖縄の離島めぐりを取材した【前編】

【秋本俊二のエアライン・レポート】

大型ジェット旅客機で欧米などへ飛ぶ豪華なフライトもいいけれど、たまには国内ローカル航空の小型プロペラ機で短い、のんびりしたフライトを体験してみるのも楽しい。そのおすすめの一つが、九州・沖縄エリアの離島めぐりだ。オリエンタルエアブリッジ(ORC)、日本エアコミューター(JAC)、天草エアライン(AMX)、日本トランスオーシャン航空(JTA)、琉球エアーコミューター(RAC)での島旅を取材した。前編は、長崎と天草を発着するフライトから──。

ORCで長崎から壱岐・対馬へ

玄界灘に浮かぶ壱岐と対馬。この二つの島へは、福岡県の博多や佐賀県の唐津から多くの便が運航されているフェリーを使うのが一般的だ。けれど壱岐も対馬も長崎県の離島である。長崎からアプローチする場合はまず鉄道で博多などへ向かわなければならない。そこから船に乗り継ぐとなると、壱岐までは計3~4時間、対馬までは4~5時間かかってしまう。その点、オリエンタルエアブリッジの空の便は便利だ。

日本には6800を超える数の離島があるという。そのうち人が暮らす有人島は300以上。そして有人島のうちの51島が、長崎県に属している。オリエンタルエアブリッジは、全国一の離島県であるその長崎をベースに、県内の離島を結んできた。現在は長崎/壱岐、長崎/対馬、長崎/五島福江を中心に、毎日22~24便の定期便を運航している。

壱岐も対馬も、長崎空港からはわずか30分で到着する。どちらの路線も、長崎県民や島民にとっての大切な生活の足として機能してきた。長崎から壱岐へは通常ダイヤでは1日に朝夕2便が、対馬へは1日に4便が飛んでいる。使用機材は定員39名の小型プロペラ機ボンバルディアDHC-8-200。長崎空港では、搭乗ゲートから徒歩でエプロンを進み、駐機している飛行機に搭乗する。夏場には「暑いなかご苦労さまです」と、客室乗務員が冷たいおしぼりを手わたしてくれるのがありがたい。座席前のシートポケットにはうちわも用意されていた。

オリエンタルエアブリッジが運航するDHC-8-200

朝一番の便で、壱岐に向かう。大村湾に浮かぶ島とその周辺を埋め立てて世界最初の「海上空港」として建設された長崎空港を離陸すると、ほぼまっすぐに北上。左手に佐世保の街並みを眺め、さらに伊万里上空を通過してふたたび海上へ出る。九州本土と島とを隔てる壱岐水道をわたりきると、壱岐島の南東に位置する壱岐空港が見えてきた。

対馬への便も壱岐まではほぼ同じルートを飛ぶ。壱岐上空にさしかかると、針路を北西に。左手に島影があらわれ、眼下にリアス式の浅茅湾の景色を楽しみながら、やがて島の高台にある対馬やまねこ空港に到着する。対馬に生息する絶滅危惧種「ツシマヤマネコ」の名を冠した愛称が空港につけられた。降機の際には客室乗務員から「搭乗の記念に」とメッセージが添えられたポストカードが手わたされる。

オリエンタルエアブリッジは、五島列島の空の玄関口である福江空港にも1日3便を運航している。この路線も、機窓からの景色が美しい。長崎空港を飛び立って間もなく、大村湾や西彼杵半島周辺の景観が目に飛び込んでくる。シートポケットにある同社オリジナルのルートマップで現在地を確認しながらのフライトも楽しい。乗客には、客室乗務員たちの手書き原稿をもとにつくられたハンドメイド地図が配られる。長崎県の主な教会やキリスト教にまつわる歴史なども解説され、これで旅の予習もばっちりだ。初めて訪れる人には、島の見どころやおすすめのグルメ情報が役に立つ。

客室乗務員たちがつくったハンドメイド地図

小型プロペラ機を運航するメリット

さて、ローカルな路線を担う航空会社は、なぜジェット機ではなく小型プロペラ機をメイン機材として使用するのか? これは日本の空のネットワークには「近距離輸送」と「多頻度運航」という二つの大きな特徴があるからである。

日本の国土は縦長で、北海道から沖縄までは約3200キロあり、飛行時間もジェット機で4時間程度はかかる。しかし、こうした路線はあくまで例外だ。東京や大阪を拠点に地方都市などへ飛ぶ場合は、1時間から2時間程度のフライトで到着できる路線が圧倒的に多い。1時間以上のフライトならジェット機使用のメリットはあるが、地方都市と地方都市をむすぶ路線や離島線ではどうか? ローカル路線では、1回のフライトで常に100人以上が乗るというケースはまずない。ジェット機ほどの「輸送力」も「速さ」も不要である。

物理的にジェット機が就航できない空港もあるが、ジェット化整備を進めた地方空港でも、相変わらず小型プロペラ機も活躍している。ジェット機だと1日1往復しかできないのなら、輸送力は半分で飛行時間が倍かかっても、コストの安い小型プロペラ機を1日に3~5便飛ばすほうが航空会社にも利用者にとってもメリットは大きい。

小型プロペラ機でのフライトがむしろ好きがという利用者も多い。前述したオリエンタルエアブリッジの客室乗務員は「当社が運航する高翼機のダッシュエイト(DHC-8-200)は、どの席からでも海や島の美しい風景をお楽しみいただけます」と話す。

飛行機はどれくらいの高さ(高度)を飛ぶのか? これは機種によっても、またその日の気象条件によって少しずつ異なるが、大型ジェット機では通常の巡航高度は1万メートル以上だ。そのエリアを飛ぶのがもっとも効率的だといわれている。それが小型プロペラ機になると、飛ぶ高さはおおむね3000~5000メートルに。つまり大型ジェット機の半分から3分の1程度の高度を飛行する。せっかく窓側席をとっても、ジェット機だと窓から見えるのは雲海ばかりでがっかりという経験があるだろう。雲があらわれる高さは5000~1万メートルという日が多いので、小型プロペラ機ならだいたい雲の下を飛んでいくことになる。窓からの視界が雲に遮られることなく、景色を満喫することができるのだ。

ジェット機の半分の高度を飛ぶので機窓からの景色も迫力満点

飛行機はまた、機種によって主翼がついている場所が違う。ジェット旅客機の多くは「低翼機」といってボディの低い位置(下のほう)に主翼があるから、主翼の近くの席だと下界の景色がまったく見えない。その点、オリエンタルエアブリッジのDHC-8-200や最近日本にも導入された新しい48人乗りのATR42-600は、翼が胴体の上に乗っている「高翼式」と呼ばれるタイプの飛行機である。高翼式は胴体の開口部を大きく設計することができ、荷物を積み下ろすときに翼が邪魔にならない。主翼に装備するエンジン(プロペラ)も高い位置にくるから、ボディの地上高を低く設計でき、空港での乗り降りもラクラクだ。さらに機内のどの席からも主翼に邪魔されず景色が楽しめるとあって、空の散歩にはうってつけの飛行機なのである。

主翼が胴体の上に乗っている「高翼プロペラ機」

1日10フライトを1機のATR42-600で

それまで日本では馴染みのなかったATR42-600という高翼機を最初に導入したのが天草エアラインである。熊本県と天草地域2市1町などが出資する第三セクターとして1998年10月に産声を上げ、2000年3月から運航を始めた。小さな港町の小さな航空会社だ。

ATRはフランスのエアバスグループとイタリアのレオナルドの共同事業体として1981年に設立されたリージョナル航空機メーカーだ。その代表機種のひとつがATR42-600で、天草エアラインは古くなったDHC-8-100の後継機としてこれを選択。2016年2月より運航を始めた。ボディを親イルカに、左右の主翼に装備されたふたつのエンジンを双子の仔イルカに見立てた機体デザインでファンを増やしている。

ATR42-600のキャビンをのぞいてみると、シートは通路を挟んで2席ずつの計48席でレイアウト。客室デザインは世界的に有名なジウジアーロが手がけた。貨物室がキャビン後方ではなくコクピットとのあいだに設置されているのも特徴で、乗客は後方ドアから乗り降りするのもユニークだ。

天草エアラインが2016年2月から導入したATR42-600

天草エアラインが保有するのは、そのATR42-600をわずか1機のみ。1機をやりくりして、天草/福岡、天草/熊本、熊本/伊丹の3路線で毎日10便を運航している。

第1便は朝7時55分に本拠地の天草空港を出発。福岡を往復して帰ってくると、次に向かうのは熊本だ。熊本からは大阪(伊丹)へ飛び、反対ルートで午後3時過ぎに天草に舞い戻る。ここまで6区間を運航したところで、乗務員が交代に。その後は福岡を2往復し、19時40分に天草に帰ってきて、ようやく1日の仕事が終了となる。

航空会社では、飛行機の安全性を確保するための定期的な重整備や、パイロットの訓練が必要である。天草エアラインは1機しか保有していないため、重整備やパイロット訓練の期間中は全面運休を余儀なくされてきた。

しかしローカル路線は、地域の人々にとっては生活を支える大切なインフラでもある。運休により利用者に迷惑がかかることを避けるため、天草エアラインは2018年6月より同じATR42-600を運航する日本エアコミューターと業務提携を実施。重整備などの期間中は、日本エアコミューターのATR42-600を共通事業機として運用することをスタートした。

天草エアラインと日本エアコミューターのようなグループの垣根を越えた協業体制構築の動きは、さらに拡大しつつある。国土交通省航空局は2018年12月に「地域航空の担い手のあり方に係る実務者協議会」の結果を公表した。九州エリアについて2019年度内にANAとJALの大手2社をはじめ、天草エアライン、オリエンタルエアブリッジ、日本エアコミューターの九州地域航空会社3社による系列を超えた「有限責任事業組合(LLP)」の設立を目指すことで合意。今後、経済改善効果の試算やコードシェアによる収益性向上、運営ルールづくりを模索して検討を始めている。

離島路線やローカル路線は、採算ぎりぎりで運営されているケースが少なくない。こうした協業の動きは今後、北海道エリアなどにも広がっていきそうだ。

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。

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