未来の旅行を形づくる主力トレンド2019発表、アジアは「本物」「ローカル」「ユニーク」志向に拍車、革新企業の事例も

国際的な市場調査会社、ユーロモニターインターナショナルはこのほど、英国ロンドンで開幕したワールドトラベルマーケット(WTM)で「未来の旅行を形づくる主力トレンド:2019版(Megatrends Shaping the Future of Travel: 2019 Edition)」と題した最新レポートを発表した。

同レポートは、世界のトラベル分野における注目の動きと、その背景にあるトレンドや消費者行動に関する全般的な傾向や、ヨーロッパ、アジア、南北アメリカ大陸、中東アフリカの地域別特徴を分析したものだ。

「本物」「ローカル」「ユニーク」志向に拍車

最新レポートによると、2024年までの世界の旅行販売高は、年平均で3.3%増の成長率となり、市場規模は3兆ドルを突破。このうち52%と最大シェアをオンライン市場が占め、なかでもモバイル経由での予約高が全体の4分の1を占めると予測している。

人数ベースでは、海外旅行人口(受け入れベース、国際到着客数)は2024年までに18億人、国内旅行はこれを大きく上回る190億人に達する。新興市場における所得増に支えられ、海外旅行者数は平均年率4.3%増、国内旅行者数は8%増での成長を見込む。

旅行者一人当たりの平均支出額は、物価圧力により微かに上昇。2019年の1088ドルから、2024年には1101ドルに伸びると試算している。受け入れデスティネーション側が持続可能な観光モデルへとシフトする傾向も、価格上昇の一因としている。

消費対象がモノよりもコトに向く傾向はさらに強くなり、旅行産業には追い風に。2019年度の調査では、回答を得た世界の消費者の43%が「モノよりも体験を優先する」、78%が「リアルな世界での体験に価値を感じる」と答えた。「本物」「ローカル」「ユニーク」な体験への関心が高まる傾向は、旅行分野でも顕著と指摘している。

以下、レポートの中からアジア市場に関するケーススタディや考察を紹介する。

アジア市場は「イノベーションのハブ」、引き続き成長基調に

アジア太平洋市場についてみると、世界的な経済成長の鈍化は影響するものの、引き続きプラス成長を堅持するとの予測に。2019年から2024年までの海外旅行者数は、年平均成長率が6.4%増で推移し、2024年までに5億人を突破すると予測している。ただし香港で続く民主化デモや、米中間の貿易摩擦が長期化すれば、リスク要因となる。

アジアの旅行市場で特徴的なトレンドとして、同レポートを手掛けたユーロモニターの旅行産業担当マネージャー、キャロライン・ブレムナー氏がまず挙げているのは「イノベーションのハブ」となっている点だ。その背景として、世界のインターネットユーザーの半分を抱えるマーケットであり人口に占める若年層シェアも高いため、多くの企業にとって新プロダクトを試す場となっていると考察。さらに利用者のエンゲージメントを維持するために、「常に何か新しいこと」が求められるプレッシャーが強い市場でもあると言及している。

また、アジアの消費者は、生活がよりシンプルに便利になることへの期待が大きく、調査回答者の65%が、モノやサービスを購入する際に、この点を重視していると答えている。こうした傾向を端的に表しているのがモバイル支持の高さだ。アジア市場では、2024年までにオンラインでの旅行販売高のうち64%がモバイルおよびアプリ経由になる見込みで、世界平均の46%を大きく上回る勢いだ。

なかでも「最もイノベーション志向」な国として、シンガポール、韓国、日本、中国の事例を挙げている(コーネル


大学、INSEAD、世界知的所有権機構(WIPO)による調査『グローバル・イノベーション・インデックス』より)。

例えば2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会は、イノベーション発信の場としても注目されると指摘。「羽田空港ではロボットが利用客を助け、重労働をアシストする外骨格型パワースーツを着たスタッフが活躍する」と同レポートでは紹介している。

一方、デジタル革命の先頭を走る中国では、アリババやフリギーが運営する「フライズーホテル」でAIによる顔認証技術を採用。客室に入る時やエレベーター利用時には、生体認証が利用されている。

アマゾンが旅行業に再挑戦する場に選んだのがインドというのも興味深い、と同レポートでは指摘。同社はクリアトリップ(ClearTrip)と提携し、アマゾンのウェブサイトやアプリ経由で、インド国内航空券の予約サービスを開始している。

そのほか、アジアのイノベーションで好事例として以下の2社をあげた。

ケーススタディ:OYO(オヨ)

旅行分野におけるスタートアップの成長が著しいのもアジア市場の特徴だ。例えばオヨ(OYO)ホテルズ&ホームズは、インドで2013年に創業したリースおよびフランチャイズ契約のホテルチェーンだが、アジアを中心に急拡大中で、すでに18か国の800都市に100万室のホテルおよびバケーションホームを展開。25歳の若き創業者、リテシュ・アガルワル氏が率いる同社は、ソフトバンクやチャイナ・ロッジング・グループから資金を獲得すると、テクノロジーやAIに多額を投資。物件マネジメントから室内デザインの選定、宿泊客のクチコミ分析、チャットボット・サービスまで、広い分野に役立てている。

アジア太平洋地区におけるバジェットホテル(実用的な機能重視で比較的安価なホテル)市場は、2019年時点で320億ドルと世界全体の半分弱を占め、2024年まで年平均1.9%増での成長が見込まれている有望分野。ここに斬り込んでいったオヨでは、自社が手掛ける物件の75%以上で、稼働率が20~30%増、稼働客室当たり売上は2.5%増としている。

ケーススタディ:Klook(クルック)

もう一つの注目企業、タビナカのアクティビティ予約事業をおこなうクルックは、香港発のユニコーン。アジアだけでなく、欧州や東京五輪を控えた日本など、ビジネスのグローバル展開を加速している。モバイルに特化したプラットフォームを構築し、現地滞在中に発生するニーズを狙う戦略により、新しい顧客層の開拓に成功した。

アクティビティ・体験市場は、世界全体で2019年の2960億ドルから2024年までに3460億ドルに拡大すると予測されており、平均年率は3.2%増。この分野に参入する企業も増え、トリップアドバイザーを始め、エクスペディア、エアビーアンドビー・エクスペリエンス、フェアハーバーを買収したブッキングドットコム、OTA各社(Traveloka等)、旅行会社(TUIのMusement等)、ホテルチェーン(マリオットのモーメント、IHGのゲストサービス等)などが名乗りをあげている。

問題は、アクティビティ市場はホテルや航空券に比べて単価が低く、多数の小規模ビジネスで構成されている点だが、その分、購買機会は多くなる。飲食店やレンタルスペースなど、日常生活で使うサービスを組み合わせ、利用拡大を図ることがカギになる。

日常から旅行まで網羅する「スーパーアプリ」

スマホ利用率が高く、便利さが追求されるアジア市場で台頭しているのが「スーパーアプリ」だ。これはアプリの中に、さらに様々なミニアプリが入っている形態で、もともと中国のテンセントによるメッセージングアプリ「ウィーチャット」が打ち出したコンセプト。その後、美団点評(Meituan Dianping)、グラブ(Grab)、ライン(LINE)、ゴジェック(Gojek)などもスーパーアプリと呼ばれるようになった。

共通しているのは、複数のサービスをシームレスにまとめて提供し、決済できること。中心となるサービスは、メッセージングや配車など日常生活に便利なものだが、取扱い内容を増やすなかで、旅行関連プロダクトも充実。企業にとっては、これまでにない新しい販売手段であり、若年層の消費者の取り込みにも役立つと期待されている。

ケーススタディ:ゴジェック

ゴジェックは2011年にインドネシアで創業したバイクの配車アプリで、25都市で20万人のドライバーが登録。現在では、メッセージング機能など、計18分野にサービスを拡大している。

ケーススタディ:美団点評

中国の美団点評は、同じテンセントを親会社とするウィーチャットと決済で連携しており、蓄積するデータは、購買動向の分析にも役立っている。もともと飲食店レビューやフードデリバリーのアプリだったが、2015年から旅行関連サービスにも参入。レストラン、ホテル、現地アクティビティ、交通サービスに加え、2017年からグループ会社で民泊も扱っている。ターゲット顧客層はミレニアルズやZ世代など、若い消費者層だ。

ケーススタディ:LINE

日本で最も人気あるLINEも、「メッセージングアプリから日常生活を支えるインフラ」への進化を目指す。アプリ内で利用できるサービスの種類を拡大しており、その一つが、ベンチャーリパブリックによるメタサーチ「LINEトラベルjp」。同サービスではユーザーの現在位置を使った店検索など新サービスを増やし、取扱高の伸び率が3ケタ増を記録している。

また、LINEはRNTホテルズと提携し、AIやチャットボットによる宿泊客向けの各種サービス提供も開始。客室の照明やテレビ操作、雨天の日に何をしたらよいかを提案するサジェスト機能も提供している。

ケーススタディ:グラブ

2012年にタクシー配車アプリとして始まったシンガポールのグラブも、今やあらゆる日常的なサービスを網羅している。2018年には独自の決済機能「グラブ・ペイ」とフードデリバリー「グラブ・フード」をスタート。さらに米ウーバーの東南アジア法人を獲得した。旅行関連では、シンガポール政府観光局と3年間のパートナーシップ契約を結び、観光客向けに自社のオンデマンド交通サービスや、グラブ・ペイによるキャッシュレス決済の利用を訴求している。蓄積したデータは、訪シンガポール旅行者の行動や消費パターンの把握にも役立っている。

同レポートは、世界各地での消費者調査と専門家1000人以上による分析を行い、2030年までの近未来について、計8つの長期的なメガトレンドを予測。旅行産業や消費者へのインパクトを考察している。レポートの詳細は以下から参照できる。

「未来の旅行業界を形づくるメガトレンド:2019版(Megatrends Shaping the Future of Travel: 2019 Edition)」(著者:トラベル産業担当マネージャー キャロライン・ブレムナー)

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