DMOが今すべきは、「事業計画をすべて一旦白紙」にすること、コロナ禍に対応する「7つの提言」をまとめた【コラム】

こんにちは。観光政策研究者の山田雄一です。

コロナ禍によって未曾有の事態となっているホスピタリティ産業と、観光地域。観光を成立させる根幹である需要を相当の期間に渡って「喪失」することが「確定」しているという状況は、最悪といってよいでしょう。

率直なところ、この状況で「勝つ」ことはもはや困難であり、ともかく「生き抜く」ことが必要となります。その生存確率を高めるポイントは、官民連携とパートナーシップです。事業者単体では生き残ることは困難であり、財務構造の異なる行政の支援が不可欠だからです。しかしながら、行政は本質的に民間事業の勘所は持ち合わせていませんから、中間組織となるDMOが官民パートナーシップの要となります。

その意味で、DMOが2020年度に何に取り組むのかということは、非常に重要な選択です。

そこで本稿では、私の独断(いつもそうですが)で、2020年度のDMO事業計画を提言してみようと思います。

私の提言は、以下の7項目です。

  1. 事業計画はすべて一旦白紙にする
  2. 事業者の代理人となる
  3. 感染症対策をすすめる
  4. デジタル化をすすめる
  5. 環境対策をすすめる
  6. 地域にフォーカスする
  7. 拙速な集客活動は行わない

1. 事業計画はすべて一旦白紙にする

まず、2019年末くらいから温めて組み立てた2020年度事業計画は、一旦、全て白紙にしましょう。事業の前提が根本から変わってしまったのですから、「何をすべきか」「何をするべきではないか」は、ゼロベースで再検討が必要です。

極端な例ですが、例えば、観光案内所の運営は必要でしょうか?

観光客が半分以下まで減少することを考えれば、従前のスペックで観光案内所を開く必要性は低いでしょう。開くとしても土日だけでも十分ではないでしょうか。

また、国内外の観光プロモーションは、当面、実施する必要はありません。ポスト・コロナの世界ではマーケティング、ブランディング・コンセプトも大きく変化させる必要があるため、実施しても無意味だからです。関連して、インフルエンサー招聘とか、ファムトリップも意味がありません。

特に訪日客については、しばらく頭の中から、一切合切、捨て去りましょう。

顧客維持のため、ウェブサイトやSNSは維持するとしても、これもポスト・コロナでのコンセプトが設定できなければ、全力投球ができません。やり方を間違えるとミスリードにもなるからです。

まずは、一旦全てを白紙にし、コロナ禍に対応する事業を展開させる原資を確保することが必要です。

2. 事業者の代理人となる

並行して求められるのは、事業者に寄り添い、事業者の代理人となることです。

地域のホスピタリティ産業クラスタを構成する事業者の多くは、中小企業であり、フリーランスのような個人事業者も少なくありません。

そうした事業者の人たちが、国や政府系金融機関などから散発的に提供される支援策を十二分に活用できると期待することは困難です。各事業者からすれば、どういう支援策が使えるのか、どう申請するのかなど「わからないことばかり」だからです。

DMOとしては、これらの支援策についてウォッチし、域内の事業者に咀嚼して伝えていくことが重要でしょう。場合によっては、代書や作文の指導も展開したいところです。

また、グループ補助金のように、個別企業では対応できず、集団をつくることが必要なものもあります。こうしたタイプの支援策に対応するには、核となってリーダーシップを張る存在が必要になります。

支援策への対応は、商工会議所や商工会に任せているという地域も多いでしょうが、観光のことを最もわかるのはDMOであり、その役割を果たすべきでしょう。

そして、必ずしも国などの支援策は、現場に即したものとはなりません。そういうズレやギャップを事業者から吸い上げ、「上」にあげていけるのもDMOであるはずですし、場合によっては市町村に対して独自の対策を働きかけるのも、DMOの役割と考えます。

このほか、産業維持のため、DMOが産業に対して業務発注を行うという取り組みも検討したいところです。例えば、ウェブデザイナーや映像クリエイターは業務激減となりますが、彼らに以下に上げるような取り組みについて記録してもらい、発信してもらうという業務を発注することで、事業を支えることはできるでしょう。

また、ホテルなどの職員に、通りや広場の清掃業務や草刈りを発注するとか、飲食店の料理人に市民向けカルチャーセンター(ネット配信で構わない)での料理教室をやってもらうとか、外国人スタッフに語学教室をやってもらうとか、地域の人材にお願いできることは多々あるでしょう。

いずれにしても、DMOには、事業者に寄りそい、行政と民間の間にはいって対応していくことが求められています。

3. 感染症対策を地域ですすめる

取り組み予算を確保し、事業者の経営支援の体制を作ったうえで、取り組むべき事項は「感染症対策」です。

コロナ・ウイルスは、撲滅できません。

ワクチンや治療薬ができるのは当面先のこと。「仮」に、ワクチンなどができても、コロナ・ウイルスは存在しており、我々はコロナと共存し続ける必要があります。

さらに言えば、SARSやMARSのことを考えれば、10年を待たず、また、コロナのような感染症(ウイルス)が襲ってくると考えた方が適切です。

そのため、「感染症対策」は、すべての観光地、観光施設において、恒久的に必須の取り組みとなります。

現時点でも、従業員の健康管理や消毒といったソフト的な取り組みが展開されていますが、こうした取り組みは、どちらかと言えば「非常時対応」です。

しかしながら、今後は、感染症対策に恒久的に対応するという視点から、全てのオペレーション、サービスデザイン、空間デザインを見直し、新しくデザインし直すことが必要でしょう。

しかも、こうした取り組みは、施設単体だけで取り組んでも意味がありません。顧客は地域を訪れている際、様々な施設、サービスと接点を持つわけですから。

DMOには、バラバラとなりがちな各事業者の意識や取り組みについて、一定の基準やガイドラインを示し、事業者の取り組みを誘導することが求められると考えることができます。

これに加えて重要なのは、こうした感染症対策の取り組みを「見える化」することです。感染症対策の第1の目的は、もちろん、感染を広げないことにありますが、観光地では、さらに、そうした取り組みを地域全体で展開していることを顧客に示すことが必要です。その取り組みの事実が、顧客に伝わらなければ、顧客に安心してもらう、信頼感をもってもらうことにはつながらないからです。

感染症対策だけなら保健所などでも対応できますが、顧客に伝えることはDMOでなければできないのです。

4. デジタル化をすすめる

感染症対策と合わせて求められるのは、全面的なデジタル化です。

コロナ禍は、世の中の、オンラインへの移行を大きく加速化させていきます。ある意味、究極の感染症対策は、他者との物理的な接触を断つことだからです。

例えば、大学の講義はその多くがオンラインに切り替わりましたし、海外では小中学校もオンラインに切り替わりました。業務出張もフェース・トゥ・フェースな対面形式から、オンラインへ強制的に転換しています。

これまでのデジタル化の主体は、地域内の様々なことをデジタル化し、オンラインに乗せるというデータのオンライン化でしたが、今回のコロナ禍によって、コミュニケーションもデジタル化、オンライン化が進展するということです。

観光は、リアルな人の移動があってこそですが、まずは、世の中のデジタル化、オンライン化の流れに自分自身が乗らないことには、その先の展望は見えてきません。

デジタル化とオンライン化が進む中で、それでも「旅行したい」という需要、欲求はどうやって生み出せるのか。自分たち自身が、その只中に入らなければ、ソリューションも見えてはきません。

例えば、今回のコロナ禍によって、バスなどの公共交通機関を避ける傾向がある中、limeなどのシェア・スクーターに勢力拡大の動きがあります。おそらく、フロントを介さずにホテルにチェックインし部屋に入ることのできるスマート・キーや、Uber Eatsのようなデリバリーシステムも普及することになるでしょう。これらを有効に活用するには、地域側がそれらのサービスを使いこなしておくことが必要となります。

地方部や地方であるが故に都市よりも「不便」であることを公言しても許される部分があります。しかしながら、こと、デジタル化、オンライン化については、それは供されないことになっていくでしょう。

デジタル、オンラインは、ポスト・コロナにおける必須条件だと認識しておきましょう。

さらに、危機が訪れた際には、地域に対してロイヤルティを持っている顧客セグメントが重要な鍵を握ります。が、彼らとのコミュニケーション・チャンネルを持っていないと、地域から彼らにメッセージを送ることができません。常日頃から、オンラインでのコミュニケーションを当たり前のように活用していなければ、危機の際にも使いようが無いということです。

また、今回に限らず危機が訪れた際に直面するのは、現場で何が起きているのかわからないという現象です。もちろん「客が減った」ということは解りますが、どういうセグメントの客がどれだけ減ったのか。予約状況(キャンセル状況)はどうなのかということは、そう簡単にわからない。なぜなら、そうしたデータを、もともとデイリーに近い形で行政やDMOが取得していないからです。

そのため、データに基づいて対処方法を検討することができず、「肌感覚」での対応となってしまいます。

これを機会に、全面的なデジタル化へ舵を切りましょう。

5. 環境対策をすすめる

感染症対策やデジタル対応と並び、ポスト・コロナにおいて必須となるのは「環境対策」でしょう。

コロナ以前から、環境は大きな注目を集めていましたが、コロナによって強制的に人の移動が止まったことで、いかに人が移動し、滞在することで、環境に負荷をかけていたのかということが浮き彫りになってきています。

実際、ベネチアでは、観光客が激減した結果、水路の水質が浄化しているという指摘がされています。

飛行機も多くが休止し、都市の灯は落ちています。図らずも、グレタさんが提唱した世界が現出されつつあるわけです。

コロナ禍がここまで拡がったのは、国際化が一因であることは間違いありません。そのため、ポスト・コロナにおいて、世界は少なからず孤立主義、非国際化の方向に向かうと思われます。環境問題は、そうした「内向き」の動きと相性がよく、互いに補強しあう関係となることが予想されます。

つまり、環境に対する意識は、ポスト・コロナにおいて加速的に厳しくなっていくことでしょう。

こうした動きに対して、観光リゾート地域は対応していく必要があります。

人が何らかの活動をする以上、環境へ負荷をかけることは避けられません。その意味で、住民なら良くて、観光客はダメだという理屈はありません。しかしながら、観光需要が「追加的に」負荷をかけるのは事実ですし、日常生活より旅行先での活動のほうが高い負荷となりやすいことも事実でしょう。

加えて、ホスピタリティ産業は、(負荷をかけている)自然環境を誘客に使っているのですから、その維持、保全に責任を負う立場にあります。

今回のクライシスを契機に、観光と環境の関係について、改めて、腰を据えて考え直すタイミングであると、私は思います。

ただでさえ、コロナによって多大な損害を受けている中で、さらなるコストアップにつながる環境対策を持ち出すのはナンセンスと感じる人も多いでしょう。しかしながら、コロナ禍に晒された顧客も、その意識をステップアップさせてくるはずです。

経験価値が重要な世界。社会的正義という側面だけでなく、マーケティングの観点からも、環境対策は必須となります。

地域で何ができるのか、何をすべきなのか、検討を進めていくことが必要でしょう。

6. 地域にフォーカスする

今回のコロナ禍による混乱は、ホスピタリティ産業−顧客の関係だけでなく、コミュニティにも及んでいます。

それは、観光客という「エイリアン」の来訪による感染リスクという恐怖です。

これまでも、観光客の来訪はコミュニティに多くの影響を及ぼしてきました。例えば、地域の伝統芸能が観光客向けにアレンジされてしまうという文化破壊であったり、地域の核となる商業地の店舗が生活者向けから観光客向けに切り替わってしまうという商業化問題。物価の上昇、治安の悪化などなど。

近年は、訪日客の増大によって、異文化衝突も顕在化していました。隣国に対する感情的な対立や、行動パターンの違いによるギャップ、外部資本参入に対する拒否感など。

それらは「オーバーツーリズム」といった概念でくくられていましたが、今回のコロナ禍は、人数によらず、域外からの人の来訪そのものが地域住民、コミュニティにとっての脅威になり得るということを現出してしまいました。

コミュニティが持つ、この恐怖心にも、寄り添っていくことが必要となります。

日本国内では「幸い」観光客が感染を媒介し、大規模な感染につながったケースは少ない(初期の中国客に関するものが主体)ですが、ハワイでは、その感染者の多くが観光関係であることが指摘されています。

※グラフ:ハワイ州保健省発表資料より

感染そのものは、感染症対策を徹底することで低減することができますが、人々が持つ「恐れ」は、感情的な反応ですから、そう簡単に拭い去ることはできません。

観光客に対して説明するのと同様に、場合によっては、それ以上の丁寧さをもってコミュニティに対して、しっかりと説明をしていくことが必要となってきます。

非常に難儀な話ではありますが、ポスト・コロナの挑戦権を得るのにあたり、これも必要な要件となるでしょう。

7. 拙速な集客活動は行わない

最後に。

とても重要なことは、コロナ禍が「収束」するまでは、集客活動を行わないということです。

私は、完全なロックダウンを回避し、限定されても一定の活動(例:少人数での飲食や、マイカーを利用し管理された旅館を利用した旅行など)は維持することを目指していますが、仮にそういう状態で推移できたとしても、着地側が明示的な集客活動を行うことは避けるべきだと思っています。

特に、割引券(プレミア旅行券)を使って広域からの集客を図ることは、安さで動くセグメント(感染上等)を呼び寄せることになるので、感染リスクを増大させる可能性が高く、推奨しません。

目の前の需要が無くなり、ホスピタリティ産業が厳しい状況にあるため、なんとか需要を戻したいと思うところですが、人の移動に伴う感染リスク、メカニズムが解明できていない以上、拙速な対応を行うことは避けるべきでしょう。

収束までの間、許されるのは、自律的に行動できる顧客と、それに対応できる同じく自律的な施設が協働で作り出せる余暇のみであると考えておきましょう。

自立ではなく、自律です。

さらに言えば、感染リスクの問題というだけでなく、需要の大幅減退という市場環境においては、集客活動は費用対効果も最悪の取り組みとなります。つまり、経済合理性の点でも、避けるべき取り組みでしょう。

特に、訪日系は、何をやっても需要は動きませんから、まったく意味がありません。「エージェントとの関係をつないでおきたい」という人もいるかもしれませんが、そもそも航空会社も旅行会社も持つかどうかわからないですし、ポスト・コロナ後の顧客の価値観は大きく変わりますから。従前のチャンネルがそのまま使える可能性は低いと考えておくべきだと言えます。

「収束」までの間は、プロモーションに使える資金や人材があるのであれば、それはすべて、産業を支え、ポスト・コロナに向けた取り組みに投入すべきでしょう。

産業に生命維持装置をつけ、その上で、ポスト・コロナにむけた取り組みを開始すること。それが今のDMOにとって、求められるミッションです。

出典:DISCUSSION OF DESTINATION BRANDING.  2020年度のDMO

原著掲載日:2020年4月2日

山田 雄一(やまだ ゆういち)

山田 雄一(やまだ ゆういち)

公益財団法人日本交通公社 観光政策研究部長 主席研究員/博士(社会工学)。建設業界勤務を経て、同財団研究員に就任。その後、観光庁や省庁などの公職・委員、複数大学における不動産・観光関連学部などでの職務を多数歴任。著者や論文、講演多数。現在は「地域ブランディング」を専門領域に調査研究に取り組んでいる。

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