米国DMOの人材育成制度とは? 幹部向け研修「CDME」で学ぶ地域との関係性とリーダーシップ【コラム】

こんにちは。DMOコンサルタントの丸山芳子です。実際に米国、欧州を現地調査した経験をもとに、日本のDMO(観光地域づくり法人)を支援しています。

前回のコラムでは、米国のディスティネーション・インターナショナル(DI)がDMO幹部向けに実施している人材育成制度、サーティファイド・ディスティネーション・マネジメント・エグゼクティブズ(CDME)の人気の理由、取得によってどんなメリットがあるかなどをまとめました。今回はさらに踏み込んで、実際に私が2019年に受講した「ディスティネーションにおけるリーダーシップ(Destination Leadership)」について、一部をご紹介します。

短時間で集中力要す濃密な内容

CDMEの研修要件は、必須4科目と、選択10 科目中2科目の修了です。必須科目は、講師から指定されたテーマの論文を講座後21日以内に提出し、合格点に達していると修了が認められます。選択科目に論文はありません。すべての研修が修了すると、卒業論文を提出。卒業論文は3つあり、2つは与えられた状況への対応を回答するもの、1つは調査研究です。全部の論文がCDME理事会で合格と認められると、CDMEの資格が与えられます。

「ディスティネーションにおけるリーダーシップ」は、私にとって4つ目の必須科目でした。必須科目の研修は、朝9時から夕方5時まで2日間。1科目で2日間と聞くと、意外と短く感じるかもしれません。CDME取得に必要な研修時間は、必須、選択科目を合計で88時間。日本の大学の一般的な授業が1コマ90分なので、換算するとCDMEは約60コマ、およそ2科目分に該当するボリュームです。2科目といっても、ほとんど双方向授業で集中力が求められます。受講者も産業人材で専門性も高いことから、かなり濃密な内容といえます。

科目修了後の論文の評価表。筆者のリーダーシップ科目の受講結果

DMOはマネジメントよりリーダーシップ

講師によって方針が異なりますが、概ね研修の10日から1週間前に、事前準備としてテキストと宿題が送付されます。2019年のリーダーシップ研修では、事前に確認すべきものとして、ウェブページの記事、Youtube、ポッドキャストのコンテンツが複数示されました。一例を挙げると、ハーバード・ビジネス・レビューの2015年の記事「心の知能指数がリーダーシップスキルで重要になった理由」(※1) といったものです。これらの予習はDMOの専門性に関するものというより、リーダーシップについて基本を確認することが主目的です。そのほかに指示されたコンテンツも、組織におけるモチベーション管理、コンフリクトが発生した場合の対応といった内容でした。

ところで、科目名でもある「リーダーシップ」とは何でしょうか。日本語でも日常会話で頻繁に使われます。経営学ではさまざまなとらえ方があるものの、一般に「マネジメント」は役職に与えられた職務や権限で人を動かすこと、「リーダーシップ」は役職などに関係なく、トップや先駆者として状況を変革し人を動かす能力と捉えられています。組織や地域を動かす能力として、マネジメントよりリーダーシップが重視されているのです。

DMOが地域で合意形成を図ろうとしたとき、既存の組織の権限や枠組みの中では解決できない課題も少なくありません。決められた職務を果たすマネジメントでは不足する部分があるため、DMOにとってリーダーシップが重要ということです。

取り上げる内容の専門性によって、外部講師も招かれる

地域にとっていかに観光が重要か

実際、CDMEの「ディスティネーションにおけるリーダーシップ」では、2日間で数多くのテーマを取り扱いました。特に印象的だったテーマは、「コミュニティの中でのリーダーシップ」。ディスティネーションが一丸となるために、DMOはリーダーシップを発揮しなければなりません。そのポイントは、地域にとって観光がいかに重要な産業であるのか、納得してもらうことです。

事例紹介として、米国メーン州のDMOが制作したビデオ(※2)が示されました。3分程度のビデオは、旅行者向けではなく、地域内への啓発を目的としたもの。しかも、いわゆる観光産業に直接従事する人は、ほとんど登場しません。コメントを話すのは、小学校の教師、カーディーラー、ホームセンターの経営者、不動産事業者、造園業者、小型船舶のレンタル事業者、民間の農産物直売所の人々です。

彼らは、口々に観光がどのように自分の仕事に役立っているかを説明します。たとえば、小学校の教師は、「子供の将来の仕事になると同時に、観光客を通して世界への接点が得られる」、カーディーラーは「観光客ではなく、観光が発展することで観光関連事業者が当社から車を購入してくれる」と力説していました。

DMOは、ホテルや観光施設だけではなく、地域全体が経済的、社会的な利益を得られるように目配りし、受け入れ態勢を整える必要があります。その観点からも、このメーン州のビデオには多くのヒントがありました。

不正や解雇の具体事例提示

一般的な日本人の感覚からすると、「そこまで対応が必要なのか」という内容も教わりました。たとえば、DMOにおける内部統制に関し、この2、3年間に米国で発生したDMOの使途不明金、不正支出などの事例も紹介されました。クラスメートからは「日本では米国の反省を生かして、失敗しないで」とも励まされました。

不正ではないものの、CEOの給料が高すぎると訴訟を起こされたケース対応の講義もありました。訴訟社会の米国では、このような訴訟はいつ発生してもおかしくありません。まず、訴訟にならないよう普段から報酬を公開しておくこと、いったん訴訟が起こされるとCEOは当事者として説明できなくなるため、部下やDMOを監理する理事会などに対して対策を指示しておくことなどが教えられます。

人材管理では、解雇への対応というセッションもありました。

米国では、出向制度はほぼありません。組織目標に応じて必要な人員手配を行うからです。SNS対応など新しい業務が必要であれば採用しますが、その代わりに必要性が低くなったり、廃止されたりする業務もあり、その人員が不要になれば解雇になります。DMOの場合、採用されるのは地元の人が多いことから、たとえ解雇することとなったとしても、地域内での立場を失わせないような配慮が必要だとの話がありました。

講師は、現役のDMO幹部のほか、必要に応じて、モチベーション向上、財務などのテーマごとに専門性が高いコンサルタントが、過去のDMOでの適用事例などを引き合いに出して解説を行います。日本の現況とは必ずしも同じではありませんが、ガバナンス機構として必要な事項の応用問題としてとらえ、備えることも重要です。

このようにCDMEは非常に充実した研修。受講は1科目ずつでも可能なので、ぜひ日本からも多くの人に参加していただきたいと思います。そういった人が増えるで、日本のディスティネーションやDMOの進歩につながるはずです。

参考情報:

※1 ハーバード・ビジネス・レビュー “How Emotional Intelligence Became a Key Leadership Skill”

※2  “I AM MAINE TOURISM” (Youtube:約3分間)

丸山芳子(まるやま よしこ)

丸山芳子(まるやま よしこ)

ワールド・ビジネス・アソシエイツ チーフ・コンサルタント、中小企業診断士。UNWTO(国連世界観光機関)や海外のDMOの調査、国内での地域支援など、観光に関して豊富な実績を有する海外DMOに関する専門家。特に米国のDMOの活動等に関し、米国、欧州各地のDMOと幅広いネットワークを持つ。DMO業界団体であるDestination International主催のDMO幹部向け資格「CDME(Certified Destination Management Executive)」の取得者。企業勤務時代は、調査・分析、プロモーションなどの分野でも活躍。

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