旅行マーケティングの最新トレンドと新顧客を開拓するSNS活用法、フェイスブック担当者が語った手法とは?【外電】

米国のオンライン・フィットネスサービス会社、ペロトン(Peloton)は、パンデミックで急成長したことで知られる。利用客との関係構築に力を入れ、自社の熱心なファン作りに成功した。

もちろん業種によって顧客からの要望は異なり、戦略も異なる。

とはいえマーケティングの世界で用いられる作戦には、共通点も多い。では旅行業においては、顧客の人物像をどのように探り出し、狙いを定めるべきなのか。

昨今の旅行ビジネスで広く活用されているパフォーマンス・マーケティングが威力を発揮するのか? それともインフルエンサー的な存在が必要? あるいはブランド・キャンペーンをマスメディアで展開したり、SNSでターゲット層に向けたメッセージを発信するべきか? また、投資効率を最大化するには、どのチャネルに、どのぐらいの予算を振り分けるべきかを知りたいとき、一体、何を参考にすればよいのか?

先ごろ開催されたオンラインイベント「トラベルテック・ショー2021」に出演したフェイスブック(その後社名変更、現在の社名は「メタ」)のインダストリー・マネジャー、マイケル・シャフリー氏に、マーケティングの最新トレンドを聞いた。聞き手はフォーカスライトのマネジングディレクター、ピート・コモー氏。

Q(フォーカスライト):最初に、マーケティング全般における最近の傾向として、過去18カ月ほどで消費のデジタル・チャネルへの移行が急激に進んだことがある。

あらゆる分野でデジタルやモバイル・チャネルが受け入れられるようになったが、フェイスブックはどうか? 

A(フェイスブック):ご指摘の通り、まさに急加速だった。米国ではロックダウンが始まると利用が爆発的に増加。あらゆるeコマースでこの傾向は顕著で、フェイスブックでもインスタグラムでも、すべての年齢層で激増した。ユーザーの年齢層は、フェイスブックが少し高く、インスタは少し若いというのは従来通り。

トラベル分野では、特に2021年に入ってから、クライアント企業の多くで、各社ウェブサイトへのトラフィック数の伸びは、グラフ枠外から飛び出すほどの勢い。そのほとんどがモバイルだ。もちろん数年前からこうした傾向は始まっていたが、コロナ禍で急増している。

Q:コロナ真っ只中では、予約はしないけど、理想の旅行を空想しながら楽しんでいたユーザーが多かったのではないでしょうか? 飛行機には乗らないけど、色々検索してみたり。

A:パートナー各社の話を総合すると、昨年12月までは、フェイスブックから企業サイトに移ったユーザーのほとんどは、色々と調べたり、ホテルやフライト情報を見るものの、予約は入れていなかった。こうしたサーチ・トラフィックは、実は昨年もずっと堅調だった。憧れや願望に動かされて、ビーチリゾートの画像を見たり。

そこから変化が出てきたのが昨年末から今年第一四半期で、検索だけではなく、予約も伸びて利用バランスがとれてきた。現在は、2019年と同じか、それ以前ぐらい。フェイスブックでも旅行予約の動きは戻ってきている。

Q:フェイスブックやインスタグラムを活用している旅行パートナー各社には、今、どのようなアドバイスをしていますか?

A:コロナ以前の消費者は、探しているものがはっきりしていて、それに合ったOTAや各種サイトをチェックしていたが、今の消費者の気持ちはもっと混沌としている。「自分がどこに行きたいのがよく分からない」「本当に私は旅行したいのかな」と迷いがある。そこでクライアントには、今までよりアップ・ファネルに目を向けるよう勧めている。

その際、効果的なのが動画だ。

旅心を刺激するのに一番パワフルで、特に行ったことがない未知のデスティネーションや、新しいサービス・商品に関心を持ってもらうのに適している。コロナの安全対策、空港やホテルで気を付けることの説明でさえ、ビデオの方がずっと関心を持ってもらえる。アップ・ファネルのユーザーに、どうやって興味を持ってもらうか、どうインスパイヤするか、そしてホテルやフライト予約へと動かすか。これにはコロナ以前、まだ十分に取り組んでなかったクライアント企業が多く、新境地でもある。

Q:「インスタグラム・リール」(15秒の短尺動画)や「インスタグラム・ストーリー」など新機能プロダクトへの関心は高くなっているのでしょうか。

フィードの中に広告を出すだけでなく、もう一歩、踏み込むようになっている?

A:そうですね、最近、注目されているものの一つが、動画広告「インストリーム・ビデオ」。これはTV広告に近い手法で、ブランドも訴求しつつ、ユーザーをインスパイヤし、ホテルやフライトの予約につなげる手法。インスタグラム・ストーリーやリール、フェイスブック・ウォッチ(投稿動画まとめ機能)内のミッドロール広告(動画の途中にはさむ広告)への関心は高くなっている。

Q:コロナ下の状況を追い風に成長した事例として、ペロトン社は興味深いですが、トラベル分野ではどんな手法が考えられるでしょうか。

既存の顧客ベースへのアピール強化や、新規顧客をターゲットとするクライアント企業に、フェイスブックでは、どんなサポートをしていますか?

A:フェイスブックでは、主に新しい顧客の開拓のサポートが中心になる。我々がクライアントに強く訴えているのは、特定グループや興味関心によるグループに対するソーシャル・リスニングやオーガニック・コンテンツ作成にもっと力を入れるべきというアドバイス。当社のツールでは、例えばフェイスブック・グループ機能が活用できるが、他にもあらゆるSNSを対象にやるべき。

ユーザーは、自分の旅行について、クライアント企業のブランドについて、あちこちで話題にしているものだ。クライアントには、こうした会話やグループ交流にもっと積極的に加わるべきだと話している。そうした交流から顧客のインサイトを得たり、貴重なデータが手に入るようになる。ただ、これは大変な作業になる。SNSにはノイズもあふれている。最適なツールとチームで臨み、チャンスを逃さないこと。将来の潜在顧客が誰で、その人たちはどんなことを喜ぶのか、把握できるようになるなど、膨大なメリットをもたらしてくれるはずだ。

Q:ソーシャル・マーケティングに非常に積極的なトラベル系企業の一つが、旅行アプリのホッパー(Hopper)だろう。同社では、様々なタイプの広告ユニットを試し、色々な戦略を練っているが、一貫した姿勢が「テストして学ぶ」こと。

同社の場合、ユーザーが若年層という特性はあるものの、様々なことを試して成果を見ながら進む、というスタイルが奏功している。例えば、「大きな予算を投じて大手代理店を使うこともあれば、社内でやることもあるが、意外にも後者の方が効果を出すこともある」と聞いた。

A:まさにその通りで、テストしてそこから学ぶ、を繰り返すこと、そしてアジリティ(変化に適応できる機敏な組織運営)が重要だ。コロナ禍で人々の欲求や需要はすっかり変わっているので、年間予定を組んでマーケティング計画を立てるやり方は、それが必要な部分も残るだろうが、充分ではない。

今、大成功しているホッパーのような企業が何をしているかというと、広告ユニットでも、クリエイティブでも、メッセージでも、とにかく試行錯誤。そこで効果が確認できた手法を即、強化するスピード感のあるクライアントが結果を出している。

Q:旅行分野では、他にどんな成功事例がありますか? 今は旅行先を検討している人が多いと思うので、例えばデスティネーション・マーケティングで、潜在的な訪問客とのつながりを開拓するのに成果を出しているところはありますか? 

もう一つ、オーセンティックであることも重要なキーポイントになっていることが様々な調査から浮かび上がっていますが、そのあたりいかがでしょう?

A:デスティネーション・マーケティングの成功に欠かせないのは動画だ。最も没入感を楽しめるコンテンツだからだ。昨今、フェイスブックに限らず、TikTok、ツイッター、スナップチャットなど、あらゆるソーシャル・プラットフォームで最も消費されているのも動画。動画がネイティブ・プラットフォームの時代に、5年前から使い続けている写真を表示しても、ユーザーの心は動かない。

自ら作成した動画、あるいはクリエイターが作成したものでも、例えば町で体験したことを実際に見せるようなものならエンゲージングなコンテンツになる。

またご指摘の通り、オーセンティシティ(本物であること)も絶対不可欠な要素だ。企業が特定の顧客セグメントをターゲットとして働きかけるとき、相手側は、あなたがその分野に関して、どこまでホンモノかを鋭くチェックしている。そういう場合は、そのセグメントを熟知したクリエイターの力を借りるのも一案だ。彼らは、企業がターゲットとしている顧客層の一員でもあるので、味方に引き入れる意義は大きい。

例えば、最近サステナビリティが話題だが、「我々はグリーンな航空会社です」「サステナブルなホテルです」と謳う文字を、既存の広告ビジュアルの上に張り付けて「サステナビリティ・キャンペーン」と呼んでも、永遠に成果は出ない。

我々はクリエイターの力量に絶大な信頼を持っている。どの分野でも、非常に関心が高い層というは、そこまで大きいマーケットにはなりえず、せいぜい数万~百万人ぐらいだが、この人々は超が付くほど熱心。こうした層に訴える時、クリエイターの力を借りると、「このブランド(企業)はホンモノだ」と認めてもらえるようになり、消費者の信頼という大きな成果を得ることにつながる。

Q:ホッパーでは、会話に参加することも大切だと指摘しています。

A:そうですね。例えばオーガニック・チームはSNS上での会話にもう少し参加するべきでしょう。いわゆる“マーケティング”の業務らしくないし、面倒なことも予想されるので、後ろ向きになる気持は分かる。

特に最初は、どうしても何かしらミスをしてしまう。例えばグループのメンバーに響かない発言をしてしまったり。ただ、それも一つの学びだと捉えれば無駄ではないし、そこから学んでいくのがパフォーマンス・マーケティング。グループに参加し、コメントしてみるべきだ。いつも気の利いた発言である必要もない。

Q:サステナビリティとオーセンティシティ、どちらも重要ですね。そのほかに付け加えるとはありますか? 昨今、ブランド各社が力を入れていること、利用者に響いていることは?

A:今、活況を呈しているのが発見型(ディスカバリー)コマースだ。冒頭でも触れた通り、誰もがいつもモバイルを手にしている時代なので、トラベル分野でも、デジタル空間で顧客からの要求を満たすだけでなく、需要そのものを創り出す策が必要になっている。フェイスブックが展開する発見型コマースの狙いは、クライアント企業とユーザーの間に、セレンディピティ的な形で接点が生まれ、そこから新しい需要が生まれること。もちろん効率よく、結果につながらなくてはいけない。

SNSやデジタル空間を、単に情報検索する場だと考えていないだろうか。ユーザーが言葉を入力し、検索ボタンをクリックし、ホテル情報ページに辿り着く、という流れだけで捉えるのではなく、動画などビジュアル要素を駆使して相手をインスパイヤし、18カ月ぶりに旅行に出かけよう!と思わせる場として活用してほしい。今まで、一番行きたかった旅行先のことも忘れてしまうような、新しいインパクトを与えてほしい。

Q:マーケティングにおいて、とても簡単で、やらないのはもったいない、という事はありますか?

A:簡単というより、レバレッジ効果が大きいという意味で、間違いなく、活用しないともったいないのがクリエイティブだ。例えば、トラベル関係のマーケティングでは、航空会社はいつも機体の画像を使うし、ホテルはビーチの画像を使う。だが先ほどのホッパーのように、クリエイティブについてもテストして結果を見ながら、スピーディーに改善していくことが重要。フェイスブックのエコシステム内には、頼りになり、コスト効率も良いパートナーがたくさんいるので活用してほしい。

2つ目は、組織内のサイロをなくし、情報の壁をなくすこと。ブランド担当とパフォーマンス担当の垣根をなくすこと。ファネルの上部にリーチして、需要を創出するところから、最終的にサービスや商品に満足してもらうところまで徹底するには、社内の組織が分断していては機能しない。昔から問題だったが、今や非常に深刻な問題だ。

そしてパズル完成に必要な最後のピースが、厳格なテストの徹底。もちろんスピード感は必要だが、デジタルの素晴らしいところは、1時間後、1日後にはもうテスト結果が分かるので、そこから得た新たな気づきや学びをすぐに活かすことができる。これが実行できれば、消費者がコロナ以前から激変している現状下でも、「今」の気分を把握しながら、常に最適化できる。

Q:次に着手するべきことは何でしょう? 動画が重要だと伺いましたが、その先は?

A:今年いっぱいは、やはり動画に力を入れるべきでしょう。フェイスブックでは、将来を見据えてARやVRに力を入れているところだが、今すぐ、この分野に大きく投資をと断言できる状況ではない。ただ、もしマーケティング担当部署で、AR・VRのこれからの可能性について何も議論しておらず、ロードマップも真っ白なら、今日から動き出した方がよい。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:VIDEO: NEW AUDIENCES AND WHERE TO SPEND YOUR TRAVEL MARKETING BUDGET

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