カナダ観光局が航空会社と組んで実施した、前例なきマーケティング施策とは? 上級会員制度に着目、テクノロジーも駆使【外電】

カナダ観光局では2021年9月、地域のデスティネーション・マーケティング組織が予算を出す活動としては前例のない新プログラムを実施した。アメリカン航空やデルタ航空など、米系キャリアのエリート会員ステータスを持つ米国の旅行者であれば、同等のステータスをエア・カナダでも獲得できる、いわゆる「ステータスマッチ」の仕組みを用いた期間限定のプロモーションだ。参加者は、エア・カナダの特典に加えてカナダでの体験も獲得することができる。

狙いは、頻繁に航空会社を利用しているお隣の国のフリークエントフライヤーに、もっとカナダへ旅行してもらうこと。そのきっかけとして、エア・カナダのエリート会員権に着目した。同観光局では、デスティネーション・マーケティング組織が展開するプロモーションとしては初の試みとしている。2021年9月末から始まり、12月末をもって申請受付を終了した。

「(今回の成果に)正直、とても期待している」と同観光局の最高マーケティング責任者、グロリア・ロリー氏は話す。「会員ステータスを換算できるようになり、対象者はこれから1年間、メリットを享受できる。我々にとってもチャンスなので、マーケティングをパーソナライズし、エンゲージメントの継続を目指す」。

結果をすべて把握するにはまだ時期尚早としているが、2万人近い有資格者からは、「かなり大きな反応」があったという。今後一年間、エリートステータスを維持するためには、1月15日までにエア・カナダ便を往復一回、予約・利用することが条件になっていたが、多くが利用した。

またキャンペーン参加者は、カナダ観光局によるワン・トゥ・ワン・マーケティングを申し込むこともできる。

ロリー氏によると「eメールのコミュニケーションで予想以上の好結果を得ている」。「現在、申し込まない人は全体の1%以下にとどまり、送信したメッセージの開封率は60%以上。これまで実施したものより、大幅に良い数字になっている」(同氏)。 

フリークエントフライヤー層は非常に重要な顧客セグメントであり、もっと開拓するべきだと同観光局では考えている。旅行一回当たりの消費額が高く、ビジネス目的が多い。つまり、地元経済にも恩恵がある。

「加えて、訪問先で新しい体験をすることにも関心が高い旅行者層なので、コミュニティ全般にとってありがたい」(ロリー氏)。

今回のステータスマッチ・キャンペーンを機に、同観光局では、こうした旅行者の生涯価値についても検討するようになった。さらに協力関係やプログラムの成果についても、もっと正確に比較したり、計測したりするべきだと考えるようになった。

「他の提携ブランドや航空会社、サプライヤー各社との活動においても、こうしたデータがあれば精度アップに役立つ」(ロリー氏)。

航空需要の回復を目指す

カナダ観光局では、他にも空の旅のプロモーションを展開しており、例えば国内旅行の販促ではカナダの航空会社、ウェストジェットとマーケティングキャンペーンを実施した。

将来的には、米系キャリアと一緒にできることも考えている。国境を越える旅行の販促活動を、お互いにメリットある形でどう進めていくか、クリエイティブなやり方を模索しているところだ。

「航空会社が座席稼働率の目標を達成できるようなマーケティングをやりたい。受け入れ地域側のコミュニティ支援にもつながるから」とロリー氏は話す。

「ステータスマッチ」を可能にしたテクノロジー

同観光局が今回のキャンペーンで頼りにしたのは、旅行テック系ベンダーのステータスマッチだ。ロイヤルティデータ社の系列で、拠点はシンガポール。エア・カナダのフリークエントフライヤープログラム(FFP)「アエロプラン」が直面した様々な課題解決をサポートした。

ステータスマッチでは2021年9月以降、ルフトハンザ・グループ、エミレーツ航空、フロンティア航空との間でもキャンペーンを実施している。

同社の共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のマーク・ロス‐スミス氏は「高額消費者に自社便を利用してもらいたいなら、ステータスマッチが最もコスト安かつ効率的な施策になる」と自負する。「営業をかけたり、エリート会員になれるマイル倍増プロモーションなどを展開するよりずっと効果がある」。

同社は完全に独立した事業体で、外部資金には頼っていない。利益は順調で、ロス‐スミス氏によると昨年は「売上7桁(100万ドル以上)」を達成した。

社内には、航空会社の経営幹部を務めた人材も抱えており、例えばヴァージン・オーストラリアで7年間、同社のFFP「Velocity」を率いたフィル・ガンター氏や、ヴァージン・アメリカの「Elevate」に長年、携わったスチュアート・ディニス氏など。同社が目指しているのは、航空会社から独立した専門家集団。外部のアウトソース先という立場から、FFPの価値アップにつながる新しい手法のスピーディな開拓を支援する。

ステータスマッチのキャンペーン実施において、問題となるのが申請内容の検証だ。詐欺行為は広く横行しており、虚偽内容を送ってくる人もいる。そこでステータスマッチでは、コンピューティング技術とデータベース活用によるクロスチェックを用いることで、不正行為を抑え、航空会社の負担軽減につなげている。

また同社は、顧客エンゲージメント強化に効果的なマーケティングのインターフェース作りも専門分野の一つだ。

状況に応じて、完全にホワイトレーベル(顧客企業のブランド名)でのサービス提供も行っている。

ロス‐スミス氏は「請求やクレジットカード会社との決済業務、インターフェースの設計やホスト業務、顧客からの質問対応などもできる」と説明する。「フロンティア航空のプロモーションでは、ホテル15社のエリート会員プログラムから、同航空プログラムへのマッチングを受け付けた。利用客にとっては嬉しいことだが、プロジェクト業務は一層、複雑になってしまう。そこで当社の出番という訳だ」。

カナダ観光局の新しい試みをどう評価するべきか、最終結論が出るのはまだ先になりそうだ。キャンペーン効果をすべて把握するには、1年間のデータが必要だ。とはいえ、出足はなかなか好調だったようだ。

「少なくとも私が知る限りでは、他のステータスマッチと比べて、ずば抜けて良い状況」とロス‐スミス氏は話した。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Destination Canada’s Unique Status-Match Promotion With Air Canada Shows Promise

著者: Sean O'Neill

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