どうなる旅行ビジネスの後払い(BNPL)、アップル参入は追い風か? 競争激化の動向をまとめた【外電】

「買うのは今、払うのは後(buy now and pay later=BNPL)」にできる後払い決済サービスは、パンデミック下の旅行ビジネスで人気を博してきた。

旅行意欲がようやく戻ってきた今、消費者が求めているのも、こうしたフレキシブルで手が出しやすい決済手法が選択肢にあることだ。高額商品を購入する時の不安が少ない上、利息もかからない。

旅行を販売する事業者側にとっても、新規顧客の開拓につながる。また分割払いができると、成約率や平均購入額もアップする。

旅行テック企業iSeatzによると、チェックアウト時にBNPL方式が選べる場合、成約率は20~30%、平均購入チケット額は30~50%ほど高くなるという。

旅行者は、購入額が増えても気にならない。アマデウスの調査では、世界の旅行者の68%が、BNPLがあるなら例年よりも多く夏の旅行に消費しても大丈夫だと感じる、と回答。同様に49%の人が、アンシラリーサービス(付帯料金)を購入する可能性が高くなる、と答えた。

パンデミック以前から、Affirm、Uplift、Fly Now Pay Laterなどのフィンテック各社は、旅行商品の購入で利用できるBNPL決済を提供していたが、ここ2年間で取扱いが急増したという。

最大手の一社、Affirmでは、アメリカン航空、エクスぺディア、ヴァカーサとパートナーシップを組んでおり、2021年1月の上場時は時価総額240億ドル(約3兆1200億円)となった。カリフォルニアを拠点とするUpliftは、提携する事業者が、当初の60社から300社へと拡大。英国のFly Now Pay Laterは2022年の資金調達で7500万ドルを獲得した。

旅行業界でもコロナ危機を受けて、デルタ航空、アゴダ、チープ・オー・エアなどがBNPLを選べるオプションを提供するようになった。

こうした各社間の競争は、概ね、公平で健全と呼べるものだったが、状況は動いた。世界最強のブランド、アップルがこの分野への参入を発表した。

この先の勝算は?

2022年6月初旬にアップルが明らかにした後払いサービス「アップルペイ・レイター」は、購入代金を4回に分割して払えるもの。分割払いの間隔は2週間ごと。マスターカードの分割払いプログラムを組み込むことで、アップルペイ・レイターで買い物できるようにする。サービス開始は今秋からを予定しており、すでにアップルペイでの支払いを受け付けている事業者は、自動的にこのオプションも追加利用できる。

この発表後、Affirmの株価は5%下落した。ペイパルはすぐにニュースリリースを出し、同じく代金を4分割できる同社の既存サービス「ペイ・イン4」に続く新商品、「ペイパル・ペイ・マンスリー」導入を発表した。

アップル参戦で、Affirmの立場はどうなるのか聞くと、「今の消費者は特に、クレジットカードよりも透明性が高く、フレキシブルな選択肢を求めている。これをすでに10年近く前から提供してきたのが我々で、決済手法もパーソナライズし、分割払いは6週間から60カ月まで対応できる。支払い期限に幅を持たせつつ、消費者がきちんと完済できるようにサポートする一方、ネットサーフィンしているだけだった人を購入者に変えて、販売側の事業成長にも貢献している」(Affirm広報)。

「現在、当社と提携している販売事業者は20万社以上。消費者は、Affirmのアプリを使って、ほとんどの店でオンラインショッピングができる。我々が開拓してきたところに他社が続々参入してきたとしても、需要はまだ充分にあるし、Affirmの優位性も変わらない。当社と同レベルのこと、同じテクノロジーを提供するのは無理だろう」と話した。

Upliftの最高商務責任者(CCO)トム・ボッツ氏も、アップルの動きは、旅行に特化したプレイヤーにとってはむしろ追い風との考えだ。「BNPLは時代に即した重要なサービスだという信任票を得たようなもの。消費者や事業者にとって価値があると判断したからこそ、(アップルやペイパルなど)決済大手企業がこの領域に投資してくる。同時に、この分野がまだ成長途上にあり、一社だけが一人勝ちする段階にはないということ」との見方だ。

「新しく登場するプロダクトがどんなものになるか、まずはお手並み拝見。ただし、旅行商品は平均決済額が大きいので、よくある‘4分割払い’では使いづらいだろう。例えば、1000ドル(約13万円)のクルーズ代を2週間毎に250ドル(約3万2500円)ずつ払えるとしても、それほど楽になったり、成約率に差が出るとは思えない。だが12カ月ローンで払えるなら、かなり違いがある」(同氏)。

アマデウスのマーチャントサービス・決済担当責任者、ジャン・クリストフ・ラクール氏は、フィンテック需要は何年もかけて、少しずつだが着実に伸びてきたと指摘し、アップルなど、消費者サービスを扱うテクノロジー企業が分割払いを手掛けることは、当然、予想されていたと言う。

一方、この間に、旅行業に特化したBNPLサービスに磨きをかけてきた各社もあり、「BNPL決済を考えている旅行事業者や旅行者にとっては、有力な選択肢になる。ビジネスをよく分かっているし、消費者がどういう時に後払いを選ぶのか知っている。例えば旅行でよくあるのは、フライトや休暇内容のアップグレードを検討している場合だ」。

ボッツ氏は「BNPL事業者は増えており、競争も激しくなってくる。プロダクトが平均以下だったり、カスタマーエクスペリエンスがお粗末だったりするところは淘汰されるだろう。旅行分野に強いUpliftならではの優れたプロダクト、トラベル系パートナー企業や旅行者にとって価値あるものを提供していく」と話した。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:WHAT APPLE’S BNPL OFFERING MEANS FOR TRAVEL

著者:ジル・メンゼ氏

※ドル円換算は1ドル130円でトラベルボイス編集部が算出

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